怪童丸の奪い合い
作画の配色が特徴的
源平合戦をモチーフとした物語です。
昔話をイメージさせるように、映像の配色を意図的に薄くしているのではないでしょうか。薄いというより、白いイメージをもちます。白いというのが分かりやすい表現なのかもしれませんが、別の言い方をすれば、「淡い」という表現ができるのだと思います。
「淡さ」を強調するため、意図的に薄い配色をしていたのだと予想しています。そして、幼少のイメージをもつ主人公、怪童丸の恋心も淡いものを感じなかったのでしょうか。そして、 怪童丸に向けられた頼光の愛情も、淡いものなのではないでしょうか。相思相愛とはいえ、その対象はどうしても子供です。怪童丸が成長していれば、結ばれる展開もあると思うのですが、あまりにも怪童丸が幼すぎると思われます。禁忌であり、結ばれてはならない関係性が、頼光の愛情に淡さを感じさせます。そして、物語の結末としては、頼光は命を落としてしまい、 怪童丸と結ばれることはありませんでした。映像における配色の薄さは、物語の結末を示唆していたようにも感じられます。特に、アニメ本編で描かれた青空と、建物やキャラクターにおいては、明らかに配色における違いを感じられたポイントです。
登場人物はあくまで人間
妖怪のような存在が登場するのか、と思っていました。
しかし、登場したのは人間のみで、妖かしの要素は、妖術だけに留まりました。人間以外の登場人物を描かないことで、それぞれ人間関係を強調したかったのだと思います。妖怪のような存在を描くことで、どうしても人間と妖怪の対立構造が強くなります。
それは、制作スタッフとしては、本来の描きたい要素を弱めてしまうもの以外の何ものでもなかったのではないでしょうか。
構図としては、怪童丸を奪い合うシンプルなものでした。怪童丸の気持ちをどちらが惹き付けることができるのか、そして、 怪童丸はどちらを選ぶのか、という点に絞られていました。
結果として、怪童丸が選んだのは、やはり頼光でした。
怪童丸
本編の冒頭イメージや名前から女の子であると思った人はいるのでしょうか。
きっと居たとしても、極少数の限られた人だと思うのです。
そして、怪童丸の本名である「坂田 金時」は、昔話で云われる金太郎を指す名前です。
「怪童丸」という名前や、冒頭でのキャラクター性は、観る人に意外性を持たせたかった意図を強く感じられます。また、成長した姿においても、同様のことがいえます。間違いなく女性らしいキャラクターではないのです。この時代の背景であれば、女性らしさを隠す為、サラシを巻くことで、意図的に胸の膨らみを抑えていたのかもしれません。
そして、男の子として育てられた背景においても、「どうして?」という疑問を残すことになります。
男女のおける性別が明らかになったときの意外性や、女の子とは思えない強さが、怪童丸というキャラクターの魅力なのだと思います。しかし、最後の部分においては、女性らしさを感じさせる描写もあり、頼光を想う気持ちに表れていたのではないでしょうか。しかし、当の怪童丸本人も、頼光に対する感情が愛情だとは気付いていなかったように思えます。きっと、最後に頼光が死んでしまって、時間が経過することで、その気持ちが愛情だったと気付くのだと思います。
まだまだ人間としては幼く、恋することを知らないキャラクターであり、結ばれることができなかった悲劇の物語だと受け止めています。
源 頼光
最強の武士だったはずの頼光が、怪童丸を助け出すことができませんでした。
人物像としては、「頭文字D」登場人物の高橋 涼介を思い浮かべてしまいました。「怪童丸」と「頭文字D」では、ジャンルも方向性も全く異なるアニメ作品です。しかし、冷静沈着な印象がある人物像の雰囲気は似ているのではないでしょうか。また、アニメ本編の中で、最強のキャラクターという位置付けも同じです。そして、表面上は涼しそうな顔をしているのに、本気になったときにみせる瞬発力や決断力も同じようなものを感じさせます。
頼光というキャラクターが、観ていて「頭文字D」の高橋 涼介にしか思えなかったです。
「頭文字D」の高橋 涼介が愛した女性は、年上の大人の魅力を兼ね備えた女性でした。しかし、当作品の頼光は、歳の差の大きい年下である怪童丸のことを想っています。
好きになった女性像という観点では、正反対といえるのかもしれません(笑
そして、怪童丸を男性・武士として育てたのは、頼光の怪童丸に対しての愛情があったからなのかもしれません。そう考えた方が必然のように思えます。わざわざ、女の子を男性として育てる理由は、他の男性に取られるようなことを避けたかったのではないでしょうか。頼光は、怪童丸に、武士として育てた理由を述べている場面がありました。しかし、その理由は釈然とするようなものではなかったように思えます。きっと、開かせない本心を隠すために、適当に理由付けしただけのように感じられるのです。
怪童丸を育てた本当の理由を、皆さんはどのように考えますか?
