しっくりこなさの正体、われわれはいつの間にかりりこの奴隷となっていた - ヘルタースケルターの感想

理解が深まる漫画レビューサイト

漫画レビュー数 3,135件

ヘルタースケルター

4.084.08
画力
3.38
ストーリー
4.33
キャラクター
3.88
設定
4.02
演出
4.08
感想数
4
読んだ人
7

しっくりこなさの正体、われわれはいつの間にかりりこの奴隷となっていた

3.03.0
画力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
3.0

目次

なかなか書けないレビュー

この作品、麻田の哲学的な問いかけをかき集めてかっこよく考察することはできる。りりこの心理を予想し解説することもできる。しかし、本作を自分がどう思うか、を考えた時何度やってもまとめることができなかった。試しにこの作品をなるべく短い言葉で表らしてみよう。「荒唐無稽」・・・ちょっと違う。「自業自得」・・・いや、全然違う。シンプルに「面白かった」「衝撃を受けた」というものでもない。「考えさせられた」「興味深い」、レビューや感想によく使われる言葉が、どれも当てはまるようでしっくりこない。考えた末にある程度腹が決まってきたのは5回ほど読み直してからだ。この作品の味はこの「しっくりこなさ」なのではないだろうか、と思うようになった。その「しっくりこなさ」は何か、それは冒頭から登場する名もない複数の一般人が実は自分たちである、という認識ができずに読んでいた時の感想だ。

読みにくい前半 

前半は正直なところ「読みにくい」が主たる感想だった。決してうまい絵ではないし、ラフな感じのタッチが味でもあるのだろうが、自分にとってはキャラの見分けがつきにくいことが先行した。破滅をにおわせる雰囲気は最初から漂っており、りりこの没落で終わるのだろう、と予想するが思うほどには「破滅」は始まらない。読みにくいままどうしたものか、と惰性で続けていたつもりがいつの間にか作者の術に落ちている自分に気づく。

中盤、羽田がりりこに性的サービスを要求されるあたりで、意地悪でクレイジーな女りりこのはずなのに「この程度か?」という感想も持つ。彼女はもっと悪辣でひどいことをするか、より激しい快楽を求める女ではないのか、というある種の期待外れ感がある。しかしそれこそが作者の意図であり罠だ。

羽田とのレズシーン、彼氏を含む乱交などではりりこは加害側ながら冷静と孤高を保っているのに対し、被害者(?)側の二人はボロボロになり蟻地獄に落ちていく。ここで作者はタイガーリリィと凡人の書き分けたのだ。「凡人」とは読んでいる我々そのものだ。羽田が局所を舐めさせられたとき、われわれは羽田となり、もっとひどい仕打ちを与えてください、と考えたのではないか。この時点でその程度で終わったがゆえに、次はもっと強い刺激が来ることを期待する。次には「期待通り」彼氏を巻き込んだ乱交、おもちゃを使用した拷問プレイなどが繰り広げられていく。こうして羽田と我々はりりこに刺激を懇願する奴隷になった。ショックを受けつつも、こんなものでは足りないんです、もっと強い刺激を、もっと激しい快楽を、与えてくださいりりこ様、と思っていたのだ。羽田はこの時点で逃げ出すことができたのにそうしない。我々も本を閉じることができたのに読み続ける。りりこは自分たちをより深い快楽の境地に連れて行ってくれるという期待があるのだ。それほどにりりこはサディスティックに、しかも美しく作り出されている。もはや女王であり神と言ってもいい存在となっていく。

しかしそれは凡人である羽田から見た姿であり、実際のりりこは副作用や薬に侵された壊れる寸前のからくり人形でしかない。羽田には見えないが読者である我々にはそのカウントダウンが始まっていることが告げられている。我々は豚同然の性奴隷であることを望みつつ、同時にりりこ没落のビッグショーを期待するハイエナに仕立て上げられていく。これらがすべて作者の意図であり、この仕組みに気づいたとき、「しっくりこなさ」が解消される。稚拙な田辺恵美利襲撃事件、町でりりこをあがめる一般人女子、没落するりりこを奇異の目で見る人々、これらは全てゲスな野次馬である自分たちだ、と理解した時、初めてりりこが自分たちとは違う存在であると気づく。

