懐かしい良作
通称「ドラクエ」シリーズで有名なゲームをアニメ化した記念すべき初のアニメ作品だが、後に続く『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』に比べ、認知度・人気度ともにお世辞にも勝るとは言い難い作品である。しかも作品を知っている人たちの多くが、「打ち切り作品」という苦い記憶しか持っていないのも事実の一つだ。しかし、断っておくが、『ドラゴンクエスト 勇者アベル伝説』は、しっかりと完結しており、その上、DVD化までされた良作であることも、れっきとした事実である。もちろん、完結しDVD化できたのは多くの人たちの作品への愛があったからこそ実現したのである。当時視聴率も人気も低迷していた作品とは言え、この作品の本当の見所・魅力を理解している人たちは少なからず存在し、そして良作をしっかり形にして世の中に残してくれるよう動いてくれた。この事実には一ファンとしても本当に感謝したい所である。
そんな作品について主観を交えながら紹介してみたいと思う。本作品は、伝説の竜の秘密に気付いた悪の大魔王バラモスから、伝説の竜を守り、死せる水から世界を救うため、そして、攫われた幼馴染の少女ティアラを助け出すため、勇者として戦う運命に立ち向かう青年アベルの冒険を描いた、いかにも王道といえる設定からスタートしている。しかし、アベルはあくまでアリアハンという村の漁師だったため、魔法能力は一切持ち合わせていない。ドラクエゲームでは勇者専用の魔法スキルがあるが、アニメの勇者アベルは、そんな魔法、習得することも使うこともない。だが、勇者アベルは、伝説の竜を封じる力を持つ青き珠の継承者なので、青き球の力を使いこなせるようになると、敵の魔法や攻撃に対して、青き球の力を駆使し打ち返すことが出来るようになる。
また、攫われた幼馴染のティアラは、伝説の竜を眠りから目覚めさせることのできる赤き球の継承者であるため、アベル同様魔法が使えず、戦闘能力も皆無だが、時々、赤き球の力を借り、敵の攻撃に対抗することがある。設定の都合上、ティアラは修行や冒険にはあまり関わらず、終始赤き球の聖女として、限られた場面でのみ活躍の場があるため、ヒロインとしては些かデイジに負けるという意見もあるようだが、あくまで王道設定に拘った作品としてなら、ティアラの動かし方は実にうまいといえるのではないだろうか。
勇者パーティにおいては、戦士三人と魔法使い一人というかなりバランスの偏った構成ではあったが、前述通り、アベルの青き球の力もあり、アニメ全般において、戦闘レベルで矛盾があったり、力不足を感じさせる場面はほとんどなかったと思われる。中盤に差し掛かると、パーティ唯一の魔法使いヤナックがパーティを離脱するというバランス的に実に不安な展開があるが、パーティ離脱時期は話数で数えて4,5話程度なので進行的には問題なかったりする。(余談だが、もしヤナックが離脱していなければ、アベルの父、オルテガは死ななかったのでは・・・という残念な思いもするが、そこもゲームをメインに考えたストーリー上の死亡なのであればいずれにせよ避けては通れなかったのであろう。改心したドドンガのように・・・)
本作品は、実は二通りのエンディングが存在するということは、わりと知れた事実だと思うが、いわゆる打ち切り用のエンディングと完結した後のエンディングではパーティの死亡キャラも明らかに異なる。(つまり全滅する所をパーティメインキャラだけは生き残るよう修正された)正当ヒロインではなく、いかした剣士ヒロインデイジ好きなファンにとっては救いの路線変更だったとも言える。本作品の拘り所は、設定に留まらず、アニメの演出・音楽にも及んでいる。アニメにも関わらず毎回登場人物のステータスやレベルを画面上に移したり、CMの時はPAUSEとコントローラーを演出など、アニメをゲーム感覚で楽しんでもらおうという計らいも本作品だからこその拘りポイントだと言えよう。
また、本作品の面白い所は、当時の社会問題の一つとして浮上していた環境汚染をメインテーマに取り扱った所ではなかろうか。バラモスの最後の捨て台詞は、世界と勇者共々滅びるという緊迫した状況下にも関わらず、思わず笑いが吹き出るようなものだったのを今でも鮮明に覚えている。なんて環境に優しい(笑)大魔王なんだ!と、感心したものだ。因みに、大魔王バラモスは、アニメ化に際し、新たにデザインされたもので、従来のゲームのバラモスとは似ても似つかない、いかにも大魔王らしいビジュアルと破壊力を有し、時々空気も読んでくれる、王道RPGには欠かせない憎めないボスキャラクターだったのではないだろうか。(最終的に側近をも盾にする悪ぷりもお茶目ポイントだろう。)
色々な大人の事情が絡まり、光を浴びることがなかった作品ではあったが、DVDでなら最後までRPG感覚でアニメを楽しみきることができる数少ないアニメの一つだと思うので、正統派RPGが好きな人になら是非薦めたいに作品の一つである。- あなたも感想を書いてみませんか?
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