桜舟姫
女性でありながら、同性の怪童丸に執着して、愛情を表しているキャラクターです。
この部分が、百合のようにも捉えられます。しかし、怪童丸は女性であっても、外見は男そのものです。外見だけでいえば、特に違和感がありません。逆に、外見のみでいえば、頼光と怪童丸が結ばれることに違和感を覚えます。桜舟姫というキャラクターは、性別という観点を複雑にしている要素です。そして、その部分がアニメ本編の魅力といえるのかもしれません。
怪童丸にとって、桜舟姫を選ぶことで男性としての生き方を選ぶことになるのです。そして、逆に考えると、頼光を選ぶことで女性としての生き方を選ぶことになります。
桜船姫の存在は、怪童丸のどちらの性別で生きることを選ぶのか、という要素にも感じられます。そういった観点でみた時、だからこそ、アニメ本編に魅力的になるように思うのです。
桜舟姫というのは、単に頼光の恋敵ではないのです。
そして、敵対勢力の大将であり、倒すべき敵という位置付けでもありません。
怪童丸の生き方や在り様を表すキャラクターだったと考えられます。
平 将門
歴史上の人物であり、その武勇も有名な歴戦の勇士です。
実際のところは不明確なことも多く、人物像としては想像の域を出ません。しかし、将門を歴戦の勇士として扱う創作物は多いのではないでしょうか。そして、アニメ本編の中で、世間一般での知名度の高い武士といえます。この名前から想像するに、とても強い印象を持ちます。アニメ本編で多くを語らなくても、その名前だけで、観る者に強さを感じさせることができるのです。
短い時間で構成されたアニメ本編の中で、将門という名前の持つブランド力を拝借していることが伺えます。
結末をどのように解釈されますか?
死んだ頼光を抱え、京に戻ることを決めた怪童丸が描かれていました。
怪童丸は、武士として生きていくのでしょうか。それとも、出家してお坊さん・尼さんにでもなるのでしょうか。私の個人的な想像としては、出家する道を選ばれるのではないでしょうか。怪童丸の頼光に対する気持ちの強さは相当なものだったと受け止めています。
また、自分の面倒をみて、これまで育ててくれた恩義も強く感じていることでしょう。
怪童丸は真面目で勤勉な人物像として描かれていましたので、その生涯を頼光の供養に捧げるように思います。また、怪童丸が別の男性・女性を好きになることもないでしょう。それだけ、怪童丸は義理堅く、一途なキャラクターだと思います。
本来は、怪童丸は桜舟姫を選んでも、不思議ではありません。
義理に背くことないと考えられるのです。桜舟姫は血族であり、怪童丸はそちらを選ぶことが本来の選択肢のように思えます。父を殺され、そのまま怪童丸も殺されてしまうところを、命だけは見逃してもらい、生き永らえただけなのです。
しかし、怪童丸は親を殺した敵ともいえる存在の元に帰ろうと決断しているのです。
それは、死んでしまっても、なお頼光に対する愛情や恩義を忘れられないことを指しています。本来でいえば、桜舟姫を選び、都に向けて兵をあげることが武士の行動のように感じられます。そして、怪童丸も女性ではなく、武士として育てられています。そういった敵討ちという感覚を持ち合わせていないわけはないのです。
しかし、怪童丸の選んだ行動は武士らしいものではなく、女性らしい決断だったのではないでしょうか。
今後の展開を考察
怪童丸が帰ったとしても、頼光が亡くなっているので、怪童丸を守ってくれる存在はいないのかもしれません。
男性、武士として生きることが許されないのかもしれません。そうすると、政略結婚の道具として、知らないところに嫁に出される可能性は大きいと思うのです。これは、まだ良い結末といえます。最悪は、頼光を亡くしてしまった罪を問われ、帰ったとしても首をはねられる可能性もゼロではありません。
怪童丸が都に帰ったとしても、決して良い結末を迎えることができないと思うのです。
怪童丸は桜舟姫を選ぶことで、幸せな未来があったようにも感じられます。そして、怪童丸はそれを百も承知で、都に帰る決断をしているのです。アニメ本編で語られていないことですが、今後の展開を想像すると、明るい未来はないと思われます。
怪童丸の生きる道として、唯一、救われる道が出家することだと考えられるのです。
怪童丸も脇腹から相当量の出血をしているので、都にすら辿り着けないのかもしれません。都に辿り着く途中で、怪童丸が息絶えてしまったのなら、それが最も幸せなことなのかもしれません。たとえ出家したとしても、まだ幼い怪童丸なので残りの人生は長いです。頼光のことを想い続けるには、長すぎる時間のようにも思えます。
いっそのこと、頼光の後を追うことが、怪童丸にとって幸せのようにも思えます。
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