名匠ジョセフ・ロージー監督がアラン・ドロンと組んだ不条理劇の秀作「パリの灯は遠く」 - パリの灯は遠くの感想

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名匠ジョセフ・ロージー監督がアラン・ドロンと組んだ不条理劇の秀作「パリの灯は遠く」

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
4.5
演出
5.0

この「パリの灯は遠く」(原題Mr.Klein)は名匠ジョセフ・ロージー監督が「暗殺者のメロディ」に続いてアラン・ドロンと組んだ不条理劇で、フランスのアカデミー賞とも言われるセザール賞の1976年度の作品賞・監督賞・美術賞の3部門を受賞した秀作であり問題作でもあります。

映画はまず、裸の女性が白衣の男性に体を無機質に調べられるという、何か異様な暗示的なユダヤ人の場面から幕を開けます。 1942年のナチス占領下のパリを舞台に、ユダヤ人狩りが始まりそうな雰囲気の中で物語は展開していきます。

アラン・ドロン扮する美術商の主人公クライン氏が、自分と同姓同名のユダヤ人と間違われているかもしれないという恐怖・不安・焦燥感の中で不条理な姿の見えない、ある大きな存在によって袋小路へと次第に追い詰められていく状況を、静かな語り口で淡々と描写していきます。 それは、まさにあの小説家カフカの描く、不条理な世界そのものです。

主人公のクライン氏は、自己のアイデンティティを証明する為に、もう一人の自分探しを行なっていく中で、自分とは何者なのかという漠然とした不安に苛まれながら、もう一人の自分である正体不明の男に翻弄されていきます。

映画全編を覆う、陰鬱で暗く沈んだような描写は、まさにジョセフ・ロージー監督のもつ映像美学の世界であり、その世界観に酔いしれてしまいます。 映画は、ラストのアウシュビッツ行きの収容列車の暗示的な場面で幕を閉じますが、優れた映画が皆そうであるように、この映画は我々観客の一人ひとりの心に問題を投げかけ、様々な事を沈思黙考させる映画です。 最後に出演場面は少ないながらも、ジャンヌ・モローの圧倒的な存在感はさすがの一言に尽きます。

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