愛すべき、可愛いおっさん。
ホビット。
タイトルはホビットだが、物語のメインとなるのはドワーフたちだ。原作未読、予備知識無しでこの作品を鑑賞した私にとって、これはなかなか意外だった。ロードオブザリング(以下LOTR)の中では、ドワーフの全盛期は終わってしまったように思われたからだ(ギムリには申し訳ないけれど)。
栄枯盛衰、盛者必衰。日本でも平家が滅びて鎌倉幕府が開かれたように、歴史は必ず滅びと再生を繰り返す。そしてそれは中つ国の歴史においても例外では無いのだろう。原作者であるトールキンが、いかに生々しく、リアルな世界を構築していたかが伺える。
さて、この物語の主人公はビルボである。
ビルボ・バギンズ。これはLOTRを鑑賞した人にとっては、懐かしく、けれど妙に不吉なものを感じさせる名であろう。「あいつか!」と思ったのは多分私だけでは無い筈だ。
LOTRにおいて、心優しきフロドが生命を擦り減らす過酷な旅に出ることになったのは、そもそもビルボがゴラムから指輪を盗んだ(盗んだというか、拾ったというか、貰ったというか…)ことが発端だ。
旅に出て、結果英雄となったフロド。それが良かったのか悪かったのかは一概には言えないが、一つ言えるのは、フロドはビルボの尻拭いのために、大変な苦労を強いられたと言うこと。
そんな全ての元凶(とまで言ったら可哀相か)のビルボはLOTRにも登場したけれど、老いと指輪の力とですっかり萎れてしまっていて、「そもそも全部お前のせいだ!」と糾弾するにはあまりに哀れな姿だった。
ところが、今作はそんなビルボの若かりし時代がメイン。これで心置きなく野次を飛ばせる!そう思ったのだが…
見終わって抱いた感想は、「ああ、これは仕方ないな」だった。
ビルボの性格は、とにかく陽気だ。陽気で、愛嬌があって、そして憎めない。俗に言う愛されキャラ、というヤツだ。作中でもガンダルフに可愛がられ、何だかんだドワーフたちとも上手くやっている。
もしビルボが典型的な英雄タイプなら、もう少し話は違ったかも知れない。ドワーフたちの話を聞いて、義憤に駆られて旅に出るような性格だったら、私はこんなにもビルボを愛せなかった。
「自分は旅になんか出ない!危険な目に遭うなんてまっぴらだ!」と駄々を捏ねておきながら、いざ置いて行かれると何だか淋しくなって、結局みんなの後を追いかけてしまう。何と可愛いおっさんだろうか。
作中「勇気がある」と評される行動だって、私から見ればただの無鉄砲だ。でもそのがむしゃら感がまた可愛い。こんなに可愛い彼を、誰が責めることが出来るだろう!
つまるところ、この作品のビルボを見ていたら、「ああ、こいつなら指輪を盗んでも仕方ないな」と許せてしまうのである。
周りにいませんか?色々なミスを仕出かしながら、何となくその愛嬌で許されてしまう人。ビルボはまさにそれなのだ。
フロドには可哀相だが、諦めて堪えて貰うしかない。とはいえ、フロド自身もビルボのことを随分慕っているようだったから、私が心配する必要なんて無いとは思うけれど…。
愛すべきビルボに、乾杯。
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