ジャンプに現れた新星グルメ漫画
現在のジャンプを支える漫画であろうと断言できる
筆者が『週刊少年ジャンプ』を最初に読んだのは幼稚園のとき。兄が買っていた『ジャンプ』を絵本代わりに読みふけり、いつしか『ジャンプ』は週に一度の楽しみーーというか、生活の一部になっていた。
ある時代、ジャンプの衰退期が現れた。人気作は固定され、しかも全てがバトル漫画。あるいは、腐女子受けするだけのキャラクター漫画が掲載上位になり、新人や重厚な設定のストーリー漫画が育たず消えていった。
時代の流れもあったのだろう。コンビニで子供が『ジャンプ』を買っていく姿を、全く見かけなくなった。見るのは、昔『ジャンプ』を愛読していたであろう元少年ーー青年・中年層が群れをなしてコンビニで立ち読みをしている姿だけだ(正直、筆者はこの光景が大嫌いだ。良い大人が200円そこらの雑誌を立ち読みをしてほしくない。買ってくれよ)。
『ジャンプ』購読層は、紛れもなく変化している。それを感じ取ったと同時期に、筆者は『ジャンプ』を読むのをやめた。今から十年以上前の話だ。
そんな筆者が『食戟のソーマ(以下、ソーマ)』の名前を聞いたのは、『ジャンプ』連載作の三割も挙げられなくなった、近年のことである。
『ジャンプ』に初めて登場したグルメ漫画ーーそう聞き付け、『ソーマ』を読んだ筆者は、まずその完成度の高さに驚き、また読まず嫌いになっていた『ジャンプ』そのものへの評価を改めざるを得なくなったのである。
『ジャンプ』におけるグルメ漫画という新ジャンル(過去、『ジャンプ』では『トリコ』のように「食」を扱った作品はいくつか存在したが、『ソーマ』のように現代の食材や料理法をメインに扱った漫画は存在しなかった)、完成度の高い作画、『ジャンプ』読者が好むバトル要素をしっかりと取り入れ、かつ意外な展開も取り入れる堂々たるストーリー展開。パロディを取り入れたギャグ、グルメ漫画にありがちなおおげさな美味アクション……。
『ジャンプの王道』『グルメ漫画のツボ』『男性受け、女性受けするキャラや展開』とパーフェクトな魅力を持つ、それが『ソーマ』なのである。
読む人間を選ばない漫画である
『ジャンプ』の読者層は非常に幅広い。メインターゲットの少年や、かつて少年だった男性たち、そして女性。読者層が広いぶんだけ、『ジャンプ』作品に求められるハードルは非常に高い。そして、そのハードルを乗り越えられた作品は、残念ながら稀有だ。歴代の『ジャンプ』作品のなかで、全ての読者に認められた真の名作漫画は、おそらく両の手に満たないだろう。読者に認められるということは、いわば『ジャンプ』十傑のような誉れある称号なのだ。
そして『ソーマ』は、おそらく十傑にエントリーするにふさわしい作品であるといえる。
まずストーリー。『ソーマ』はすでに17巻まで発行されている(2016年3月現在)が、展開が全く中だるみしない。
おそらくその理由の一つとして、文化祭など学園生活のイベントを、巧みに料理勝負の舞台へ造り上げてしまうことにあるだろう。
「学園モノ」というのは少年誌において王道の舞台設定だが、主人公が属する「楽しくて友達いっぱいの学校」を「戦場」に仕立て上げるという発想がまず楽しい。
といっても、それぐらいの設定なら漫画ではわりと珍しくはない。しかし、ここで『ソーマ』の特異性が活きてくる。
料理漫画である『ソーマ』は、血みどろのバトルも、少年漫画にお気まりの「お前、気にいらねぇな」「死にやがれ」「ぶっ×す!」というセリフも必要ない(一部似たような剣呑なセリフを吐くキャラがいるが、まぁ異分子なので気にならない)。あくまで美味を極める、平和的な勝負の世界なのだ。
ライバルも友人も、みな「美食」という目的を目指す同士。どんな激しいバトルをしても、口論になっても、いずれ食を通じてわかりあえる。いわば「毎日が文化祭」を見ているような楽しさがあって、飽きずに作品のエピソード一つ一つを読むことが出来るのだ。
血が飛ばないから女性にも受け入れられる。作中に出てくる美味しそうなグルメの数々は、グルメマニアを喜ばせるだろう。
しかも、登場する女性キャラたちの「美味アクション」は大体服がふっとびあられもない姿になる。思春期の少年たちからすれば垂涎(?)ものかもしれない。
このように、『ソーマ』は読む人を選ばない、実に妙たる構成をした漫画なのである。原作者はかなり上手いな、と感服する次第だ。
あえて注文をつけるなら
現在も『ジャンプ』で好評連載中の『ソーマ』。十傑たちも登場し、ハイレベルな戦いばかりになっている。
古参のジャンプ読者として口野暮ったい提案をさせていただきたいのだがーーここらへんで一つ、地に足をつけた展開(単発のエピソード)を挟んではどうだろうか。
物語が進むにつれ、『ソーマ』に出てくる料理のレベルもあがり、再現不可能、味も予測不可能なものが続いている。いわば『グルメのインフラ』状態になっているのだ。
もちろん、それでも十分に良いのだが、強いキャラが出すぎてついていけなくなる漫画が多い(あ、ジャンプで連載中の某バトル漫画のことじゃないですよ、ええ)。『ソーマ』にはそうなって欲しくないからこそ、ここで少し軽い展開を挟んでもらいたいのだ。それこそ主人公の創真が得意な定食屋のジャンルを挟んでもらいたい。
長いエピソードばかりでは、読者も息切れしてしまう。ここは一つ、読者のための漫画を作っていただきたいものだ。お粗末っ!
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)