斬新な作画に覚える恐怖感
受け取るのが難しいアニメ
絵のタッチから、子供向けのアニメ作品なのだと考えていました。しかし、それの考えは、勝手な決め付けであり、全然違うものだと反省させられます。逆に、子供が観てしまったらトラウマになってしまいそうなアニメ作品だと思います。
このアニメ本編から伝わってくる違和感の正体な何なのでしょう。その正体に決定的なものが思い当たらないのも不思議なことです。確かに、作画という面では、とても特徴的なアニメ作品だと思います。しかし、単に作画だけで、これほどの恐怖を感じることはないように思うのです。また、恐怖感の正体は絵だけのものではない、という確信のようなものも同時にあります。
私が思うに、恐怖感の正体を単純に表すなら、複合的なものなのだと感じます。恐怖感以外の特徴を述べるなら、アニメ本編が全体的に抽象的になっており、得体の知れないものだと感じました。ただ、人間の心の闇の部分を描いているだけは明確だったのではないでしょうか。
人間であれば、誰もが抱える心の闇の部分を強調して描かれています。そして、心の闇の正体は明確にされず、得体の知れないものなのです。まず、得体の知れないものへの恐怖が強いです。さらに、自分自身が闇に引き込まれてしまいそうなものを感じるので、強い恐怖感があったように思います。
そして、それは作画であり、キャラクターであり、音楽であり、物語であり、全ての要素を駆使して再現されているのではないでしょうか。よって、恐怖感の正体は、それぞれ制作スタッフのチーム力という複合的なものによって演出されているものだと考えます。
医者という職業
「医者」という職業から、良い印象を持つことが多いのではないでしょうか。高収入の職業であることが挙げられますが、人間の命を救う仕事なので、社会的な役割も大きい職業です。
良い印象を持つ職業だからこそ、そこに潜む闇の部分を露わにされ、それによって受ける衝撃は大きいように思うのです。その闇が深ければ深いほど、暗ければ暗いほど、そこから受ける印象は比例して強くなります。「医者」という職業を主題にしていることは、意図的なもののように感じられます。
また、「田舎医者」と命名されていますが、いわゆる「町医者」のような存在であり、病院のお医者様より、身近な存在である印象を抱かせます。それは、強い恐怖を身近に感じさせることになります。
急病なのであれば休みは関係なく、時間帯や天候もお構いなしで、患者の元に駆けつけなければなりません。アニメ本編でも、時間は深夜であったことが伺えます。また、天候も雪が降っており、急ぐにしても向かうだけでも大変な場面が描かれていました。さらに、社会的な役割が大きいだけに、その責任においても重いので、心の負担が大きいと表現されていました。
人間的に立派で、心の負担に負けない強い志・精神力を持ち合わせていることが必須の職業なのだと思います。しかし、世界を見渡せば、職業が医者という方の人数は相当数に上ると考えられます。その全ての方が、高い志と強靭な精神力を持っているのか、と考えると現実は違うようにも思います。
精神病
この物語の原作は、1900年代前半に執筆された小説です。この当時の時代背景を推測するに、精神を患い、それが病気だという考え方は、世の中に浸透していなかったのではないでしょうか。
そして、医学といっても、その分野は広いものでしょう。内科や外科の簡易なものに対応はできても、精神という専門分野に町医者が対応できるのか、という疑問はあります。
この「カフカ 田舎医者」という作品は、その部分に着目しているのではないでしょうか。
患者の身体は至って元気であり、健康そのものです。しかし、脇腹部分に大きな傷があり、開いている状況です。しかし、重病人として呼ばれていることから、傷の治療をしてほしくて呼ばれているのではないことは明らかです。
ご家族が虐待で患者を傷付けたのか、それとも、患者自らが自分自身の身体を傷付けたと考えるべきだと思います。患者の対応に、困ったことは間違いないことでしょう。そして、患者の家族が、昔話でいう山姥のように描写されており、恐怖感を煽っていたように思います。
現実からの逃避
患者の対応に困った医者は、そのまま、窓から逃げ出してしまいます。これは、現実からの逃避を示唆しているように感じました。どうにも対応に困り、そして、患者の家族に対しても恐怖を感じたのは間違いないでしょう。
社会的な役割、目の前の患者から逃げ出すことは、分かりやすい現実からの逃避だと考えられます。あのまま、患者の対応を続けていたと仮定したなら、きっと医者の精神が崩壊していたのではないでしょうか。医者はそこまで自分自身を追い込まれ、そして、目の前の現実から逃げだしたのだと思います。
そして、ここから怖いのは、医者は逃げだしたまでは良かったものの、向かい風が強く、逃げても逃げても逃げられないのです。この場面からは、逃げられない責任と重圧という、著者の強いメッセージを訴えたいのではないでしょうか。
目の前の患者から逃げだしたことで患者が死んでしまったなら、医者の本文として、救えたはずの命を救えなかったということです。厳しい表現をするなら、救えたはずの命を救わなかった、といえるのではないでしょうか。
そして、医者としての本文を理解している真っ当な人物像であるなら、自己嫌悪に陥り、その後も苦しみ抜くことは間違いないように思います。そして、アニメ本編において、その部分を示唆するのが、子供たちの歌なのだと思います。
取り返しのつかない現実を思い知らされる描写は、果たすべき責任の大きさ、重さの狭間で揺れ動く自分自身なのだと思います。人間であれば、逃げたい目の前の現実が多かれ少なかれ、有るのではないでしょうか。
得体の知れない恐怖、そして、逃げることのできない恐怖が迫ってくるアニメ作品なのだと思います。
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