主人公とヒロインの魅力 - とある飛空士への追憶の感想

物語構成と登場人物

主人公とヒロインが、敵対勢力の軍勢を掻い潜り、目的地に到着するまでを描いた物語です。

アニメ本編には、主人公であるシャルルのエピソード、ヒロインであるファナのエピソード、目的地を目指す理由付けされている場面が差し込まれています。しかし、大部分は、シャルルとファナの空の旅を描いたものであり、そこに時間が割かれています。

そして、物語としては、目的地を目指すだけの単純な構成だといえます。

こういった物語構成で、アニメ本編に必要なことは、主人公とヒロインを魅力的に描くことなのだと思います。物語展開が単純なものに成りがちなので、ストーリー性から面白みを打ち出していくことは難しいと思うのです。しかし、主人公とヒロインの存在に、観る側を惹き付けることで、アニメ本編が楽しいものになってくるように思います。逆に、主人公とヒロインのキャラクター性に魅力が欠いたものであれば、「とある飛行士への追憶」という劇場版アニメはつまらないものだったのではないでしょうか。

振り返って、アニメ本編を考えてみると、そう感じずにはいられません。

シャルルの魅力

主人公シャルルの印象は、信じられないくらいの好青年であるということです。

幼少期に、これだけ周囲から差別されて虐げられてきたのに、真っ直ぐな生き方と優しい性格をしていることが信じられないのです。こういった生い立ちであれば、捻くれた性格になっても不思議ではありません。むしろ、そちらの方が、自然だと思うのです。よほど育ての母の教育が良かったのでしょう。そういった背景と、彼自身の真っ直ぐさに惹き付けられるものは大きいです。

また、相当な努力家であることも伺えます。

飛行機の操縦を見るだけで覚えることなど、並大抵のことではありません。ひと昔前の伝統技術は、見て盗む、と云われていました。しかし、実際にやってみると、なかなかできるものではありません。特に、飛行機の操縦においては、見て盗むことでできるようになるものでもないように思えます。失敗は取り返しのつかない事故に成り兼ねません。しかし、平然と見て盗んだことを言い切れるシャルルは、凄い才能の持ち主なのだと思います。非凡な才能というのは、それだけで観る者が憧れてしまう要素ではないでしょうか。また、シャルルの性格が真っ直ぐな好青年であることで、観る側もシャルルに対して、素直に憧れという感情をもつことができると思うのです。

もし、シャルルの性格が捻くれていたら、才能には凄いと思えても、憧れという感情は持てないでしょう。性格の良さと、非凡な才能の相乗効果が、シャルルというキャラクターの魅力なのだと思います。

シャナの魅力

ヒロインであるシャナにおいても、信じられないくらいの性格の良さではないでしょうか。

「お姫様」という言葉から想像する性格といえば、高飛車で傲慢な性格だと思うのです。しかし、「お姫様」という印象の真逆であるシャナの性格は、それ自体が、シャナの大きな魅力となっているように思います。

シャルルに対して、見せる優しさは、観る側からすれば間違いなく好感度アップです。怪我をしたシャルルに手当てする手際の良さも、観る側からすれば好感度アップです。

シャナの魅力は、「お姫様」らしくない「お姫様」ということだと思います。

外見の美しさにおいても、「とある飛行士の追憶」という劇場版アニメの映像技術は綺麗で、シャナの美しさを一層に引き立たせています。シャナの魅力の一部においては、映像技術の高さから成り立っているといえます。

本当に可愛くて、魅力的なヒロインなのだと思います。

物語展開について

魅力的な主人公とヒロインだからこそ、お互いに惹かれ合う存在だったのだと思います。

お互いにそんな感情をもつことは自然の流れのように思えます。シャルルとシャナのキャラクター性と、物語展開に整合性があり、納得させられる部分のように感じます。また、数度に渡り、命がなくなってしまうような危険に晒されています。そういった極限状態の緊張感や、ドキドキ感が恋愛感情に変わっていったのかもしれません。そして、シャナは自分自身の感情を素直にぶつけるのに対し、シャルルは自分の本分をわきまえています。

「本音」と「本分」の行き来が、「とある飛行士の追憶」という劇場版アニメを面白いものにしています。

シャルルの最後の行動が、とても魅力的で格好良いです。

飛行機から砂金をばら撒いているのは、結婚するシャナに対しての祝福だと思います。そして、こういったかたちで祝福できるシャルルに感動すら覚えます。おそらく砂金には相当な価値のあるものだと思うのです。現代社会で置き換えるなら、一万円札をばら撒いている行為と等しいのかもしれません。一万円札はキラキラ光り輝いていませんので、砂金ほどは美しくありません。しかし、高価なものをばら撒く行為は、同じことだと思います。

それを躊躇わずにできるシャルルの行動が、素直に素晴らしいと思えます。