戦艦、それはすなわちロマンの権化 - バトルシップの感想

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戦艦、それはすなわちロマンの権化

4.54.5
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

戦艦

本作のタイトルにしてテーマ、BATTLESHIP、すなわち戦艦。それは軍艦の艦種の一種だ。強力な艦砲、強固な装甲、そして巨大な船体を兼ね備えたそれは、かつて海上決戦の主力になるはずだった存在だ。時代が流れ、世界中の軍隊が扱わなくなり、海上からその姿を消してもなお、歴史に深くその概念を刻み込んだこの艦船は、現代においても多くのファンを生みだしている。

残念ながら、制作本国たる米国では残念ながら興業として失敗したと言わざるをえない本作であるが、日本においては数ある洋画の中でも記録的なヒットを打ち出している。地上波放送がなされた際には、俗にバトルシッパーと呼ばれるファンたちのTwitterを介した視聴実況により当日のトレンドワードランキングが見事に占領された。こうした本作の記録的ヒットは、単純に本作の面白さを裏打ちするものであると同時に、上述した戦艦の持つ魅力というものを証明するものであると言えるだろう。では、そこまで言う戦艦の魅力とは何なのか、そして本作のどのあたりでその魅力を輝かせていたのだろうか。

大艦巨砲主義

上述したが、戦艦とは言ってしまえば、大きい砲を持った強い艦だ。作中の台詞を借りるのであれば、恐竜みたいなもんである。この比喩は決して過言では無く、おそらく初めて見る人は確実にその威容に圧倒されることだろう。作中で活躍した戦艦ミズーリは記念艦として実際に見ることができる為、本作で惹かれたという方は機会があれば見学してみるべきであろう。きっと、すごい船だ、と言わざるをえなくなるはずだ。話を戻して、当然、そのように巨大な艦船を作るには、優秀な造船技術と莫大な費用が必要になる。よって、これを建造および運用することができるということ自体が、その国の国力を示すステータスとなっていた。もちろん、銅像のように権威を示す飾りでは無く、実際の戦闘においても戦艦は戦果を挙げている。そういった時代の中で列強の国々は、より大きな船を作り、より大きな主砲を載せることに執心した。こういった傾向を大艦巨砲主義と呼んだ。

戦艦に惹かれる人、その多くはおそらく男性であろう。それはおそらく、大きくて、カッコよくて、力強いものに惹かれる、男子としての本能に起因する。あるいはロボットアニメに惹かれるように、戦艦の持つそういった要素に魅せられてしまう訳だ。ただ、特別に戦艦に惹かれるとしたら、上述したような歴史を戦艦が持つからだろう。かつて国々が、優秀な科学者や技術者たちがそのプライドをかけてその技術を競い合い、多くの海兵たちが乗り込み海を駆りその巨砲でもって鎬を削った。この兵器に多くの人たちがかけた熱意、かつて現実にあったその雄姿、間違いなく一つの時代を築いたその歴史にこそが巨大兵器の中でも戦艦だけが持つ特別な魅力であるといえるだろう。

時代錯誤

かつて一つの時代の主役となり、国々が心血を注いだロマンあふれる兵器である戦艦だが、残念ながら、現代において実際にその雄姿を拝むことはできない。上述したように、時代の変化によって戦艦という兵器は不要と判断されたからだ。第一次世界大戦においては輝かしい戦果を世界中で挙げた戦艦であるが、第二次世界大戦において主力兵器としての位置を各種航空戦力によって取って代わられることとなる。戦闘機に代表される各種航空戦力は戦艦に比して圧倒的なコストパフォーマンスと共に戦艦以上の戦果を挙げた。こういった有用性を実戦でもって真っ先に世界に証明したのが、大艦巨砲主義を極め、世界最大の戦艦大和を建造していた日本であるというのが、とんでもない皮肉である。かくして、世界中の軍隊はこれを契機に戦艦ではなく、航空戦力の拡充に力を入れていくこととなった。もちろんこれ以降、戦艦が突然一切使われなくなったわけではない。朝鮮戦争や湾岸戦争にも、その威容でもって直接参戦している。ただそこに、かつてのような活躍の場は存在しなかった。

