BLでもホモでもない、新しい同性愛漫画
同性愛を扱っているがキャラクター本人にその自覚がない
鈴木君という男性キャラが佐藤君という女の子っぽい男性キャラを好きになってストーカーのごとく追い回す漫画だが、どろどろした部分が一切ない。そもそも佐藤君を追い回している鈴木君自体が、同性愛という自覚が全くなく、「俺は男が好きなのではなく佐藤が好きなだけだ」と言っており、男女を超越して好きなのが、佐藤君を男性だと思っておらず、女性として好意を持っているらしい。BLでも同性愛物とも違う、不思議なストーリー展開になっている。HENの大半は鈴木君と佐藤君の恋愛だが、2巻だけは山田さんと吉田さんという女の子同士の恋愛が描かれている。こちらはレズっぽい展開であるが、こちらも吉田さんは「女子が好きというより山田さんが好き」と言っており、男性編の鈴木君と同じ考えで好きな相手に言い寄っているストーリーである。
結末に説得力がない終わり方
HENは、喧嘩や漫画対決、原因不明の失明など、鈴木君と佐藤君が色々なトラブルや対決に巻き込まれる。しかし、その結末はいずれも、「こんなの苦労して解決したのにだからなんだったんだろう」という、どこか説得力がない形になっている。この何とも言えない不条理さを感じる終わり方は、短編やその後の連載、GANTZやめ~てるの気持ちと言った作品にも共通するが、奥浩哉氏特有の「いい意味で読者を裏切るどんでん返し」を感じさせる。
物語の落ち自体より過程を楽しむ漫画だと思うと、やや不条理な落ちでもこれで良かったのではと思えてしまうところが不思議である。
科学的根拠などが面白く、読みやすい
鈴木君が漫画を描く勝負に勝ったら佐藤君と付き合える対決をライバル冴木とした際、常々佐藤君の女性的な可愛らしさに惹かれている鈴木君は、佐藤君が実は女性なのではと思い始める。生物の先生から外見はほとんど女性だけど遺伝子を調べると男性だったというスポーツ選手の話を聞くなどのエピソードは、読んでいる読者も勉強になる。最近は中性的な男性や女性も多いことから、男女の区別が外見だけでは判断できない人に会うことも多いので、もしかしたら鈴木君のように女性だという認識で好きになってしまった人が男性だったということも出てくるかもしれないと思わされる。ジェンダーの問題は近年デリケートな問題になりつつあるが、誰も傷つけることなく爽やかに読める配慮がなされている作品である。この作品の面白さは、男が男に惹かれるという問題を扱っていながらも、個々のエピソードがとても面白く読め、続きが気になるところで物語を区切ってあるため、非常にスピーディにすらすら読めてしまう点にある。まだ奥氏がパソコンを使った作画を開始する前の作品であるが、漫画っぽい可愛らしい画風も、あっさりしていて読み手を疲れさせない。作者自身が、とても楽しんで描いている漫画という印象で、あっという間に興味深い世界に放り込まれてしまう作品である。
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