先生と生徒たちの愛でいっぱいの教室
生徒愛にあふれた烏丸先生とイリーナ先生
こんなに生徒たちのことを思った先生がいるクラスはないでしょう。それは「殺せんせー」をはじめとするE組の先生たちの所属がこの椚ヶ丘中学校ではないため、学校の方針等に縛られていないということも一つの要因でしょう。それと3人の本職が教師ではないため、いわゆる教師と生徒という一般的な関係とは違っていたことにもよるかもしれません。暗殺の対象となる「殺せんせー」と、「殺せんせー」を暗殺するために必要なスキルを教える烏丸・イリーナ先生、そして実際に暗殺をするE組の生徒たちが同じ校舎内にいるという特殊な環境ですが、その中でも生徒たちがしっかり勉強もでき、自分に自信を持つことができるようになったのはこの3人の先生たちの愛情のおかげではなかったでしょうか。
それを証明するかのように映画の最後で烏丸先生は、防衛省の命令に従っているようにみせて生徒たちの逃亡を手助けし、イリーナ先生はおとりになって自衛隊の眼を生徒からそらせる手助けをしています。自ら牢のカギを開けて「殺せんせー」を生徒の手で暗殺させる手助けするのではなく、生徒たちを信じその行動に対して完全にバックアップしていこうとする姿に、生徒たちも先生の自分たちに対する深い愛情を感じたことでしょう。
烏丸先生は生徒たちに「中学生として普通の学校生活を保障する義務がある」「君たちを暗殺のプロだと思って接している」という思いを話しています。これは生徒たちに対するアピールではなく、教師として暗殺の教官として生徒に接する最低限の礼儀だと考えているのでしょう。イリーナ先生も言葉にはしていませんが烏丸先生と同じように、生徒を自分より劣っているものとして扱わず、あくまでも一個人として扱っているようすがうかがえます。今までまともに扱われてこなかったE組の生徒にとって、先生生徒という立場はあっても対等な人間関係で接してくれている2人に対し信頼を持つのはごく自然なことだったでしょう。
生徒の「殺せんせー」に対する愛
この映画での一番の見どころはやはり、「殺せんせー」を殺すのか殺さないかという生徒同士の対立でしょう。どちらの言い分も「殺せんせー」に対する愛情からくるもののため、正しい正しくないと一概に決めることができません。このシーンを見ている人たちの中にも、自分だったらどっちの考えに賛同できるか考えながら、この二つの対立の成り行きを見ていた人たちも少なくはないでしょう。そして一生懸命考えてもどちらも正しいという答えにしか、いきつかなかった人も多いと思います。それは先にも言ったように、どちらも「殺せんせー」のことを真剣に考えて出している考えだからでしょう。
「自分たちの手で殺してあげよう」と言った生徒たちが、本当に「殺せんせー」を殺したいわけではありません。ただ助かる方法が本当にないのであれば、殺すしか先生を助ける方法がないのであれば、先生の望み通り自分たちが殺すのが一番だと考えた結果だったのです。そのため先生がもしかしたら助かるかもしれないという方法を、生徒全員で必死に模索していきます。結局はやはり殺すしか先生を助ける方法は見つかりませんでしたが、やれるだけのことをやり、試せるだけのことは試した結果だったからこそ「殺せんせー」が言っていた「人に誇れる暗殺者になりなさい」という本当の意味が生徒たちに伝わったのかもしれません。
殺せんせーの生徒に対する愛
「殺せんせー」の椚ヶ丘中学3年E組に対する愛は、雪村先生の生徒に対する愛を引き継いだもので、生徒たちに出会う前から生まれていたようです。「殺せんせー」は、E組というレッテルを貼られてしまったために、まわりはおろか自分自身にもそのレッテルを貼ってしまったE組の生徒たちに対し、「死神」としての名前だけが一人歩きし、実際の自分としての存在を消して生きてきた過去の自分に、なにか重なるものを感じたのかもしれません。とてもエリート暗殺者「死神」と同一人物だとは思えない外見に、これまでの並々ならぬ努力がうかがえます。そんな彼だからこそ、暗殺を成功させるためには暗殺の技術だけでなく知識やそれを生かせる判断力・行動力が必要だという言葉に説得力があったのでしょう。特に渚に対しては自分と重なる部分が多かったと思います。「一見弱そうというのも暗殺者の才能の一つ」という言葉は自分の体験からきているのでしょう。
一見自分のせいで死んでしまった雪村先生に対する償いから先生になったとも思える「死神」ですが、雪村先生に一番救われたのは他の誰でもない彼自身だったのでしょう。そしてそんな大事な先生を生徒から奪ってしまったことに対し、自分の持てるだけの知識・技術それと愛情を生徒に惜しみなく与えることで、生徒に対して償いをしていたのではないかと思います。雪村先生の生徒に対する愛情のひとかけらでも、生徒に返してあげたいそんな思いが生徒に対する深い愛情の根本になっていたのだと思います。
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