戦争というのは外交手段であり、また国を挙げた経済活動であるともいえる。であるならば、求められるのは当然、最小の労力と最大の成果だ。この傾向はもちろん、兵器にも当てはめられることとなる。多大な費用や労力を要し、出しうる成果ももっと効率よく出せる手段が他にあるというのであれば、そういった要素は排除されていく。すなわち、建造や運用にすさまじいまでの費用がかかり、訓練された多くの海兵がいなければ動かせず、その火力的な優位も爆撃機やミサイルに取って代わられた戦艦は、時代の流れの中でその存在自体がナンセンスなものとなった訳だ。結局現実において、戦艦は徐々にその姿を海上から消していき、1992年の戦艦ミズーリの退役でもって、我々が現実に戦う、戦艦のその雄姿を拝む可能性は完全に潰えた。

だが、そういった現実があるからこそ、本作のクライマックスが最高に映えるのだ。ありえないはずのものを見せつける。それこそ、創作の本領であろう。言ってしまえば戦艦の活躍など時代錯誤、だがその時代錯誤こそ、私たちが見たかったモノなのだ。

主砲一斉射

本作では、技術力で優位に立つ異星人側の電波妨害により、現代戦の主役である数々のハイテク兵器が使用不能となってしまう。その中で奮闘するものの、海上戦力を失くした主人公陣営が最後に頼ったのが、既に記念艦となり、役目を終えてしまったハズの戦艦ミズーリであった。かつて技術躍進によって時代においていかれたハズのアナログ兵器の戦艦が、敵の超技術によってアナログ兵器だからこそ駆りだされるというのは、なかなか良い皮肉が効いている。加えて、戦艦の操船を主人公たち若い人間だけでは無く、かつて実際にその戦艦に乗り込んでいた老兵たちが担っているというのが実に盛り上がる。この古き海兵たちのキャスティングに、実際にミズーリに乗り込んでいた本物の元乗組員たちを起用している点からもこだわりが感じられる。老兵たちが培い保持してきた技術により再現されるのは、間違いなくかつて海上にあった戦艦の雄姿そのものだ。元々戦艦が好きな人間ならば、こういったこだわりに盛り上がら無いはずがない。

最後の戦闘においても、戦艦の持つ力と魅力がふんだんかつ存分に発揮されている。主人公主導の無茶苦茶な操船と名台詞から始まる人類の大反撃はまさしく本作最大の見せ場であっただろう。この戦闘の中でも、戦艦が最大火力を発揮する為に船体側面を敵に向けた状態ですることや、小型艦であれば一撃で船体が折れかねない一撃を受けても継戦可能な防御力など、戦艦の取るべき戦法や持つ強みがしっかりと描写されている。そしてなによりも、その圧倒的火力を誇る、超巨大主砲、その一斉射だ。あまりにも痛快なその大迫力にこそ、戦艦の持つ魅力、その真髄が宿っていると言っても過言では無い。多少現実味に欠けるものの、それでも戦艦への大きなリスペクトから来るのであろうこういった描写たちこそが、私たちが本作に惹きつけられる大きな要因であると言えるだろう。

ロマン

戦艦は時代遅れの兵器である。その現実は決して揺るがず、これから先の未来、再び戦艦が復権するということはそれこそ異星人の侵略でも無いかぎりありえないことだろう。だがそんな、時代遅れの兵器である戦艦の活躍がこんなにもカッコいいのは、そこにロマンがあるからだ。戦艦がどれだけ時代遅れになろうとも、多くの技術者が戦艦にかけた情熱や兵士たちと共に挙げた輝かしい戦果、かつて海を駆け抜けたその歴史は決して揺るがない。その歴史があるからこそ、実際の雄姿を見たことが無い現代の我々ですら戦艦に惹かれ、その雄姿を夢想できる。そういったものの具現が、本作クライマックスの大活躍だ。現実的な戦略価値など関係なく、ただ憧れた夢が形になったものに、ロマンが溢れないハズがない。

時代に流され、たとえ誰に使われることが無くなったとしても、戦艦のカッコ良さはそう簡単には沈まない、それを本作は示してくれている。

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