狼陛下の花嫁を読んで
甘さを前面に押し出した日々の描写
主人公の女の子「汀夕鈴」と冷酷非情な狼陛下の「珀黎翔」との、甘ーいやりとりが最大の魅力です。陛下からの甘さに戸惑いながらも、一喜一憂する夕鈴の様子は読者が一度は経験したであろう甘酸っぱさを思い出させてくれます。また、陛下が夕鈴に与える甘い言葉達も、読者の「一度は言われてみたい言葉」「こんなに大切に思われてみたい」という気持ちを満たしてくれるものばかりです。
中でも、夕鈴が陛下に可愛いと褒められても、お世辞だと思って信じなかった場面では、夕鈴は陛下に押し倒されながら
陛下「ー君は己を卑下してはいけない。いついかなる場所にあり、どんな姿格好をしていようと、君はかわいい私の妃だ」
夕鈴「ものすごくわかったから、離れてください…!!」
にこやかに、そして自然に甘い言葉の出てくる陛下と、翻弄される夕鈴のやり取りの可愛らしさに心を鷲掴みにされた読者は多かったのではないでしょうか。
この当時、陛下の心情はまだ描写されることは少なかったために、なぜ陛下はここまで夕鈴に甘いのか引っかかる部分はありました。しかし、第一部が完結している現在、改めて読み返すと陛下の寂しかった幼少期に要因があるのだな、と気づかされます。
明るくて元気な夕鈴、そんな夕鈴が大好きな陛下。色んな夕鈴を見たくて、つい構いすぎてしまう陛下。こんなやり取りをずっと見ていたいと願わずにはいられません。
陛下の変化
甘いやり取りをしている内に、陛下に変化が現れます。最初は夕鈴のことを「はじめは ただ一緒にいるのが楽しくて」と思っていたようです。
きっと、友達のような仲の良さ、楽しさがあったと思います。王族の血を引く陛下にとって、心から仲良くできる人間は少なかったに違いありません。実際、王座を巡り、自分の兄弟から命を狙われたこともあります。そんな中、一人の人間として接してくれる夕鈴を陛下は大切に思ったのでしょう。
一緒にいるのが楽しくて、失うのも嫌われるのも怖くなっていって。
手を離さなきゃと思っても、うまく離せなくて。
なんとか手を離せても、再会してしまったら、愛おしさを抑えることができない。
冷酷非情だと言われてきた陛下を、ここまで変えた夕鈴。まだ、多くの闇を抱えている陛下ですが、夕鈴と一緒ならば、この先も陛下は救われ続けるのだと思います。
引き込まれる構図、魅力的な配置
内容も当然のことですが、本作品の魅力を最大限に生かしているのは構図にあります。
少し多めに余白を作ることで空虚な雰囲気を醸し出したり、陛下が夕鈴の髪の毛を撫でてやる場面で段々と目線を下に動かすことでアニメーションになっているような感覚にさせる配置は特に素晴らしいと思います。
また、吹き出しの位置も違和感なく配置されており、とても読みやすくなっています。近年、この吹き出しの配置が上手ではなく、会話に食い違いが出たり、誰の吹き出しなのか分からない表現をする漫画が増えたように思います。それは、話の内容で評価される漫画において、構図などが二の次にされているのか、もしくは技術や経験がないためかもしれません。
その点、読者に「次はこっちの吹き出しであってるよね?」と不安にさせることのない本作品は、作品にのめり込みやすくなっているとも言えます。
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