新撰組に入った武士少女とは - 風光るの感想

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風光る

4.504.50
画力
5.00
ストーリー
4.00
キャラクター
4.50
設定
3.50
演出
3.50
感想数
1
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新撰組に入った武士少女とは

4.54.5
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.5
設定
3.5
演出
3.5

目次

沖田総司は死ぬのか?

新撰組の史実は、忠臣蔵と並んで日本人が心引かれる「負けた側」の歴史です。江戸幕府を討幕した維新志士と、幕府側で死力を尽くした新撰組、どちらも国を想って剣を交えたわけですが、新撰組は敗れ、その多くが命を落として、新時代が始まります。

「風光る」は幕末、維新志士と対峙した幕府側新撰組に性別を偽って入隊した富永セイの青春を描いた少女マンガです。

少女マンガなのですから、ラブロマンスも勿論あるわけですが、セイの恋のお相手は新撰組でも天才剣術士とうたわれた、沖田総司。歴史をご存じの方はご承知でしょうが、沖田総司は道半ばで病に倒れ、命を落としています。

このマンガは、読む前から相手が亡くなるという結末が一般に知られた、悲恋を想像させるつくりとなっていることが魅力のひとつであると思います。事実があり、それに基づいた展開をしているからこそ、逆に淡い期待…つまり沖田総司は生き残るのではないか、と思いながら読むドキドキ感が、まるでしてはいけない恋愛をしているかのような緊張感を与えてくれているのではないでしょうか。

物語は沖田に命を救われたセイが、父と兄の仇討ちのため、男として剣を奮っていくのですが、人斬りの場面が多いなか、姫要素も多分に含まれたセイの立ち位置と、キャラクター達の人間ドラマに照準を合わせたコメディ要素も、暗くさせ過ぎないつくりを演出しています。

物語が進むにつれ、セイの剣の腕の成長と共に、沖田への片想いから両想いへと変化していくわけですが、果たして沖田とどういう結末になるのか…本当は死ぬ人間であるということを知っているからこその切なさとドキドキが、たまらない展開を生み出しています。

私はまだ途中までしか読んでいません。史実通りに進めれば、遠くない未来に別れがやって来るはずですが、願わくは、ここはやはりマンガの醍醐味として史実とは違った結末になってもらいたい、というのが私の本音ではあります。

月代女子がモテる理由とは?

「風光る」の魅力のもう1つが、キャラクターの描写です。物語上、男装をすることになるセイですが、当時の武士の外見のままに見事、月代も剃ってくれています。てっぺんハゲです。なのに、とても可愛いんです。

ドングリお目目とコロコロ変わる表情が愛らしさを表現しているのですが、月代を剃るほど一途で一途で純粋な性格が、最大の魅力でしょうか。

反して沖田は普通の髪形です。女子なのに月代で可愛そう、というギャップ感もキャラクターへの愛着を深めてくれる要因でしょうか。インパクトを与えつつ、嫌みなくヒロインの要素を見せつけてくれるセイは“女子は外見ではない“という生きざまを身をもって教えてくれているかのようです。

月代女子であっても少女マンガの要素はふんだんで、セイは大変モテるところが嬉しいところです。性別を偽っているわけなのですが、男として女子からも、男なのに男子からもモテモテな設定には作者のサービス精神が込められているだけでしょうか。さらに、女子と知った人からも好かれてるところを見ると、これは月代を剃っているせいなのでは?と思える点なのです。たぶん月代を剃る前の一般町娘だったならば、こんなにモテることはないのではないでしょうか。女子からモテるのは、中性的なイケメンっぷりが、男子からモテるのは男にしては華奢で可愛いところが、女子と知っている人からは、やはりその生きざまが魅力的なのでしょう。このモテ感が一読者として、優越感を与えてもらえる魅力になっていると思います。

男だらけのなかに女子一人という、乙女ゲームさながらのシチュエーションなわけですが、沖田以外の展開はほぼ史実通りに進むので、多くの別れが展開します。そういった甘いだけの展開ではないところが、少女マンガらしからぬ厳しさをもたらし、だからこそ男女性別関係なく一人の命が尊くなり、セイのモテっぷりに繋がるのではないでしょうか。お互いに明日をも知れぬ命だから、好きなものは好き、と正直で、余計に愛おしく感じられるのだと思います。そう思うと、死闘が背中合わせだからこそ、最強の少女マンガになるのではないでしょうか。強く逞しく、かつ繊細で優美なセイは、まさに当時の“大和撫子“という人物像そのもののように思えます。

歴史にみる神展開とは?

“事実は小説より奇なり“という言葉があるように、人が想像する物語より現実の方がよっぽどフィクションに感じることがあります。「風光る」は大筋を史実からとっているので、先読みのできる物語なのですが、それでもページをめくる度にドキドキしてしまうのは、私が歴史に詳しくない、というだけではない気がします。先に考察したように、先がわかっているからこそのドキドキ感、つまりは水戸黄門のように読者は将軍とわかっているからこその滑稽な展開と同じ安心があるのではと思います。先の展開を知っているから、安心して“死んでいくキャラクター達“に感情移入できる、ということに繋がるのではないでしょうか。しかし、先読みのできる展開だけでは、真新しさは生まれません。そこでマンガオリジナルの主人公セイが、読者の想像を良い意味で砕いてくれる活躍が期待されるわけです。歴史であっても作り話であっても、物語の中心はいつでも“人“のドラマです。人が想像しなかった人の思想や行動、事件が、いわゆる神展開に繋がるのだと思います。

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