人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念を描いた「パピヨン」 - パピヨンの感想

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人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念を描いた「パピヨン」

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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1931年にアンリ・シャリエール(パピヨン)は、無実の殺人罪のため、南米フランス領ギアナへ流刑になりました。 それから13年にも及ぶ過酷な監獄生活の中で、何度も脱獄を試み、失敗した後、懲治監でのまるで地獄のような想像を絶する極限の生活に耐え抜き、最後に絶海の悪魔島からベネズエラへの脱出に成功して、遂に自由を勝ち得たのです。

彼(パピヨン)の異常で、過酷な体験をもとにした実録物は、1969年にフランスで出版されるや、今世紀最大の冒険ロマンとして読者の大きな感動を呼び、1973年までに世界17カ国で1,000万部以上の超ベストセラーになりました。

そのあまりの反響の凄さは、フランス政府を動かして、1970年に彼は特赦を受け、40年ぶりに晴れて母国フランスの土を踏みましたが、その喜びも束の間、1973年7月喉頭癌のため65歳でこの世を去りました。 彼のその生涯は、まさに無実に対する、絶える事のない苦闘と抵抗で費やされた一生でもありました。

この映画「パピヨン」の最も核となる重要なテーマを暗示するシーンである、かつて独房で見た悪夢の中で、パピヨンは、「自分の本当の有罪は人生の浪費である」と嘆きましたが、"ひとりの人間に人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念"が、まさにこの映画の基調であり、底流を流れる不変のテーマなのです。

この映画の脚本は、かつてアメリカでマッカーシズム(赤狩り)の嵐が吹き荒れていた、1947年の上院非米活動委員会から赤のレッテルを貼られて、アメリカ映画界から追放されたドルトン・トランボで、彼は証言拒否で1年の刑を科せられました。 その疑惑が晴れて、映画に関する活動を復活させたのは、1960年であり、その間、変名で不朽の名作「ローマの休日」(ウィリアム・ワイラー監督)のシナリオを書いたりと、つらい忍従の生活を強いられたのは有名な話です。

つまり、ドルトン・トランボ自身がパピヨンことアンリ・シャリエールと同様の無実の罪に泣いたのであり、"人間としての尊厳と誇りを奪った権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念"をこの映画に仮託して描いたのです。 ドルトン・トランボは、映画のファースト・シーンで敢えて刑務所長という役で出演して、自らの無念の思いを皮肉を込めて演じているのです。

主演のパピヨン役のスティーヴ・マックイーンは、「大脱走」(ジョン・スタージェス監督)や「ゲッタウェイ」(サム・ペキンパー監督)等の脱走物が得意な俳優ですが、彼自身も不遇な少年時代に感化院から4回の脱走を図っているそうで、彼のいつも何か憂いを含んだ哀しい瞳の奥に彼の過酷だった幼少期の人生をいつも感じてしまいます。 そして、彼のこの映画に賭ける凄まじい執念の演技は、観る者の魂を揺さぶり、感動させる素晴らしいものでした。

相手役の債券偽造のプロのドガ役のダスティン・ホフマンは、一見、気弱に見えますが、芯の強い個性に満ち溢れていて、「わらの犬」(サム・ペキンパー監督)ではあくどい不条理な暴力に対して、徹底的に反撃する物静かな数学者を演じて、オールラウンド的な彼の演技の幅の広さ、凄みを見せつけられました。

当時の大スターのスティーヴ・マックイーンと一流の演技派のダスティン・ホフマンという、二大俳優の初顔合わせとその演技のアンサンブルを観るというのが、この映画の大きな魅力になっているのも映画ファンとしては見逃せません。

監督はフランクリン・J・シャフナーで、彼は極限状態に追い込まれた人間が、全力で戦い抜くというテーマを追求し続け、「猿の惑星」や彼の代表作とも言える1970年度のアカデミー賞の最優秀監督賞を受賞した「パットン大戦車軍団」では、偏屈で政治性はありませんが、人間味と剛直さに溢れたパットン将軍という、カリスマ性に溢れた執念の男を、実に見事に描いていました。

音楽は、「猿の惑星」や「パットン大戦車軍団」でもフランクリン・J・シャフナー監督とコンビを組んでいる、ハリウッドを代表する映画音楽家のジェリー・ゴールドスミスで、彼のリリカルで哀愁を帯びた、心の琴線を震わす、この「パピヨン」のテーマ曲は、映画の感動と共にいつまでも心に残り、映画を思い出す度に鮮烈に甦ってくる永遠の名曲です。

この「パピヨン」のような、いわゆる"エスケイプ映画"は、"拘束からの解放をテーマとして束縛の苦しみ、自由への渇望、脱出への闘い、そして最後に手にする、限りなき自由の喜び"を描くものですが、この自由と不自由との落差が大きければ大きいほど、脱出のハラハラ・ドキドキのスリルと迫力が強烈になってきて、我々、映画ファンをスクリーンにくぎ付けにしてくれます。

フランスのような自由社会において、この映画で描かれたような悲惨な流刑制度が、最近まであったという事実は驚きでもありますが、社会体制が違っていても、人間の自由へのあくなき渇望の強さに変わりがない事は、ソルジェニーツィンの代表作の「収容所群島」を読んだ時にも感じた事であり、また彼の処女作でもある「イワン・デニーソヴィチの一日」の映画化作品を観ても、映画が描く"人間の、人間による拘禁の過酷さ、激烈さ、非情さ"は、我々現代人が忘れかけ、失いかけている自由への勇気と情熱をかき立ててくれます。

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