差別について考える映画
この映画の主題は何か?
この映画で主題になっているのは何でしょうか。アマゾンのレビューを見ると、「アメリカ社会って大変!」、「若い警察官は差別に反対していたのに、結局黒人を殺してしまった。単純な差別の話ではない。」等の浅いレビューが見て取れます。この作品を深く読み解くためにはやはり、哲学の領域で「差別」についてどのように考えられているかを参考にすることがいいでしょう。
差別についての哲学とは?
哲学者の中島義道は「差別感情の哲学」の中で、差別と自己肯定の関連性について語っています。彼は差別と自己肯定が表裏一体の関係性にあると言うのです。たとえば、キリスト教を信じている人は自分がキリスト教徒であり自分が正しいと自己肯定するためにムスリムを差別することがあり、これがそれにあたります。すなわち、差別が絶対的になくなることはありえないと示唆しているのです。比較的「差別が少ない」と言われている社会では、激しい差別が少ないわけで、差別が全くないわけではありません。ただ、経済格差が激しいことや厳しい環境に身を置いていることで、日ごろから他者を差別しないと自己肯定ができないようになってしまう場合があります。そのような社会では激しい差別をしてしまう人が出てくるのです。
哲学を用いた分析
さて、この映画を以上の前提知識で見るとどうなるか。ほとんどのすべての登場人物が自己肯定の難しい環境に強いられているといえるでしょう。そして、それは結局、アメリカ社会の問題であり、一人一人の他者に対する言動や行動の問題なのです。黒人差別・イスラムフォビア・経済格差・銃社会という背景がこの映画で出てくる大半の問題であり、それは社会が克服すべき問題なのです。
この映画がアカデミー賞をとった理由は?
さて、ここまでの映画なら、おそらくこの作品はアカデミー作品賞を受賞しなかったでしょう。この次に考えなければならないのは、レイシストっぽい警察官が身体チェックと称して、体を触りまくった女性が交通事故にあうシーンです。そこで、彼女は「お前は来るな、ほかの人を呼べ。」とギリギリの状態でも差別をした人間のことを避けるのです。つまり、自分や自分の身内が差別や犯罪をしたことがその差別をした側の人たち自身に突きつけられる瞬間です。ほかにも、アフリカ系の青年がアフリカ系の男の車を襲うシーンもそれに当たりますね。残念ながら、一方が他方を責めることは難しく、少しずつ一人ずつが変わっていくしかないようです。デモや極端な政治が跋扈する中で、極端な思想が好まれている現状を振り返るチャンスにこの映画がなるのではないでしょうか。
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