マサルさんから続く傑作・ジャガーさんと愉快な仲間たち
考察無用のジャガーさん
『ピューと吹く!ジャガー』をつまらないと思う人間はいるのだろうか?
おそらく、ほとんどのジャンプ読者が巻末に堂々と居座ったこの漫画を、読み飛ばすことなく必ず一読していたことだろう。ジャンプを読んだことのない人も、ネットで必ず『ジャガー』の名を耳にしたことがあるはずだ。
ジャンプにおけるギャグ漫画の神様。近年、目ぼしいギャグ漫画のないジャンプにおいて、『ジャガー』の作者・うすた京介の名はダウンタウン・松本人志と同義である。知らない人はいない、ギャグ漫画のカリスマ。ジャガーが常日頃畳のうえで頬杖をつきながら横になっているのと同じポーズで、ジャンプ巻末に君臨するうすた京介の姿が透けて見えるかのようだ。実際、うすた京介にはそれほどの才能がある。
言語化できないジャガーさん
『ジャガー』の面白さは言葉に出来ない。『あずまんが大王』で知られる作者・あずまきよひこが自身の漫画『よつばと!』をアニメするとつまらなくなる、と発言したらしいが、ギャグ漫画家は己の作品が持つ色味をよく知っている。うすた京介も、おそらく自分の漫画の人気と面白さを自覚しながらも、それを自分以外の手で面白くする手法をぱっとは思いつかないだろう。このように、『ジャガー』の魅力は言葉にして形容できるものではなく、考察するのも難しい。
確実にいえるのは、『ジャガー』は面白い、ということだけだ。どこが面白いか、と問われれば、そこは人の好みが分かれるところだろう。
そう、しきりに前置きをした上で筆者の個人的見解を述べるならば、まずハマーの存在だ。
エンプティ・ハマー。本名・浜渡浩満。ハマーなくして『ジャガー』は語れない。28歳にして忍者のハマーは『ジャガー』界のトリックスターであり、作中いろいろなことをやらかしてくれる。
特にハマー対ハミィのエピソードはファンの間でも神回として人気だ。また、ハマーが作中で歌い、”調子こく”原因を作った迷曲「なんかのさなぎ」も有名である。頑張って出した二曲目が、次週の話の一コマ目で「あ、二曲目は全然売れませんでした」と思い出したかのように語られて終わるのも伝説的な語り草だ。
ハマーに関しては、このように不遇な立ち位置が実に型にハマっている。しかしハマーはめげない。めげずに、またやらかして、みんなに見捨てられる。たまに何かがうまいこといって、ハマーは調子をこく。その繰り返し。だが、あまりにもパターンがバラエティに富んでいるため、ファンは飽きずにハマーに期待する。ジャンプをペラペラとめくって、巻末に黒いダウンジャケットが見えたらハマー登場の前兆だ。ファンは喜々として今週のジャンプに期待する。ハマーが登場する=面白い週という方程式が、ファンの頭の中で出来上がっているのだ。
ハマー以外にも、『ジャガー』には愉快なキャラクターが目白押しだ。主役のジャガーさんやピヨ彦も面白いが、脇を固める面々もとても強烈である。ポギーや”限りなく透明に近い父”間池留、ピヨ彦の父ハメ次郎のエピソードが個人的にお気に入り。また、宇津久島福嗣(ふくし君)のエピソードは、常に安定した”当たり回”の連続で、ふくし君の純朴なキャラとも合わさって繰り返し読みたくなる回だ。
また、ふくし君のエピソードに代表して見られる、凍狂(東京)、苦魔元(熊本)などの地名当て字は感銘を覚えるほどだ。こうした一つ一つの完成度の高いギャグが、ファンの心にカリスマ・うすた京介の名前を改めて刻みつけたのである。
ファンにはわかる 手抜き回もあるジャガーさん
文句なしに面白い『ジャガー』であるが、欠点が一つある。作者が、時々手を抜くのだ。
これはもう『ジャガー』を読んだことのある読者なら深く同意していただけるであろう。
まず、絵がひどい。小学生の落書きのような絵で終始話が進んでいく。読者は一応読むが、ここまで絵に力がこもっていないと読む気がなくなるのが本音だ。内容は当然頭に入ってこない。筆者も『ジャガー』のコミックスは何度も読んだが、正直内容を全く覚えていない。
しかし、あからさまな手抜きに対して目くじらを立てる必要はない。なぜなら『ジャガー』は、そもそもうすた京介が10年ぐらいだらだら続けられる漫画を目指して描いたものだからだ。普通の作家ならなんじゃそりゃと文句を言いたくなるが、うすた京介はそれでも許されている。
だって面白いから。免罪符を平気で振りかざせるほど、うすた京介はカリスマ的な面白さを量産できる職人だ。一回のヒットでも持てはやされるというのに、二回も、しかも短編一つ一つでヒットを飛ばしているとなると、編集部も文句をいえなくなるのだろう。こういった面を取っても、うすた京介の偉大さがわかる。現在活躍するお笑い芸人も、学生時代・アマチュア時代に『マサルさん』や『ジャガー』を熟読したというから、いかにうすた京介の笑いのセンスがプロの目にも優れているか推し量れるというものだ。
一介の連載作家を通し越し、カリスマとまで認識されているうすた京介の代表作『ピューっと吹く! ジャガー』。考察不要のこの作品は、読者諸兄の審美眼にはどのように映っているだろうか。
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