決して名作ではないがSF好きをしっかり唸らせてくれるような作品 - アイアン・スカイの感想

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アイアン・スカイ

4.004.00
映像
4.00
脚本
3.75
キャスト
3.75
音楽
3.75
演出
4.50
感想数
2
観た人
2

決して名作ではないがSF好きをしっかり唸らせてくれるような作品

4.04.0
映像
4.0
脚本
3.5
キャスト
3.5
音楽
3.5
演出
5.0

目次

映画を見た人であれば分かると思いますが、正直なところこの作品はB級SF映画の中でも名作に分類することは極めて難しいような存在です。ストーリーにほとんど関係がないような無駄な人間パートが多く、テクノロジーの格差などSFに関する内容も中盤からはあまり触れられなくなり、そもそも地球での話の割合が多く宇宙は最初と終盤しか舞台になりません。

それでもこの映画には、決して名作ではないけれど視聴後に見て良かったと感じられるような不思議な魅力があると私は思うのです。ここでは、その理由を分析しました。

B級SF映画としての基本を押さえている

細かい考察による綿密な世界観設定や、用いられるテクノロジーの解説、これまでにない奇想天外なストーリー展開、物語を通して伝えたいテーマ性、主人公たちの葛藤や対立、団結など、A級SF映画に求められることは複雑かつ様々です。

一方B級SF映画に求められることはそれほど難しくありません。しっかりと戦闘シーンがあるか、分かりやすい倒すべき敵がいるか、見ていて楽しい気分になり笑えるか、その程度です。そして、このアイアン・スカイという映画はそれらを全て満たしています。一部怪しく感じるような部分が無いとは言いませんが、しっかり軌道修正し、全体としては奇をてらい過ぎて見る者を困惑させる作品ではなく、見ていて楽しい痛快SF映画に仕上がっているのです。

予算の不足や脚本と監督の対立などからこの基本すらおさえられていない悲しいSF映画が少なからずあることを考えると、この点だけでもアイアン・スカイには一定の評価をすることができるのではないでしょうか。

オマージュ元が独特

この映画に月面ドイツ軍の主力として登場するのは、ツェッペリンやヒンデンブルグなどの1930年代ドイツの飛行船をモチーフにした宇宙船です。画面を埋め尽くすほど登場するこの船ですが、正直なところその外観はダサいとしか言いようがありません。また、この宇宙船に関する説明はほとんどないため、そのデザインには秘密があったり、外見は格好よくないけれど中身にロマンがあるといったわけでもないのです。

また、この船ばかりが登場するため同じ形ばかりで画面が単調になっているのも問題です。あくまでやられメカに過ぎないとはいえ、一応主力艦なのですからもう少し何らかの工夫があれば良かったなと思ってしまいます。

しかしながら、かつてのドイツの兵器を参考にするのであれば、格好の題材はいくらでもあります。ジェット戦闘機やロケット迎撃機に単発双胴偵察機、巨大戦車、巨大自走砲、巨大グライダー、などなど、参考となる物が少なすぎて困ることはまずないはずです。その中であえて飛行船を選び、しかもそれを主力に設定して大量に画面に登場させたのは、他ではなかなか真似できない独特のセンスと言えるでしょう。最初は典型的なUFOのような物を出し宇宙船デザインは適当かと視聴者に思わせてからのこの急展開は、B級映画としてかなり優れている点であると考えられます。

世界各国宇宙軍の終結シーンが熱い

この映画には、ひとつの大きな見どころがあります。それが、世界各国がこっそり隠していた宇宙軍を一斉に展開し、月からの侵略に立ち向かうシーンです。

このシーンは、いがみ合っていた国々が力を合わせるという王道をしっかり押さえた驚くほど丁寧なものとなっています。これまでの冗長な部分が少なからずあったストーリーと比べて大きくスリムアップもされており、驚くほど無駄もなく簡潔なのも特徴です。

また各国の宇宙船に加えなんと運用を終了したはずのロシア宇宙ステーションミールも参戦、SFファンであれば「Mir join on the battle」の声を聞いて画面の中の各国代表と同じように拍手せずにはいられません。

さらに、持っていないと主張していたほとんどの国が宇宙軍を隠し持っていたことがバレて議場が大揉めに揉めるなど、見ている人を笑わせてくれるような展開も完備。一連の流れは非常に面白く完成度の高いものです。

他の時間がどんなにつまらなくてもこのシーンだけでお釣りがくると個人的には感じるほどの名シーンであり、私ほどではなくても多くのB級SF映画ファンがこのシーンを好み高く評価しています。これまで感じたもやもや感や物足りなさなどを一発で吹き飛ばしてくれるような素晴らしい場面が一つあるというのは、B級映画のみならずA級映画の中でも誇れるような良い点と言えるでしょう。

まとめ

これまでに挙げたような良い点があるものの、微妙に感じる、惜しいと感じるような部分も多く、やはりこの作品傑作B級映画と言うことは難しいかと思います。

しかしながら、映画は傑作で泣ければ面白くないというわけではありません。癖がある、アクが強いけれど面白い、万人受けはしないけれど好きな人はハマる、アイアン・スカイはそんな作品群に分類する、独特の魅力を持つSF映画なのです。

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