雨月物語の評価
雨月物語の感想
乱世の詩情
上田秋成の同名古典文学を溝口健二監督が映画化したもの。近江の国の畔で戦乱の世に翻弄される一族を格調高いタッチで描いている。陶芸家の主人公をはじめとする男たちは戦を奇貨としてひとやま当てようと、長浜の市に出向くが、そこで妖艶な名家の娘の寵愛を受ける。その娘とは…。金や名誉に目が眩んだ男たちは喜劇的だが、その結果犠牲となった女たちにとっては痛々しい悲劇なのだ。戦乱の世のむごさを一つの家庭を通して見事に描き出している。また京マチ子の由緒ある娘が完全なはまり役である。中世の女性をここまで高貴で正確に演じた人は見たことがない。それだけに主人公を黄泉の国へと誘う時の彼女は恐ろしい美に満ちている。