りぼんで連載された衝撃のサスペンス漫画
月刊少女漫画誌りぼんで掲載された突然のサスペンス
女性たちにとって、子供のころ初めて手に取った少女漫画雑誌は世代を超えて盛り上がれる話題の一つだ。大抵の女性は『ちゃお』『なかよし』、そして『りぼん』を提示する。
幼き女性たちが親から与えられた娯楽から離れ、自ら手にする最初のアイテム。それが書店で買う少女漫画誌だ。十大付録などと銘打たれた付録つきが一層少女たちの購買意欲を刺激した。
漫画の中で広がるまだ見ぬ学校生活と恋愛模様。少女たちは漫画によって社会を学んだ。少女漫画誌は、女性たちの教育書としての役割も担う。
その教育書たる漫画誌・『りぼん』に掲載された漫画のうち、『こどものおもちゃ』で同誌の看板作家となった小花美穂の次回作。それがこの『パートナー』であった。
看板作家の新連載とあって、少女たちは喜々として『パートナー』を読んだ。そして序盤からあまりの衝撃に言葉を失ったのである。
主人公・苗の双子の妹・萌が交通事故で死亡。悲しみにくれる苗と幼馴染の武。そして武の双子の兄であり萌の彼氏・賢。彼らの前に、死んだはずの萌が再び姿を現す。実は事故死した萌の遺体は、とある製薬会社によって盗まれ、人間剥製として再生されていた…。
双子の妹の死。人間剥製。製薬会社に監禁される主人公たち、と少女漫画にあるまじき衝撃の展開の連続に、主に少女読者たちは多いに戸惑った。だが、これらは全て序章にしか過ぎないのである。
剥製となった萌を目の当たりにし、狂った果てに自殺を遂げた賢。監禁された先で銃撃される武。ショッキングな展開は留まるところを知らなかった。
『こどものおもちゃ』で小花美穂に慣れ親しんだ読者にとって、それは少女漫画、ひいては自分たちへの裏切りとも取れる、あまりにも悲惨なエピソードの数々だったのである。
トラウマ級のエピソードの数々 小花美穂は何を伝えたかったのか
もはや問題作にも見える『パートナー』であるが、小花美穂はもちろん、少女たちへの嫌がらせのためにこの漫画を作った訳ではあるまい。
そもそもアニメ化した『こどものおもちゃ』でさえ、小花美穂はビターな演出を差し込んできた。
振り返って『こどちゃ』のあらすじを追ってみれば、紗南が精神病なるだとか加村直澄が同性愛者になっているとか少女漫画にはあるまじき展開がずらずらと並んでおり筆者はかなり動揺している。
ともかく、学園生活を呑気に楽しんでいる他の『りぼん』ヒロインとは違う路線で小花美穂が突き進んできたことは確かだ。
『パートナー』は『こどものおもちゃ』に続いてのシビア路線であり、小花美穂は自らの方向性を曲げずに作風としている。
ここにどういった思惑があるか、秘密主義の少女漫画家のわずかな情報から読み取ることは、非常に難しい。
だが、創作者は自らの作品を通して自己表現をするものであり、小花美穂は『パートナー』を通して『りぼん』読者たる少女たちに何かを伝えたい、ということは確かだ。
『パートナー』の終始ハードな展開が意味するもの
では、具体的に何を伝えたかったのか考察するには、やはり『パートナー』本編の手を借りる必要がある。
『パートナー』の中で、苗たちは悲惨な目にあいながら、辛くも研究所を脱出する。実はその過程において苗の心理的成長はほとんど描かれず、武と苗が恋人同士になったという事実が唯一の収穫であった。
というのも研究所内の物語は、まるで海外ドラマのようにドキドキする波乱の連続で、主人公のモノローグや悩みなど挿入している暇がなかったとも思われる(これはむしろ小花美穂の作戦勝ちと言えるだろう。毎回毎回研究所ではとんでもないことが起こっているのに、少女漫画的な主人公の揺れる乙女心なんかを取ってつけたように描かれても、読者としては逆に困るからだ)。
そして、『パートナー』はエピローグを迎える。
大団円たるエピローグのうち、注目すべき点は二つ。一つは、無事家に帰った苗が、ペットのフェレットの剥製を処分しようと母親に訴えるところ。
萌、賢、そして数々の人間剥製にまつわる悲劇を見てきた苗は、最後に剥製というものに”否”を訴えた。わずかではあるが、最後人間としての記憶を取り戻した愛おしい妹・萌の存在を、それでも苗は”なかったこと”にした。
それまでの苗の壮絶な経験を追ってきた読者からすれば、この苗の決断は「そうするとは思っていたけれど、あぁ、やっぱりか」と切なさが去来するシーンだろう。
そしてもう一つは、大人になった苗と武の間に生まれた子供が、”ふたつぶ”(=双子)であったこと。死んだ賢と萌と同じ、ちょうど二人ぶんの命が苗と武に与えられたのだ。
以上で『パートナー』は完結する。本作におけるメッセージ性はついに明確化されないまま、二つの主だったエピローグだけを残し、小花美穂は物語を終結させた。
しかし、語られない中に真実はある。小花美穂はあえて本論を語らないままで本作を閉じた。つまり、この物語の主題の考察を、読者に託したのだ。
もちろん、それは少女漫画の流儀に反する。だが、小花美穂はこのハードな漫画を通じて、少女たちに想像の余地を与えている。
そう、これは一種の、小花美穂流のスパルタ教育なのである。
こう考えてみれば、『パートナー』はサスペンス性や展開にも納得がいく。『パートナー』はあたかも、いずれ大人になっていく少女たちの、精神的成長のための漫画のようだった。
でも、これは『りぼん』で掲載する漫画じゃないなぁ…と筆者は改めて振り返るのである。
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