るーみっくワールドを広げた偉大なる作品・めぞん一刻 - めぞん一刻の感想

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めぞん一刻

4.334.33
画力
4.27
ストーリー
4.17
キャラクター
4.40
設定
4.17
演出
4.50
感想数
3
読んだ人
20

るーみっくワールドを広げた偉大なる作品・めぞん一刻

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
4.0

目次

高橋留美子の魅力がわかるめぞん一刻

突然別の漫画の話になって申し訳ない。島本和彦『アオイホノオ』の話をしよう。

『アオイホノオ』の作中、己の描く漫画を模索する主人公・ホノオは、『うる星やつら』を読む。

そして、”なんだかよくわからないけど面白い留美子”の魅力に惹かれる。

高橋留美子が『うる星やつら』を連載中に『めぞん一刻』も始めるとなったとき、ホノオは心配する。「今まで二作続けてヒットした漫画家はいない。だが、これを出来たら留美子は怪物だ」と。

ホノオの予想は当たった。高橋留美子は、『うる星やつら』と『めぞん一刻』、両方で成功した(結果的にホノオは高橋留美子の魅力を”白目がちな目”と”日常感”と分析していたが、この話は今は置いておく)。

つまり、高橋留美子は怪物なのだ。…この一文だけを読んで、なんじゃそりゃと思った人は間違ってはいない。だが、よく考えてみて欲しい。

その心に一抹の疑いもないだろうか? 本当に、高橋留美子の才能は、怪物級だとは思わないか?

次項からは、『めぞん一刻』の魅力について考察していきたいと思う。

日常感からの方針転換 これぞ高橋留美子の実力

当初、『めぞん一刻』は一つのアパートに住む人々の楽しそうな日常を描く作品で、恋愛を描く気はなかったと高橋留美子は述べている。なんでも、高橋留美子が学生時代に住んでいたアパートの近所に、一刻館のモデルとなった賑やかなアパートがあったらしい。

だが、知ってのとおり『めぞん一刻』は主人公・五代と一刻館管理人・未亡人の響子の結婚という結末で物語を終える。

最初、恋愛ものとしてスタートする気がなかったのに、話はスムーズに二人の恋愛中心へと移り、キャラクターの誰かが置いてけぼりになることなく話を終えている。これは創作を志した人なら誰もが驚く、すごい技術なのである。

連載作品のうち、連載途中で物語のテーマの路線変更をした漫画は少なくない。有名どころでいえば、『家庭教師ヒットマンreborn』『世紀末リーダー伝たけし』などがそれにあたるだろう。

だが、それには大きなリスクが伴う。キャラクターの矛盾、伏線の雑な回収など、作者読者双方にとって、ん?と首をかしげたくなるような展開が多く、それが作品の評価を下げていることも多い。『リボーン』『たけし』は共にギャグからバトルへ転身し、結果として多くのファンを得たが、元のギャグが好きだった読者は寂しい気持ちも覚えたことだろう。

では、『めぞん一刻』はどうだろうか。『めぞん一刻』は、序盤はダメな浪人生・五代が、四谷や一の瀬など、周囲に振り回されながらなんとか受験に挑む姿が描かれている。決して優秀ではない五代は、周囲の妨害に合いながらも、響子への想いをエネルギーの一つとして頑張っていく。その姿はとても自然で共感が出来るものだ。

やがて五代は響子をますます意識しはじめるようになる。様々なアプローチをかけるが、ライバルである三鷹の出現、ガールフレンド(のつもり)の七尾こずえなどが現れ、響子との恋愛は思うように形を成さない。季節はどんどん流れ、五代は就職にも失敗、様々なアルバイトを始め、職を転々とする。それをあくまで他人として励まし、支える響子。時間が流れるうちに、五代は響子に何があったのかを知り、二人の仲はわずかに、わずかに進展していく…。

この”わずかに”が、『めぞん一刻』の最大のポイントなのである。

五代と響子の日常に、急転直下の大騒動が起こる訳ではない。日常のなかで小さな事故とちょっとした喧嘩が起こり、二人はなんとかそれを解決していき、結果として仲が”わずか”ずつ進展していく。日常のなかで、一刻館の人間たちにも色んな出来事が起こる。それをキッカケに五代と響子の仲が深まることもある。

つまり、『めぞん一刻』とは、等身大の日常を描きながら、人間の変化をわずかずつ描いたお陰で、結果としてハッピーエンドになった作品なのである。

いうならば、他の漫画家たちが60キロスピードの平常運転をこなし、時に100キロ超えのスピードを出して同乗者(=読者)を飽きさせない工夫をしているなかで、高橋留美子は30キロのノロノロ運転をし、途中道を歩く人の姿を見せたり、花や山を見せたりすることで、同乗者を最高の観光地まで誘導したドライバーなのである。

もちろん、これには高い技術がいる。ただノロノロ運転をしているだけでは、同乗者は飽きる。それが途中下車(連載終了)になっては元も子もない。高橋留美子が示すちょっとした風景や人々の姿が、時にはユーモラスで、時には愛おしく映るからこそ、同乗者は飽きずについてこられるのである。「創作を志した人なら誰もが驚く、すごい技術」というのは、ここに由来する。そこらの二流創作者では、何が魅力かもわからず暴走運転をしてしまうからだ。

『めぞん一刻』に高橋留美子の実力が見えるといったのは、まさにこの点である。

読者の上を行く結末 後世に伝わる五代くんの名言

更に『めぞん一刻』の考察をするうえで忘れてはいけないのが、『めぞん一刻』を名作たらしめた感動のシーンの数々。

すでに読者諸兄には思い思いのワンシーンがあることだろうが、ここでは筆者はあのシーンを上げたい。

響子へのプロポーズを終えた五代が、響子の死別した夫である惣一郎の墓を一人で訪れるシーンだ。

墓の下の惣一郎に対して、五代は告げる。正直貴方がずるい。僕が出会う前から貴方は響子さんの前にいる、と。

しかし五代はこう続ける。

「でも、貴方はもう響子さんの一部なんだ。

だから貴方をひっくるめて、響子さんを貰います」

それをひそかに聞いていた響子は静かに涙する。この感動のシーンである。

以前、五代は響子に、「いつも惣一郎の名前を聞くと不安になる」と告げ、それに対し響子は「じゃあわたし、どうしたらいいかわからない」と答えている。響子のなかで惣一郎はそれほど大きな存在であるとわかったうえで、五代はそんな響子を、惣一郎への想いごと受け入れる、と決めたのだ。

これが『めぞん一刻』の魅力だ。高橋留美子の才能なのだ。

平凡を非凡にわずかだけ変える力。高橋留美子の才能が味わえる『めぞん一刻』。

次代に伝えられる、間違いない名作である。

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五代君のキャラクターの変化について。

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