1人の野球選手の幼少期から一流選手になるまでを描いた大作スポーツ漫画
人生の中で挫折を繰り返しながらも夢を諦めない吾郎のスポーツ哲学
主人公の茂野吾郎は確かに類まれなスポーツセンスを持った野球選手ですが、決してメジャーリーグで活躍するまで順風満帆に野球キャリアを積んできた人ではありません。彼は野球選手として、1人の人間として、数えきれないほどの挫折を味わいながらもそれを乗り越えてきたのです。まずストーリーが始まった時点で彼にはお母さんがいません。彼のお父さんは横浜マリンスターズの1軍と2軍を行ったり来たりする本田茂治という選手だったのですが、そのお父さんは鳴り物入りした外国人投手ジョー・ギブソンのデッドボールが原因で亡くなってしまいます。その後本田吾郎は幼稚園の先生と彼の実のお父さんの友人である茂野英毅との間で育てられます。このような複雑な家庭環境を幼稚園のうちに経験した人が挫けずに夢に向かって努力し続ける、それは並大抵のことではありません。ですが、このような逆境と言える環境がなければ、吾郎はここまでの大物になったとは考えられないでしょう。その後も彼は海堂での首脳陣との確執、1から野球チームを目指し甲子園を目指す高校時代、ボストンバッグ1つで海を渡ったメジャー挑戦など、普通の人であれば怖くてできないようなことを彼は本心でやって来ました。彼のスポーツ哲学を一言で言えば「安泰と挑戦なら挑戦」でしょう。海堂に居れば楽に甲子園に行けたかもしれない、メジャーに行かなければ国内リーグでは大物選手になれたかもしれない。ですが、彼にはメジャーでジョー・ギブソンと勝負し父親の仇を取るという信念があったからこそ、中途半端な成功は望まずにひたすらに自分の夢を追ってこれたのです。このスポーツ哲学が、幼少期の苦境から生まれたものであることは言うまでもありません。
ライバルが彼を大きくした・永遠のライバル佐藤寿也
確かに吾郎は根のある野球選手で、幼少期に起こった父親の無念を晴らすために血の滲むような努力ができたでしょう。しかし、その吾郎をさらに大きくした存在、それが随所で出てくるライバルと仲間の存在でしょう。特に、吾郎にとって最大のライバルであると同時に親友である佐藤寿也の存在は、吾郎がメジャーで戦い続ける上で気づかぬうちに精神的な支えとなっていたことは間違いありません。頭脳明晰で冷静な佐藤寿也と熱気に溢れる茂野吾郎、彼らは近い位置にいるように見えて、実はそうではありません。というのも、2人はお互いを野球選手として尊敬しながら切磋琢磨し合う中ですが、なかなか正式にバッテリーを組む機械がありません。リトル時代は別のチームに所属していて、中学時代も別の学校、高校時代は同じ海堂に進学しいよいよ甲子園で2人のバッテリーが見れるかと期待しましたが、吾郎は海堂を退学して千秀に転校したのでそれはかないませんでした。高校最後の夏が終わりドラフトの話題が出てくるシーンでは佐藤寿也が読売シャイアンツからの1位指名が確約されており吾郎もシャイアンツからも指名があるかもといっていましたが、これは吾郎は他の球団に行くフラグだなと気づきましたね。しかし、それだけ近くて遠い存在だった二人だったからこそ、二人が日本代表のユニフォームを着てバッテリーを組んだ時はしびれましたね。今まで見てこなかったバッテリーなのに、自然な風景のように感じられるのです。彼の女房役となるキャッチャーとしては中学時代の小森、高校時代の田代、バッツ時代のサンダースなどが出てきて2人は信頼関係を築きますが、吾郎が本当に投げたかったミットは寿也のミットだったのだなと心から思いました。また、彼にとって勝たなくてはいけないライバルがもう一人います。そう、ジョー・ギブソンです。挫けそうになる吾郎を支えたのは仲間の存在ではなくライバルの存在なのではないでしょうか。
野球を通じて人生とは何か考えさせられる
MAJORは野球漫画ですが、この漫画を読んで感じることは「人生って面白いな」ということです。MAJORの特徴は、練習や試合以外のグラウンド外での情景描写が非常に多いことです。それは、この漫画が本田吾郎・茂野吾郎という人物を軸に家族、幼馴染、チームメイト、ライバル、パートナー、そして彼の家族と様々な存在が出てくるからでしょう。MAJORにおいて、吾郎がジャイロボールを投げられるようになること、甲子園で何回戦まで勝つことなどはさほど重要な事ではありません。ましてや野球の技術がどうこうということでもありません。この漫画を通じて本当に伝えたい事は「夢に向かって全力で生きることの尊さ」ではないでしょうか。吾郎はその夢がたまたま野球であるに過ぎなかったのではないかと思います。あなたには一生をかけてでも達成したい夢や目標はありますか?もちろんある人もない人もいるでしょう。けれども私はMAJORを読んで、早く自分も一生をかける夢を見つけたいと強く思うようになりました。
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