悪童日記の感想一覧
アゴタ クリストフによる小説「悪童日記」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
清々しいまでに新しい児童文学の皮を被った大人の小説
児童文学という形式に隠された作者の狙い悪童日記は今や、いわゆる世界文学古典の一つとなっています。作者のアゴタ・クリストフはほぼこの一作をもって世界的な作家になったのです。しかし、実際に読み始めてみると子供向けの児童文学のような文章が目に飛び込んできます。日本の文章がうまいとされる作家にみられるような複雑な比喩なんてものは書かれていません。日記調ですし、本当にかしこい子どもが書いたくらいの文章のように思えてしまいます。もちろん、これらの全てに作者の構想が詰まっているのですね。たとえば、ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」の冒頭は幼児のような拙い文章ではじまります。これにも凄まじい狙いがありました。悪童日記の文体の狙いはアルジャーノンのそれほどわかりやすくはないのですが、深い効果をもたらしています。私達は「世界文学」と聞くとドストエフスキーやジョイスなどの重厚長大で難解なものを思い...この感想を読む
父親はなぜ殺されたのかー『悪童日記』の読後感について
重たいテーマを読みやすくする、『悪童日記』独特の手法戦争はもちろん、いじめや貧困、聖職者の堕落、倒錯的な性描写(ホモセクシャル、被虐趣味、獣姦)、ユダヤ人へのホロコーストなど暗い題材が目白押しであるにもかかわらず、この作品の読後感は悪くない。なぜだろうか。『悪童日記』は第二次世界大戦中のヨーロッパ、ハンガリーと思われる国の小さな町を舞台にした小説である。とはいえ文中では具体的な描写が意図的に省かれ、実際は作品の舞台がどこなのか特定できないようになっている。読者としては時代背景、舞台を想像で補うしかないのだ。しかし作者はこの手法によって生々しくなりがちなこの時代のストーリーをどこかファンタジックで、虚構的に現すことに成功している。そのため作品は悲劇を示唆する段階にとどまっている。読者は現実で起った戦争という事実に向き合わなくてすむというわけだ。また作品は数ページ一セクションのまとまりで構...この感想を読む
斬新。
高校生の時に図書館で読みましたが、奇妙な設定に驚いたのを覚えています。一切の感情を切り捨てた単調な「作文」形式であるのに関わらず、痛いくらいに双子の気持ちが感じさせられたり…。印象的だったのは、特訓の話と、物乞いの下り。互いを鞭で打ち合って痛みには慣れても、優しい言葉に涙が溢れるところや、「金貨やお菓子は捨てられても、頭に受けた愛撫は捨てることができない」のところです。この部分がとても印象的で、忘れられない。まだ幼い少年の話であることをふと思い出して、切なくなったのを覚えています。垣間見える必死さが、「悪童」の呼び名に似つかわしくない程哀しい。兎っ子が死んだところなどもそうですが、作中では余り描かれていない、背景にある「戦争」の言葉がずしりと重く感じました。味気ないくらい単調な文書だからこそ、ふとした描写にはっとさせられる。こんな小説もあるんだなぁと、斬新さでいつまでも頭に残っていて、...この感想を読む
戦争の中で生きた双子の話
ど田舎に住んでいるおばあさんのところに疎開してきた双子たちが、厳しい戦争時代をいかに生きのびるか、その中で二人がいかに「成長」してゆくかが、日記形式で語られています。その内容たるや、非常にハードでエログロの類の内容も多々ありますが、子どもの文章の訥々さによって、何となく救われているように思います。ただ、この日記にはルールがあって、事実だけを書き、感情を省いた記述になっており、そこには「怖さ」さえ感じてしまいます。とは言うものの、かれらを化物だと思うのではなく、「戦争」と言う事実の前に、子どもたちが生き残って行くためにどうすればいいのかと言う問題提起のように思えます。そのハードな生き方が、「戦争」と言う状況下の中でどこまで許されるのか。まさに「不条理な世界」が展開します。人間の本質的な「醜さ」のようなものを見せつけられた気がします。