夭折の女性作家の生き様 - にごりえ・たけくらべの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

にごりえ・たけくらべ

4.504.50
文章力
5.00
ストーリー
4.00
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
5.00
感想数
1
読んだ人
1

夭折の女性作家の生き様

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
5.0

目次

お札の顔

5000円札の肖像としてお馴染みの樋口一葉ですが、どんな人物であったのか、一般的には知られていないことも多いと思います。彼女は24歳でこの世を去っており、作家として活躍したのは実質4年間でした。また、この短編集に載せられている「たけくらべ」や「にごりえ」といった代表作となる作品は、亡くなる一年ほど前に集中して発表されています。この時期については、<奇跡の一四ヶ月間>と呼ばれるほどで、亡くなる前の一四ヶ月間に傑作を集中して発表したと言われています。そのため、この短編集に載せられている文章は、彼女の人生を削りながら生み出されたものなのです。だからこそ、このような力強い言葉が今でも愛されているのでしょう。

独自の文体

当時の文壇では、言文一致という動きが見られ、話し言葉を用いて文学作品を執筆しようとする動きが盛んでした。ところが、一目見ればわかる通りに、樋口一葉はそのような動きに流されることがありませんでした。彼女の文章の特徴は、現在の小説に慣れた人にとっては大変に読みにくい、雅俗折衷体とも言うべき文体です。しかし、これこそが一葉作品の魅力でもあるのだと思います。「たけくらべ」の冒頭「廻れば大門の見返り柳いと長けれど」から始まる文章は、読みにくさを感じさせながらも独自のリズムがあり、どこか人を惹きつける力が備わっています。また「にごりえ」の「あゝ嫌だ嫌だ嫌だ」から始まるお力の独白は、一気に畳みかける文章で、現代の私たちにも迫ってくるような勢いがあります。このように、「古さ」と「新しさ」が混在している点こそ、一葉のすごさであるのではないでしょうか。

女性の生き様?

一葉作品の特徴として、様々な女性を主人公としていることが挙げられます。当時の社会ではまだまだ女性の権利は剥奪されており、「家」という大きな力に縛り付けられる存在でした。一葉は、そのような女性の苦悩や悲しみを、多く書いた作家であると言われています。しかし、本当にそれだけなのでしょうか。一葉作品には、女性の悲しみだけではなく、男性の生きにくさや悩みも書かれているとは読めないでしょうか。すなわち、樋口一葉とは、鋭い視線で社会を見つめ、「人間」の悲しさや愛おしさを美しい文体で描いた作家であると思います。彼女の見つめた社会の暗部は、現代の私たちにとっても、考えなければならない問題が含まれていると思います。だからこそ、このような100年以上も前の作品に、感動を覚えてしまうのでしょう。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

にごりえ・たけくらべが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