女性にこそ読んで欲しい漫画
デリヘル嬢の知られざる実態
多くの女性は、風俗業に嫌悪感を持つ。デリバリーヘルスという名前を聞いたことがあっても、実際どんな風俗業なのか知らない、むしろ知ろうとしない人も少ないだろう。
本番の性行為はせず、男性が満足するまで奉仕する風俗嬢--いわゆるデリヘル嬢たち。『デリバリーシンデレラ』は、そんなデリヘル嬢を主人公とした物語である。
主人公・山田雅美は、黒髪メガネのいかにもおとなしそうな外見ながら、夜はNO1デリヘル嬢「ミヤビ」として人気を集めている。ミヤビは豊満な身体と可憐な顔だちをした美女だが、その外見以上に男たちを喜ばせているのが「奉仕することによって男性を喜ばせたい」という主義だ(実際に雅美(=ミヤビ)は育ての親への借金を返済したあと、介護関係の仕事を選んでいる)。
このミヤビの主義が男性たちの支持を集め、デリヘル嬢のルールを破り、本番行為で指名を得ようとしていたミチルよりも人気を獲得。ミヤビは店のNO1として不動の地位を得る。
男性たちが求めるものは、もちろん美女による肉体の奉仕なのだろうが、「癒されたい」という欲求をも満たしてくれる女性が一番のデリヘル嬢という結論(=人気NO1たる主人公の性格設定)に至ったのは極めて興味深いキャラ設定だ。
ミヤビは自分の主義に疑いを持つことはなく、デリヘル嬢であることに誇りを持ち、お客さんや仲間のために何が出来るかを真剣に考えている。時には、友人や同級生の、デリヘルに対する誤解を解くために悩んだりもする。ミヤビは特殊な職種についてはいるが、ごく当たり前の、仕事に悩む社会人なのだ。
単なる性的な満足の売り買いだけでは収まらない、デリヘルという仕事の意義根底に挑んだ漫画。
風俗業をよく知らない、偏見を持っていた人も、この漫画を読んで認識が変わったのではないだろうか(余談ではあるが、作者が女性であるということにも驚かされる)。
ストーリーの満足度も非常に高い
先に述べたように、『デリバリーシンデレラ』は、偏見を持たれがちなデリヘル嬢の実態・意義を訴える素晴らしいメッセージ性を持った漫画である。
しかし、単に実情を訴えるだけでは漫画は面白くはならない。下手にリアルなところばかり見せていては、ドロ臭くなりがちだからだ。
『デリバリーシンデレラ』の面白いところは、漫画としてのストーリー・構成も非常によく出来ているという点だろう。
主人公であるミヤビを主軸と据えながら、同じ店で働くデリヘル嬢たちにスポットをあてている。このバランスが実に小気味よい。
ミヤビは女性としてもデリヘル嬢としても完璧なだけに、優等生でぶりっこ的に感じてしまう読者も多いだろう。いわばミヤビは「理想的な物語のなかのデリヘル嬢」なのだ。
だが、そこでライバルとなるデリヘル嬢たちのエピソードを挿入することによって、デリヘル嬢としてのリアルな悩みが浮き彫りになり、虚実巧みに入り混じった、漫画としての深みが生まれてくる。
ライバルたちのなかには、主人公であるミヤビには無縁の悩みを抱える女性も多い。単にお金が欲しい人、彼氏の借金を返済しようと思っている人、なんとなくデリヘル嬢となり、危険な道に足を踏み入れそうになる人など……。実に生々しく、様々な事情が語られていく。
生々しい彼女たちのエピソードがきちんと描かれるこそ、ミヤビの理想的な存在が際立つのだ。
もちろん、ミヤビもただ神話化した女神であるだけではない。父親との別れ、故郷との決別、友人の誤解、そして自らの恋愛と将来という様々な事件を経て、最後は結婚というハッピーエンドにたどり着く。
物語は非常にうまくまとまり、全11巻を一気読みすることも出来る。特殊な題材でありながら、非常に完成度の高いだ。
絵もうまく、飽きさせない展開も見事
ストーリー、テーマも花マルの『デリバリーシンデレラ』であるが、絵のクオリティーも高い。
やはり青年誌の、デリヘル嬢をテーマにした作品ということもあって、作中はエロティックな演出を求められる。また、客である男性も様々な年代や職種の人物が登場する。もちろん、デリヘル嬢たちは美しく豊満な肉体を持たなければならない。
その点において、『デリバリーシンデレラ』の作画は完璧に条件を満たしている。ミヤビを始めとする女性は可憐でかつセクシーで、男性陣も太ったブオトコだったりロマンスグレーのおじさまだったり様々な人物を描ききっている。ミヤビの恋の相手となる二人の男性たちはタイプが違うが非常にイケメンで、デリヘル嬢への理解も深く社会を知った大人の男たちだ。彼らとミヤビのラブストーリーは、どうなるのかハラハラと見入ってしまう。
絵もうまく、ストーリーの完成度も抜群で結末も良い。おそらくデリヘル嬢というテーマのせいだろうが、この作品があまり世間に知られていないのが、残念でならない。
深夜ドラマにでもなってくれないかしら、と思う日々だ。
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