傍観者だった主役をヒーローにした漫画
原作は実写映画化もされた問題作。グロテスクな描写に注意
バトルロワイアルは、国家の命令で中学生がクラスメイト同士で殺しあうという大変理不尽極まりない世界が描かれている。殺し合いなので当然のことながら原作も目を覆いたくなるようなシーンが描かれており、田口雅之氏による漫画化以前に実写映画化された際も、かなり残虐な殺戮シーンがあった。
そして漫画版であるが、原作、実写、漫画という三つの媒体の中で、殺害シーンの残虐さは最もグロテスクだと言える。おそらく各媒体で表現の許容範囲というものが異なっているのだと思われるが、中にが見開き2ページで恐ろしい残虐シーンが描かれているため、ページをめくったとたんに「うわっ」と声をあげてしまう人もいるのではないかと思われる。
初めてこの漫画を手に取る人には、中学生にしてはやや登場人物が大人っぽいのではないかと感じるのではないかと思う。しかし、読み進めるうちに田口氏特有のキラキラした目の輝きを持った登場人物からあどけなさを感じ、どのキャラクターも残虐なシーンが多い中「憎めない中学生」に見えてくるのが面白い。残虐なシーンが多いからこそ、中学生らしい学生生活の回想シーンに、温かみを感じるのも特徴である。
漫画オリジナルの原作の改変が秀逸
漫画版では、必ずしも原作に忠実でないエピソードがいくつかある。それについてはファンの中では賛否もあるものの、漫画版ならではの良さがあることは否めない。漫画版では、原作より殺戮描写が残虐な物の、救いがある分としては「理不尽な中にあっても正義の心を持つこと」の大切さが土台にしっかりあり、ある程度その精神論を持った生徒が報われるシーンが多い。
もっとも大半の生徒は殺害されてしまうのだが、殺人プログラムに放り込まれる前の日常の経験を生かし、またプログラム中に自分がどうあることが大事なのか模索することで、精神的に個々のキャラクターが成長していく様がしっかり描かれている。これは原作にはあまり見られない描写であり、原作で高見広春氏が描き切れなかったキャラクター同士の絆や魅力を、田口氏がストーリーを若干改変することで見事に補完している。原作の魅力は、正義感を持っていようが何だろうが理不尽に殺されてしまう点が、ある意味リアリティを伴っている点にある。それに対し、漫画版の魅力はある程度正義を貫こうとしたキャラは精神的に救われたり命を長らえていることであり、正義が報われないことにフラストレーションを感じる人には漫画版の展開の方が読みやすいのではないだろうか。
特に改変に賛否があるのが、クラスメイトの一人、憲法の使い手の「杉村弘樹」の動向である。原作では彼は探し求めた好きな女子(琴弾加代子)に出くわした直後にあっけなく殺害されてしまうという最期であり、実写映画でも原作にほぼ忠実に表現されている。しかし、漫画版の杉村は、主人公七原たちと生き残る約束をし、琴弾加代子を何としても守ると誓う。そして琴弾加代子を発見後も彼女の信頼を得てしばらく行動を共にするのだ。もう少しのところで主人公七原と合流できそうなところで彼女共々殺害されてしまうが、その過程で自分が拳法を学びながらも怖れた「暴力」との対峙の仕方について一つの答えを出すところに救いを感じる。
もう一人の人気キャラクター、唯一爆発物やコンピューターのハッキングの知識を持つ天才三村信史にしても、原作では主人公七原との関係が非常に希薄で、それなりに魅力的なキャラクターにもかかわらず、七原と全く共闘しない点にやや不完全燃焼を感じさせた。しかし漫画版では共闘シーンこそないものの、瀕死の状態の三村が七原宛にメッセージを残すことで、自分が仲間を信頼しきれていなかったことに人生の最後に気づくシーンから、死の間際に「友を信用して後を託す」という彼の成長した証を残せるシーンに改変されている。これは原作を超えたすばらしい改変だと言わざるを得ない。
傍観者の主人公七原が最高に輝いている
原作でも実写映画でも、主人公七原は進行していく「プログラム」の傍観者であり、プログラム経験者の川田に助けてもらって生き延び、一応プログラムの生き証人になりえたという感が強い。漫画版のコミックスに収録されている、高見氏と田口氏との対談にもあるが、原作者の高見氏が主人公七原より脇役の三村に思い入れがあったため、三村の方が目立ってしまっているのだ。漫画版でも三村は脇役としてはかなり活躍していて目立ってはいるものの、三村も他の生徒も、正義感が強い七原を非常に信頼しており、七原自身も自分の正義に従って行動する様子が強調して描かれており、傍観者ではなく主役として生き生きした魅力を放っている。三村や杉村、川田など、サバイバル能力に長けた生徒が七原を心底信頼している様を描くことで、七原が一番魅力的な主役としてしっかり息づいている。七原と彼に好意を持つ典子が生き残って、殺されたクラスメイト全員の思いを背負って生きていくのにふさわしいキャラクターとしてしっかり描かれているのである。残虐描写はあるものの、多数のクラスメイトの個性をそれぞれ描き分け、クラスメイトとの関わりから主人公をこれほど魅力的に描いた媒体は、漫画のバトルロワイアルだけだと言える。私が三つのバトルロワイアルの中で、漫画版が一番好きな理由はそこにある。
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