私の思いを阻止し続けた女優
小説「白夜行」を読んだ時、吐き気をもよおすような嫌悪感を抱きながらも、ページを読み進める手を止めることができなかった。巨大なジグソーパズルのピースを一つ一つ埋めていくような感覚。つなぎ合わされたピースが何かの姿を現す度に、その緻密な構成に驚き、徐々に見え始める全体像に身震いがした。その小説が映画になる。唐沢雪穂をいたったい誰が演じるのだろう。それが堀北真希だと知ったとき、観てみたいと思った。
映画を見始めたとき、私は自分でも驚くようなことを考えていた。「どうぞ、この映画が原作に忠実なものでありませんように」と。小説で感じた強烈な嫌悪感。それを映画が忠実に再現すれば、あの嫌悪感が映像を伴い、さらに強烈な感覚となって私に押し寄せてくる。そうなるまいと、まるで、間違い探しでもするように私は「白夜行」が「現実」ではなく「作り物」であるという証拠を探し続けていた。
映像は思っていたよりも明るい。船越英一郎は、どうしてもテレビドラマのサスペンスの刑事に見えてしまう。なによりも雪穂の幼少時代の子役が、内面から発する明るさを抑えきれていない。製作者の意図とは裏腹にほっとする。
だが、そんな私の思いを阻止し続けるものがあった。堀北真希である。私には彼女が、唐沢雪穂そのものにも見えた。美しいけど、なにか人をゾッとさせるものが彼女にはある。「闇」とでも表現すればいいのだろうか、彼女が登場するたびに私は「白夜行」の世界に引きずり込まれ、救いようのない感覚にのみこまれていく。彼女自身が、まるで雪穂自身の残酷な境遇を体験してきたかのようにその瞳は暗く深く冷たい。
特にラストシーンの彼女は圧巻であった。桐原亮司の死を知って、これまで、何一つ感情をみせなかった彼女がほんの一瞬みせる動揺。だが、次の瞬間何かを悟りきったかのように姿勢を正し、何事もなかったように歩き出す。唐沢雪穂という女性を象徴するかのような強烈なラストシーンを堀北真希は完璧に演じきった。演技力という言葉だけでは語れない、恐ろしい女優だと私は思う。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)