原作の序盤部分のみのアニメ作品
霞拳志郎の魅力について
どうしても、比較対象は「北斗の拳」主人公のケンシロウになってしまいます。同じ「けんしろう」と名付けられているのは、前作のイメージを引き継げるという部分で、とても良かったことだと思います。これはアニメ作品ではなく、原作の漫画にいえることです。
「北斗の拳」主人公ケンシロウについては、無口で、普段は感情の起伏がなく、穏やかなキャラクターになっています。そして、稀にみせる優しい表情のギャップが魅力になっているのではないでしょうか。もちろん闘うときの険しさ、無情さや非情さもギャグ要素として面白い部分となっています。
それと比較して、このアニメ作品の主人公である霞拳志郎は、キャラクター設定が全然違っており、同じ「けんしろう」であるにもかかわらず、違うキャラクター設定であることを物語冒頭で強く印象付けている気がします。まずは咥え煙草している場面が多いのが、その象徴ですよね。それだけでチョイ悪の設定であるキャラクターのことが伺えます。前作「北斗の拳」で人気の高かった「雲のジュウザ」とイメージを被らせるように思います。また口数においても、無口であった前作ケンシロウよりも多く、「雲のジュウザ」寄りであるのではないでしょうか。
また時代背景が2つの作品では異なっているのは挙げられます。核戦争前の時代を描いている「蒼天の拳」では、比較的に現代社会に近く、明らかに戦前時代における中国・上海などを意識していますね。一方、「北斗の拳」については、世紀末伝説という謳い出しですが、核戦争後の「世も末」といえる地獄の時代背景といえます。時代背景で、どちらかといえば、人々の笑顔が多いのは、「蒼天の拳」の方といえるでしょう。「けんしろう」のイメージが、今回違っているというのは、そういった作品作りにおける世界観や、物語展開における整合性という部分で正解だっとように思います。
また前作「北斗の拳」の人気が高かったキャラクター「雲のジュウザ」の要素を、「蒼天の拳」主人公である霞拳志郎に取り入れたのは、好感度を意識したものなのでしょうか。
作画や声優・音楽といった要素
作画にも、見始めた最初は違和感を持ちましが、すぐに馴染みました。この作品の評価で、絵に問題点を挙げる方が多いように思います。とくに口コミ意見などでは、圧倒的多数であるように感じます。しかし、さほど大きな問題点として、私自身は捉えていません。「北斗の拳」のリメイク作品と同様の作画だと思いますし、それ自体を問題点として挙げることが逆にどうなのでしょう、と考えます。
ただ音楽においては、パチスロ蒼天の拳で使用していた楽曲はカッコ良かったのですが、アニメでは違うイメージを持ちます。同じ楽曲つかえば、音楽部分の盛り上げ要素としては、より良いイメージで演出できたのに、と残念に思います。ただし、そちらの方が比較として良かったというレベルで、アニメ作品のクオリティーそのものを大きく左右するレベルでもありません。決して悪くはなく、むしろ「蒼天の拳」の世界観と合致したものであったとは思います。
アニメ作品の中では、重要な仕事で、作品自体の出来栄えを大きく左右する声優さんにおいて、良いお仕事されていますね。その部分では、しっかり感情移入ができ、前作「北斗の拳」とはキャストは違う方たちなのでしょうが、違和感なく作品を楽しめました。
ヒロインの比較
「北斗の拳」ヒロインのユリア、そして「蒼天の拳」ヒロインの玉玲では、まったくイメージが違いますね。これも敢えて、意図的に「ユリア」に似せなかったのではないでしょうか。
「北斗の拳」ヒロインのユリアにおいては、徹底して流されるがまま、受動的な立ち位置でした。そんなキャラクター設定であった為か、とても落ち着いたイメージで声優さんも演じていたように思います。また見た目にも、大きな変化があり、回想場面、シンに捕らわれている場面、南斗最後の将の場面で、イメージを変化させたことも大きいです。
「蒼天の拳」ヒロインの玉玲は、自ら動く主体的な印象を強く持ちます。それがユリアとは正反対で、面白みを感じさせます。ユリアが落ち着いた大人のイメージであったのに対して、玉玲は強い女性です。「北斗の拳」に登場する人物で例えるのであれば、同じく戦う女性として描かれていた「マミヤ」に相当するように思います。
「北斗の拳」作中では、ユリアとマミヤは見間違えるほど、似ているという描写がありましたが、「蒼天の拳」については、敢えて「マミヤ」寄りにしていたのでしょうね。そうすることで、物語の展開がより膨らみをみせ、前作「北斗の拳」とは違った物語展開をさせていく狙いがあったように思います。
完結できないアニメ作品
このアニメ作品は、原作漫画の「起承転結」の「起」と「承」の触り部分しかありません。あくまで、原作漫画を読む入口としては良いのかもしれません。しかし、このアニメ作品に続編が制作される可能性は非常に低いと予測せざるを得ないのです。原作漫画をアニメ化するには、その背景というものが少なからず存在するからです。
パチンコ・スロットにおける「北斗の拳」という存在は、非常に大きなものです。スロットにおいては販売実績が、ギネス記録になっているほどです。それほどまでに大きなコンテンツは、なかなかないのではないでしょうか。そういった背景はあって、「北斗の拳」はリメイクされ、OVA化、劇場版で時を隔てて映画にもなりました。二番煎じというイメージが拭えない「蒼天の拳」では、同じくパチンコ・スロットにそのコンテンツが使用されました。しかし、結果的には「北斗の拳」のものとは販売実績や稼動実績が大きく乖離しており、コンテンツ力としては認知が低いと思われます。
アニメ作品としては、このままの形で終わってしまう可能性が非常に高いと思うのです。アニメ作品なのであれば、アニメ作品の中で綺麗な終わり方をするべき、という観点で、その魅力の半分も活かせないのではないでしょうか。原作は綺麗な最後を迎えており、「北斗の拳」の前時代ストーリーとして秀逸なものに仕上がっていると思います。
アニメ作品としては悲しいですよね。
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