読み方 - 壊れる心の感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

壊れる心

3.503.50
文章力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
3.50
感想数
1
読んだ人
3

読み方

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

自動車事故の予測不能な事件「後」の顛末

大規模な死者の出た、自動車衝突事故。この事故をベースに、犯罪被害者支援課が中心となり、物語は動き出す。支援課の警部補が主人公であり、冒頭の自動車事故の描写以外は、常に彼の視点で話は展開する。冒頭の自動車事故の描写では、亡くなった妊婦の視点である。これが暗示するかのごとく、被害者家族の中でも、特に、妻とお腹の子どもを失った、夫の動きが鍵となる。そして、被害者が加害者に変わった瞬間の主人公を始めとする支援課の動きも鮮やかである。支援課として、警察官として、そして、後ろ暗い過去を抱えた1人の男として、と様々な感情と生き様を持つ主人公の視点、そして、被害者家族の視点など色々な立場から読み解くことが重要だと考えられる。

多読必須の深くて濃い内容

先述した通り、1度目は、主人公の視点で内容把握と目まぐるしい展開を追いながら読み進めることとなるだろうが、2度目以降は是非、主人公以外の登場人物に焦点を当ててみたい。まずは被害者家族の1人であり、妻とお腹の子を亡くした夫の視点。1度読んだ時点で、彼の性格、そして展開はおおよそ理解できるものと踏まえ、「どういう感情の変化で自らが加害者となり、犯人への『復讐』を目的に行動を起こすのか。」を考えながら読むと興味深い。なくしたものは取り戻せないとは分かってはいながらも、真実を掴み、愛する家族を奪った「敵」に一矢報いたいという心情。やるせなさ、感情の起伏、現実。読み手によっても見えてくるものは異なるかもしれないが、到達する問題は必ず共通すると考えられる。それは「被害者の支援のあり方とは?」である。どの事件も、また亡くした人も千差万別であり、簡単なものではない。主人公の支援のあり方は、正しいものだったのか、そもそも正解はあるのか、重大な「事」(この物語の場合では、復讐のための人質立てこもり)を防ぐ手立てはなかったのかなど、考えさせられる点が多々ある。刑事課など、捜査側に焦点を当てたサスペンスは多々あるが、被害者支援課を舞台にした物語だからこそ、見えてくる側面が増える、新しい小説である。

個性豊かなキャラクター

登場するキャラクターも個性豊かである。物語の描き方としては、過去に自動車事故被害に遭った主人公にしては「冷静」で理性的に淡々と展開されていく。これは、敢えて他のキャラクターを際立たせる為の「抑揚づけ」の意義を果たしているとも考えられる。もちろん、主人公の感情が滲み出る場面も時折あるが、客観的で冷静に描写されている。数ある登場人物の中でも、下記の2人に着目したい。

(1) 主人公のバディである女警部補

支援課の警部補であり、主人公の仕事の「バディ」として、ともに行動している。彼女の特徴としては、この小説の登場人物の中でも最も冷静で頭脳明晰な印象だ。常に冷静に、必要な行動を適切に素早く起こしている。彼女の存在は、主人公の理性ではなく感情に先立つ行動や発言を時に見守り、時にはセーブさせる重要な役割を果たしている。ただ、主人公の過去に関する事については、時折彼女の心情が露わになる発言が多く、普段何事にも落ち着き冷静な彼女が重要な局面で感情の変化を表に出す様子が、より話の展開の動きの大きさを示している。

(2) 初期支援員の若い女性

彼女の存在は、支援課としての、被害者との向き合い方を考えさせる要因ともなっている。「警視庁犯罪被害者支援課」として、「仕事」として被害者と対峙するのは当然ではあるが、それを全面に被害者家族に押し出すべきものなのか、本当に被害者家族が求めていることはという直接的な問題を彼女の被害者(特に大住氏)との対峙によって、浮かび上がらせている。業務ではあるが、マニュアル通りに全てが進むわけではない。そして何より厳しいのは、彼女が初めて支援課として一時的ではあるが赴任し、被害者家族の感情を理解しきれない状況で、臨んでいることだ。何から学べば良いか分からない状況で、マニュアルに頼りたく、いやすがりたくなる心情も理解できる。そこに主人公の「マニュアルにはない」動きを目の当たりにし、「支援課」の一員として変化し、成長していく彼女の姿は、とても展開を進める上で興味深い要素の1つと言える。

もちろん、上記の2人以外にも、交通課の刑事や、支援センターや、そこで働く主人公の元恋人など、キーとなる人物、場所は沢山存在する。ただ、この事件と主人公自身に最も深く関わる重要人物としてこの2人の女性を挙げた。特に、(2)で挙げた、初期支援員の女性に関しては主人公自身の信頼関係の築き方や、変化などが如実に表れるために、こうした他の登場人物の側を主としてこの小説を読み進めるのも面白いと思われる。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

壊れる心が好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