現在、過去、大過去と回想の断片を錯綜させ、響きと怒りに満ちたこの世のおぞましい地獄絵と人間の情念を描いた秀作 「天城越え」
この松本清張原作、三村晴彦監督の「天城越え」は、本物の映画だった。この映画は三村監督のデビュー作だが、おそらく彼が本当に作りたくて、何年間も執念を燃やし、親鳥が長い間、卵を抱いて孵化させるようにシナリオをじっとあたため続けてきたはずだと思うのです。作品に対する、このような粘っこい執念や情熱といったものが、画面を通して観る者に確実に伝わってくるといった種類の映画だった。そして、この種の映画は、ひとりの監督でも、そうやたらと作れるものではないと思う。生涯に1本ないし2本作れるかどうかだと思います。14歳の少年が、ひとりで天城越えをした。少年がひとり旅をするようになったのは、母の情事を目撃したからである。少年は、亡き父を裏切った母が許せなかった。少年にとって、それまで母は神であり、恋人であり、神聖な存在だった。その母が男に抱かれた。そんな母が、少年には許せない。母から逃れるために、彼は静岡の兄を...この感想を読む
4.54.5
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