美味そうな寿司に食欲を掻き立てられること間違いなし
『ミスター味っ子』に続く寺沢 大介の料理漫画
『ミスター味っ子』『喰いタン』など、少年誌において料理漫画を連載してきた漫画家・寺沢大介。
料理漫画は青年誌で連載されることが多いが、寺沢大介の作品は少年誌に掲載されることが多い。
故に、幼い頃から寺沢大介作品に親しんできたという読者は多い。
料理漫画は実際の現実社会に即して、添加物や農薬など、食材の現状(いま)を題材にすることが多いが、少年誌向けとあって『将太の寿司』にそういった要素はない。
あるのは常に、より美味い寿司を求める姿勢である。常に美味い寿司をひたむきに追いかける漫画・及び主人公の将太の姿勢は、嫌味がなく清廉で、少年読者にも読みやすい作品となっている。
美味そうな寿司に食欲倍増! 読後に寿司が食いたくなる漫画
『将太の寿司』の大きな見どころの一つが、作中に登場する寿司の数々であろう。
これが実に美味そうで、読後は寿司が食べたくなること間違いなしである。
例が、大トロのステーキ。脂たっぷりの大トロを炙り、寿司にするという将太の必殺技的寿司ネタである。初登場したのは寿司コンクール東京都予選の十貫勝負メインの一品だが、これは”マグロ哲”こと清水哲也に同じ手法+赤酢のシャリという上回る一手を出されたことで敗北している。
だが、これだけでは大トロのステーキの出番は終わらない。『将太の寿司』はコンクールを勝ち進むことでメインのストーリーが進んでいくので、寿司も序盤より後半に登場する方が美味い、という法則がある。
東京都予選で登場した大トロのステーキだけでも美味そうなのに、全国大会を勝ち進んだ将太は、それを上回るマグロの腰を使った大トロのステーキを完成させている。
大トロステーキだけでなく、砂地のアワビ、炙り鱧の握り、東京湾のウニなど、全国大会決勝戦ともなると想像もつかないような美味美食の乱舞である。
作中に登場する審査員たちのように、五体投地しヨダレを垂らして「もーいいから食わせてくれぇ!」と訴えたくなるものばかりだ。
『将太の寿司』は画力の変化が大きく、さほど上手いとはいえないが、作中に登場する寿司だけは一貫して美味そうに見えるのが料理漫画らしい。
鮪や平目、鯖などの光り物、貝類に魚卵と全てにおいて美味そうに思える『将太の寿司』だが、筆者が一番関心したのは最終話で登場した中トロの握りだ。
長年の仇敵である笹寿司の息子に、将太が握った寿司。コピペかトレスの多い作中の寿司のなかで、この中トロは初見で、この一度きり登場した唯一のものだった。
これ以上なく美しい唯一の寿司は、曇りのない将太の心そのものだったのだろう。結果として将太と笹寿司は和解し、故郷・小樽のために寿司業界を盛り上げることを誓う。
全国大会の果てにたどり着いた”将太の寿司”とは
『将太の寿司』は、将太が寿司の技量を高めていくと共に、将太の寿司の方向性を探る目的がある。
将太はコンクールの合間に、鳳寿司を訪れるお客さんたちの要望を聞いていく。お客さんの多くは、思い出の寿司の味を求めている人ばかりだ。
異国で死んだ幼馴染が作ってくれた鯖寿司を思い出したい老婆がいる。亡き母の作ってくれた玉子焼きを求める少年がいる。経済発展の末に汚れてしまった故郷の海に絶望した料理評論家がいる。今は失われた味を求める人々に、将太は全力で答えていく。
多くは一話切りの短編ばかりだが、これがやがて全国大会に挑む将太の、寿司の方向性を決めるヒントになる。
将太の寿司は、人に喜んでもらうための寿司なのだ。
しかしそれですら、宿命のライバル・佐治と同じラインに立ったに過ぎなかった。そして将太は、死の淵に立たされた父のことを思いだし、一人前の寿司ネタそれぞれの味を際立たせることを試みる。アワビはやや硬めに、小肌はやや酸っぱく。将太の寿司は”生きるための寿司”という結論に至り、これが将太の全国優勝を決定づけることになる。
一つの漫画のグランドフィナーレとして最高の終わり方をした『将太の寿司』。寿司や人間ドラマだけではなく、漫画としてベストな終わり方を出来たのも印象的だ。
物語は『将太の寿司2』へ
大団円を迎えた『将太の寿司』は、やがて将太の息子世代へと交代して『将太の寿司2 World Stage 』へ続く。
『将太の寿司2 World Stage』は残念ながらコミックス4話で連載が終了してしまったが、作者が寿司と世界の美食という難しいテーマに挑んだことに称賛したい。
『将太の寿司』のコンテンツはまた一度ストップしてしまったが、読む時代・読む人を選ばない面白さがある。
それはコンビニブックスとして幾度となく登場していることからも明らかであり、寿司漫画の入門書として、今後とも『将太の寿司』は愛されていくことだろう。
だが、『きららの鮨』といい、なぜ寿司漫画は世界に挑もうとするのか少々謎である。果物のソースを寿司に乗せたり、ネタをワインで蒸すのは実際食べてみれば美味しいのかもしれないが、日本人の感覚ではちょっと…というものが多いのだが…。
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