フルメタル・ジャケットの感想一覧
映画「フルメタル・ジャケット」についての感想が6件掲載中です。実際に映画を観たレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
スタンリー・キューブリック監督が国家の病気としての軍隊を、シニカルに痛烈に批判した戦争映画の傑作 「フルメタル・ジャケット」
国家病理学というような学問は、まだ存在しないと思うが、あっていいし、あるべきではないか。そんなことをこのスタンリー・キューブリック監督がヴェトナム戦争を描いた「フルメタル・ジャケット」を観て感じた。なぜなら、この映画は国家の病気としての軍隊を描いた作品だったからだ。この映画は、ヴェトナム戦争の真っ最中の1967年におけるアメリカ海兵隊訓練基地での、一つの班の猛訓練と、翌1968年、ヴェトナム戦争の一つの山場となった、いわゆるテト(旧正月)攻勢に遭遇した彼らの戦闘ぶりとを描いているのだ。映画の前半部が訓練、そして後半部が戦闘なのだ。軍隊の猛訓練を描いた映画というのは、これまでにもたくさんあります。鬼軍曹が普通の青年たちである新兵を徹底的にしごいて、勇猛な兵士に鍛えあげるというのが、その基本パターンだと思う。その数多い軍隊訓練ものの中でもこの作品を際立たせているのは、ハートマン教官という鬼軍曹が四六...この感想を読む
兵士に求められるものは
国家が一旦戦争状態に陥れば、他のいかなる価値よりも戦争の勝利が最優先となる。たとえ勝利の代償が勝利自体による利益よりも遥かに高くついても。そしてその戦争に必要とされるのは、脱倫理的で任務の遂行のほかには一個も払わない冷酷な殺人機械である。鬼教官の有名なハートマン軍曹が教鞭をとる海兵隊訓練所はそうした殺人機械を製造する無機質な工場だ。それがうまく行き過ぎて温和で抜けたところのある「スノーボール」は完全に狂ってしまう。俺はスノーボールが危険な殺人鬼となった時の顔と、元の間の抜けた顔ととのギャップが忘れられない。まったくの別人のようだ。ヴィンセント・ドノフリオの演技力に脱帽するほかはない。
じわじわきます、真の戦争映画
タイトルの「フルメタル・ジャケット」は鉛の弾丸をニッケルなど別の金属で覆った弾丸のこと。人を殺したくない、戦争は怖い、という普通の認識の人間が、戦闘マシーンとして「装甲」されていく、といった意味を含んでいて、興味深い。ブートキャンプでの訓練風景は「サー・ノー・サー!」のかけ声やハートメン軍曹のキャラ、出で立ちなどが、後のあらゆる分野において引用される、印象深いシーンだ。映像、物語としては地味で、脚本としてもグッドセンスなわけではないがゆえ、評価の分かれるところだと思うが、そもそもこの映画に「ハリウッド調」を求めるのは無理な話。後半、実戦場のシーンは音楽もほとんどなく、トラップの恐怖、ベトコンの恐怖に追い詰められていく隊員たちの姿が抑制的に捉えられ、はっきりいって、見てて相当怖いです。アメリカの「戦争映画」というと英雄譚、奇妙に濃いヒューマニズム、正当化を平気でやってのける、などの悪態が...この感想を読む
そこそこ
面白いし美しい映画ですかね。前半部分は上官のデブ兵士に対するしごきがメインになるのですが、このしごきは見ていると辛くなりますね。「あーアメリカ軍もこんなしごき方をするんだ」と思い見てました。ただデブは主人公の助けをかりながらすこしずつ成長するのかと思いきやなんか狂ってしまいます。でもなんで狂ったのかという描写がないように思います。単純に訓練が嫌で、という理由なら主人公の助けの描写は不必要だし、自分が狙撃兵になれなかったからというのも兵士の配属が志願なのか強制なのかはっきりさせていないのでよくわかりませんね。後半は戦場のシーンがメインになるのですが、なにを描きたいのかわかりません。結局描き方はいつものアメリカ映画と同じように「アメリカの美化」に尽きると思います。最後に狙撃兵を倒したあと、たとえ敵でも情をもって接するという描き方が、途中にある農民たちをゲームでもしているかのように殺している...この感想を読む
コメディ?いやドキュメンタリーだ
スタンリー・キューブリック監督作品で、これに続く様々な人や作品にも影響を与えた、名作の中の名作です。舞台はベトナム戦争中の海兵隊のブートキャンプでの訓練風景から始まります。ダメなデブ曹長が教官に絞られ、仲間にもいじめられ、その描写が何とも滑稽でありながらシニカルで笑いながら笑えない部分も含んでいます。さすがスタンリー・キューブリックと言った感じで軽く見ながらも心に訴えかけるものがあります。そして、デブ曹長の結末はかなり戦争の狂気を表していて怖いものがあります。そして、最後はベトナム戦争に派遣されて、スナイパーとの戦いなのですがそれはスリルが合ってがらっと印象が変わります。さすが名作です。
過酷な軍人訓練とベトナム戦争
当時はベトナム戦争の真っ只中であり、徴兵されてきた若者が鬼軍曹によってしごかれる場面が前半であり、そして兵隊として戦地のベトナムに出撃して現地での経験が後半となっています。したがって二面的な構成となっており、キューブリックなりのテーマがあったかもしれませんが、全体として少し味わいが分かれてしまっている点があります。それでも軍学校でのスパルタ教育は面白く、鬼教官であるハートマン軍曹の存在感は光っています。後半では当時少年少女も従軍していたベトナム兵の現状を示した意外な落ちになってはいますが、前半の破滅的な結末と同じく、戦争の皮相的な面をえぐる意味合いがあるように思えます。前半と後半で二つの物語を楽しめるという見方もできますし、場合によってはテーマの描き方がぶれていて失敗作とみなす人もいるそうです。