個性の色が強くて、濃厚な作品 - 私がいてもいなくてもの感想

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私がいてもいなくても

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画力
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キャラクター
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設定
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演出
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個性の色が強くて、濃厚な作品

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

ぎゅっと中身の詰まった全3巻

いくえみ先生は集中して、話を短く、すぱっと見事に終わらせる天才だと思います。10巻行かずに完結する作品がとても多いです。むしろ、10巻以上話の続く漫画は数えるほどしかないと思います。いくえみ先生のいい塩梅によって物語が終わりますので、途中からファンになっても、懐が寂しくなりすぎずに作品を集めることができます。これも計算しての配慮なんでしょうか?わかりませんが、続きが欲しい!と買い求めても、比較的楽に揃えられました。

日常をだらだらっと続けるのではなく、問題をきちんと解決して前へ進んでいくことができると、もう手はいらないなと判断するにでしょう、巣立つ子を見守るようにして描く手を止める、それがいくえみ流だなあと思いました。

フリーターと漫画家と

主人公、晶子は高校卒業後、就職せずにふらふらとバイトを転々としています。その日もウエイトレスのアルバイト先へと向かう途中、以前クラスメイトであり、現在人気漫画家として活躍する真希に再会し、真希の仕事場でアルバイトをすることになります。この出会いから、真希の恋人である日山と何かあるであろうという演出がなされており、さらっと読み過ごしてしまうシーンでもあるのですが、頭に引っかかる一コマとして記憶に残っています。その後晶子は日山に片思いをし、キスしたりされたりデートしたりと色々あるのですが、日山は真希を捨てることはしないのです。主人公は実らない恋を抱えたまま、またそれが癒されるのを時間に任せて歩み続けるのです。

私はこの漫画家の真希が好きになれませんでした。久しぶりに再会した元クラスメイトに、フリーターとして目的もなく生きていることを「つまらない人生だね」なんて言えますか?漫画家として売れたからか、はたまた学生時代に培わなかったコミュニケーション能力の無さが発揮されているからか、はたまた元から育ってきた環境のせいで構築された性格だからか、わかりませんがとにかく無神経に物を言う女性です。そして友人が離れていくことや自分に対する失言にはとても敏感で、寂しく思っています。因果応報なのですが、一癖あるこのキャラクターに感情移入することはできませんでした。

かわって、主人公の晶子は確かに目標もなく、実家暮らしということで経済的な切迫感もなく、生きることに必死さはありません。彼女のお母さんが晶子の兄ばかりに関心を向け、愛情を注がなかったからか、自分をきちんと認めてくれる存在を探しています。浮気癖のある彼氏と同棲をすると言い家を出て、その彼氏が女を連れ込んでいるところに遭遇し、またその家を出て、実家に戻り、と地に足ついた生活ではありません。

自分の足で歩いていきたい晶子は、必死にもがいて、でも、手に入らない事実を受け入れて、嫌われても何しても真っ直ぐなんです。自然で、ありのままで、その素直さが彼女の魅力であり、武器であり、持っている力なんだと思います。私は単純にその素直さに溶け込んで、彼女に触れて心が洗われました。

晶子は母親にひとつくらい私の長所を見つけて、と今までの不満をぶつけます。そして、母親は彼女の何事にもめげない姿勢が長所だと言います。その通りで、困難なことがあっても、辛くて身を切られる思いをしても、めげずに受け止めようとします。親は関心がないように見えても、子供の本質を捉えるものなんだなと、そのシーンを見て安心しました。救われました。母親が彼女を認めていると表現されていて。

私は、世知辛い世の中で懸命に生きる主人公が好きです。

働くことの意味

生活のため、家族のため、やりがい、生きがい、人それぞれに理由があります。将来の夢を幼い頃に描きますが、それは夢でもあり、実現するということは、夢が仕事になるということで、夢は働くことと同意になります。けれど、働くことと捉えるか、やりたいことと捉えるかの違いでモチベーションも価値観も変わってきます。

私はこの記事を書いていることを責任のみ仕事として認識し、大半を好きなこと、充実していることと思っています。あとから仕事という概念がついてくる、とそんな心持ちで書かせてもらっています。

その気持ちを持ち続けることが、仕事なんだとも思います。それを漫画家の真希は見失い、インターネットで自分の作品が非難されていることを知ると、漫画を描くことを一度止めてしまいます。けれど、また再び描こうと思い立つきっかけが、主人公との高校生の時の思い出で、純粋に漫画を読んで面白いと言ってくれた一言が嬉しかったと思い出すのです。真希にとって漫画が苦痛な仕事ではなく、自分の夢だったと思い出し、前に進むことを決心します。また、こじれた三角関係も修復され、真希は日山との関係を取り戻します。

晶子は失恋こそしたものの、きちんと自分の足で立ち、自分の力で人生を歩むことができるようになり、きっとこれからの彼女は、強く芯のある人生を過ごすのだと思います。新しく恋人ができたり、新たな展開がないまま完結してしまうので、私の憶測ですが、彼女は素敵な男性と出会い、つまらない人生ではない毎日を送ってくれるんだろうと期待しています。

自分の人生を生きるって難しいなあと考えさせられた作品でした。

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