そして没落、しかしそれはさりげなくおとずれる

意外にも没落のシーンはさりげなく描かれる。りりこの素肌と作り上げられた幻影の両方を熟知しているキンちゃんによるコメントがカウントダウンの役割を果たす。この時が最高にきれいだった、と表現するときはもはや腐って崩れ落ちる果実同然であるりりこ。また序盤から登場しているものの徐々に出番が多くなる麻田は、りりこを追い詰める役をこなすのかと思いきや、むしろ同類ですらあるような気配を漂わせる。この麻田の存在が、展開を単なる退廃的なものにせず、りりこを危うい女神として強調していく(麻田はそうは思っていないが我々凡人は麻田のコメントでそう思うようになる)。

余談になるが、この退廃と哲学が同居する雰囲気は安達哲の「キラキラ!」や「お天気お姉さん」を思い出す。性表現、一見自分さえ良ければいいと思っているものの実は内面の自分と戦っている、などの要素も近いかもしれない。「キラキラ!」は少年誌掲載であったこともあり直接的性行は描かれないがりりこが敵視する金持ちの御曹司の結婚相手が「えみり」であることも不思議な符号だと私は思う。

最終シーンはイメージ?現実?

海外の場末の見世物としてステージに立つりりこ。それを見つけたこずえの驚き。物語はそこで終わり、明確なこずえの感想やりりこの状況は全く描かれない。そこまでの流れで専門医がいなければあの美しい姿を保てるはずがない事は我々は知っている。ではあれがこずえが見た幻だ、とかいうのも意味がない。無理やり説明しようとするなら、りりこオマージュの別人とか、妹ののちの姿とか、考えることは可能だが、私はあえて不整合でもそれがりりこ、と言いたい。おそらくだが作者はりりこの破滅へ向かう姿と、あのラストを整合しないとしても書きたかったのだ。むしろ「ありえない」と思わせることが狙いであり、りりこというキャラの完結なのかもしれない。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

ヘルタースケルターを読んで思った感想

独特な世界観に引き込まれる。ヘルタースケルターは、独特な世界観をもった漫画になっており美容、ファッションに興味ある方たちはきっとハマるのではないのでしょうか。私が美容の専門学校に行っていた頃マンガとは別にヘルタースケルターが実写の映画化をしていたのですが、私は映画公開前からヘルタースケルターを読んでおりとても楽しみにしていました。美容専門学校の同じクラスメイトの子達も漫画は見たことないけど見てみたい!見に行く!と言った子が多く、私も美容専門学校の子たちと見に行きました。ヘルタースケルターのオシャレでエロチックな世界観にみんなが喜んでいました。オシャレの参考にしたい!とても面白いとみんなが口を揃えて言っていました。このヘルタースケルター以外みんなが絶賛している映画はなかったです。私がマンガの実写化だよっと教えるとみんなが貸して欲しいといいました。なので私はみんなに読んで欲しかったのでみん...この感想を読む

4.54.5
  • なおなお
  • 240view
  • 2112文字
PICKUP

りりこは世の女性達の投影

スターりりここの漫画のざっくりとしたストーリーは、全身整形で美貌を手にしたりりこの身体が整形の後遺症で崩れていくという恐怖の絵図です。私が思うに、りりこは世の女性達の投影だと思います。女に産まれたからには、綺麗でいたい、男性にチヤホヤされたいという気持ちは誰にでもあると思います。それがいきすぎてしまったのがりりこで、理想を求め過ぎて本当の幸せを見失ってしまうのです。では、りりこにとっての本当の幸せとは何かとなるのですが、醜かった頃の自分を捨てて今のりりこは、全てが作り物です。そんな自分をチヤホヤしないで、私を見て欲しいという叫び声が聞こえてくるような気がします。自暴自棄や暴言や乱暴な一面は自分をわかって欲しいという甘えに見えます。スターという肩書きを手にして大切なものを置き去りにしてしまったのでしょう。後遺症で身も心もボロボロ身体に痣ができて、それがどんどん増えていく整形の後遺症がメン...この感想を読む

4.84.8
  • 果実果実
  • 146view
  • 1004文字

感想をもっと見る(4件)

関連するタグ

ヘルタースケルターを読んだ人はこんな漫画も読んでいます

ヘルタースケルターが好きな人におすすめの漫画

ページの先頭へ