聖闘士星矢ブームを再燃させた作品『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』レビュー - 聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話の感想

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聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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演出
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聖闘士星矢ブームを再燃させた作品『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』レビュー

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
4.5

目次

車田版では語られなかった前聖戦を描くパラレルワールド

『聖闘士星矢』の原作者である車田正美が、『聖闘士星矢』本編のなかでわずかに触れた前聖戦・ハーデス軍との戦い。

アテナの戦士・聖闘士対ハーデス軍・冥闘士108星との戦いは熾烈を極め、聖闘士側の生き残りはたった2人。しかしその詳細は車田正美の手によって詳細に描かれることはなく、当時のファンは何があったか想像を巡らせていただろう。

それにメスを入れ、独自の解釈と『聖闘士星矢』への愛で脚色したのが、『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』である。それだけに飽き足らず、繊細な画力と原作に勝るとも劣らない重厚なストーリー設定で新規ファンを獲得したという面において、この作品の評価は高い。

さて、では具体的に『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』の何が高評価を受けるに至ったか、次項で考察していこう。

とにかく熱い黄金聖闘士の生き様

聖闘士星矢といえば、主役である青銅聖闘士たち5人を差し置いて人気があるのが、敵役であり星矢たちの偉大な先輩である黄金聖闘士だろう。

手代木版『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、そこをしっかり押さえているのも高評価のポイントだ。

物語と読み手たちを翻弄しながらも、己の使命に立ち向かった双子座アスプロスと、そんな兄と戦い、しかし信じたデフテロス。聖闘士のリーダー的存在でありながら、アテナを戦場へ連れてきたことに葛藤する射手座のシジフォス。悪役という蟹座の立ち位置を踏襲しつつも、己の持つ忌まわしい力を象徴する死の神と戦った蟹座のマニゴルドなど、手代木版黄金聖闘士は『聖闘士星矢』の黄金聖闘士の個性や役割、エピソードを踏まえつつ、新たなキャラクターとして書き起こしているのがもっとも印象深い。

このセリフ聞いたことがある、このシーン(ポーズ)は原作と同じ、などと『聖闘士星矢』ファンが思わず手を打つようなポイントが多いのも魅力だ。それは黄金聖闘士だけでなく、主人公・テンマや敵役である冥闘士にも同じことがいえる。

では次項では、もっと詳しく原作『聖闘士星矢』との共通点に注目していこう。

原作との類似点・キャラクターが意味するものとは

初めに断っておきたいのが、『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』はあくまで『聖闘士星矢』の過去を扱った、いわゆる正史ではなく、パラレル世界である、という点である。

つまり、車田正美が考えた『聖闘士星矢』の前日譚ということではなく、『聖闘士星矢』のキャラクターに一切の関係がないということは念頭に置いておきたい(車田正美が描いた正史たる前聖戦は、『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話 』に詳しい)。

しかしながら、自身が『聖闘士星矢』ファンである手代木版『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、単なるパラレル作品にしておくにはもったいないほど原作への考察、暗喩が込められた作品なのである。

例えば主人公・テンマと親友でありアーロンの関係性。アーロンはハーデスの器となる少年であり、もっとも清き心を持つという設定だが、この関係性は原作の星矢と瞬にあてはまる。だが、これはまだ序の口。『聖闘士星矢』ファンなら鼻で笑うほどわかりやすい設定だ。

では冥闘士でありながら、冥界三巨頭のうち誰の配下にも属さないベヌウの輝火(かがほ)はどうだろうか。これは炎の攻撃、そして黄金聖闘士に匹敵するという実力は、鳳凰座の一輝を想起させる。

また、水瓶座デジェルの旧友であるブルーグラードのユニティは、実の姉をオリハルコンの中に安置し、その力で遺体の腐敗は抑えている。これは白鳥座の氷河と類似点が多い。デジェルとの会話で白鳥座のくだりがあるのも、その暗喩(むしろファンにとっては、明確なサインともいえる)であろう。

このように原作の主人公サイドだけでも『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』との共通点があり、他のエピソード・キャラクターまで網羅すると、枚挙にいとまがないほどだ。

個人的には、射手座のシジフォスとその兄である獅子座のイリアスとの関係性や、原作では殺し合った射手座と山羊座が親しいことも評価したい。原作で射手座アイオロスを粛正した山羊座のシュラ。『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』の山羊座エルシドは、射手座シジフォスを兄のように慕い、眠りの神に囚われたシジフォスを命を賭して救いだす。ファンならば感涙物の展開を惜しげもなく加える手代木氏の手腕に脱帽し、深く感謝したい。

次代へ繋ぐ杠(ゆずりは)の心は、作品そのものの象徴となった

誰もが知る有名コンテンツ。それの続きとなる漫画作品の制作。

作者である手代木史織は、多大なるプレッシャーを背負っていただろう。

しかし、結果として『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、聖闘士星矢ブームを現代に蘇らせた呼び水の作品になった。

長年にわたって古参のファンによって支えられてきた作品に、新規ファンという新たな風を吹かせ、愛・経済ともに『聖闘士星矢』というコンテンツの更なる継続の力となった。それが2016年の聖闘士星矢30周年と繋がったことは、ファンならば承知の事実であり、また歓迎すべき事態だっただろう。

日本国内のみならず、海外にも人気は波及し、世代すらも超えた偉大なる漫画『聖闘士星矢』。それを広げ、更なる時代へと繋げた『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、奇しくも『聖闘士星矢』の作品の主題通りとなっただろう。

「星が流れ消えたとしても、こえていけ、わが友よ」

これはOVA版エンディングテーマの歌詞の引用であるが、『聖闘士星矢』を象徴する言葉であることは、ファンの誰もが知っていることだ。

作中に出てくる聖闘士たちは、みな若くして死ぬ。そしてそれを、誰も惜しいとは思わない。地上の平和のために戦うアテナの聖闘士として死ぬことに、誰もが迷いはない。同胞たちは涙を流し、それでも超えていく。次代のために力を尽くして生きることこそが、聖闘士の本懐なのだ。

プレッシャーを跳ね除け、『聖闘士星矢』という作品を次代に繋げた、『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』は、まさにこのテーマに倣った(もちろん、手代木氏本人がそう意図した訳ではない。完全な偶然である)、文句なしの名作なのである。

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