若くして亡くなってしまった天才
裏切られた感のある小説
ハーモニーは伊藤計劃さんがデビューした虐殺機関を意識して書かれた小説であるとあとがきでもありましたが、前後作を知らなくてもこれ単体で十分楽しめるのが素晴らしいです。ただし、このハーモニーに登場する人物たちの発音は少々難しいです。
デビューして何故2年ほどで亡くなってしまったのか、(私は彼が亡くなった後で伊藤計劃という人物を知ることになりました。)それだけでももっと作品を読みたかった私としては裏切られた感があるのに、内容もわりと最後まで裏切ってくれます。
思い通りの展開・ストーリー、全部が丸く収まって全員がハッピーエンド、ありきたりな受け狙いなんて嫌いだね、まっぴらごめんだ、という私のようなひねくれ者にはいい作品だといえるでしょう。
感情が薄そうに見える主人公
私が好きな某漫画家さんもそうなのですが、この方も主人公がそんなに情熱的・熱血的……少なくともものすごく感情を表に出す主人公を描かないのです。(このハーモニーの主人公はのっけからだいぶ荒れてはいますが。)しかし何故かそこから除く人間らしい揺らぎ、応援したくなる気持ちを訪仏させます。
今回の主人公が女の子(女性)であったというのも個人的にはかなり高ポイント。どんなに鍛えていたって今迄みたいに男性と次々に肉弾戦はできんぞ、さぁ、どうするんだ?というのも見どころの一つではありました。
ここからはネタバレを含むのですが(苦手な人は見ないでください。)友人の死を目の前に直視してしまったり、死んだはずの友人が浮上してきたり、それでも復讐を表にあまり見せず内包したまま進んでいく主人公は危うさあり、強さありで見どころ満載です。
本当にそれが幸せであるのか?
<本当にそれは、幸せであるといえるのだろうか?>この小説はこの部分を大きく意識させられます。
病死することはないけれど、人間として正常に備わっている感情を高ぶりすぎていると抑制されたり、体に害が大きいからと娯楽を排除されていたり、私たちが持っている「プライバシー」というものは、(必要が)なくなって大人の事情という意味でつかわれるいやらしいものとされていたり……。
悲しくても感情を高ぶらせて大泣きすることもできないのです、怒りで血圧が上がることもなく、平安でいることを24時間、365日ずっと体内のモニターで監視され続けるのです。
人間であれば全員が十人十色、別々の考えを持ちますが、それすらも戦い・争いを生むと言われるのです。それは、人間という不安定なものとして生まれてきた私たちには本当に幸せなことなのでしょうか?皆同じであれば、本当に幸せなのでしょうか?
お酒やたばこは確かに体に有害です。ですが、お酒が消えればどうでしょう?ケーキのシロップに使われるブランデーも消えます。ケーキの味の深さやしっとり感がなくなります。調理酒は?みりんにだってわずかながらには入っていたはずです。そのあたりは描かれることはありませんが、死ぬならお酒をたっぷり飲んで死んでやる、または甘党だからこのまま糖分過多になったって幸せだからいいの!という人だっているでしょう。人の幸せはその人によって様々です。それを制限されるとなったら、人は長生きできるのかもしれない、でもそれは本当に幸せなの?というところを何度も考えさせてくれます。
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