戦争や武力といった難しいテーマをよく表現しているアニメ
目次
登場人物が多くて分かりにくいが、ヨルムンガンドはヨナ視点の物語である
冒頭、少年兵ヨナの紹介から始まる物語ですが、このアニメは登場人物が多く、誰視点の物語なのかが終盤まで分かりにくくなっています。しかし、終盤ではヨナから見たココヘクマティアルが魅力的に描かれていることで、この物語はあくまで少年兵のヨナから見ていた世界であることが分かります。上手く伏線回収が出来ているアニメではないでしょうか。ラストが原作と異なっているのか気になる方も多いでしょうが安心してください、このアニメは原作を忠実に再現してくれているのでラストも漫画と一緒の終わり方です。アニメと漫画の違いというと、思っていたよりもヨナが大人びた感じに描かれていること、漫画ではもう少し幼稚なキャラに描かれているココが少し大人しくなっている点が少し違っているかもしれません。ただし、概ね漫画の原作通りのストーリー展開となっているので、アニメを見てから原作を読んでもすっと違和感なく読み進められます。
戦争や武力などがメインの善悪の判断が難しいアニメ
アニメの前半部分ではココが武器商人として悪いことをしていますが、実際は仲間思いの良い人のように描かれています。しかし、ラストにかけてのぶっ飛び具合が凄く、小さい頃から悪の世界を見続けてきたココの精神状態は既に崩壊していたことが分かります。少年兵を経験したヨナだからこそ、小さな頃から望んでもいない戦争や武力に巻き込まれてきたココの思いが分かるという複雑な心理描写がよく出来ているのではないでしょうか。最終的に悪を滅ぼすためには多少の犠牲は構わないといった、そもそも戦争が起こる原因は人間のこのような心理状態から生まれるんだよなと考えさせられるラストでした。この独裁者のような終わり方は、誰しも正しい選択を出来るわけではないんだということをテンポよく視聴者が飽きないように伝えてくれるので見やすく、誰が見ても善悪の判断が難しい作品になっているので、それぞれのキャラの視点で再度見ていくと違った表情が見えるアニメです。
キャラクターの個性がすごく魅力的な作品
ヨルムンガンドはココ率いる隊の人数が多いため、毎回アニメで出てくるキャラも多くなっています。あまりキャラが多くなるとそれぞれの個性が薄くなりそうなものですが、このアニメではそれぞれキャラクターの個性が際立っています。特に隊に女性が少ない分、女性は一層個性が強めのキャラになっているので、戦争という暗くなりやすい物語のなかで華やかさを保つこと効果も発揮しているようです。男性陣は女性よりも一般人要素を加えることで、視聴者が共感しやすいようになっていると感じます。一般人要素を取り入れつつも暗い過去を持たせたり、それぞれ違う思惑を持たせてキャラの個性を際立たせることに成功をしているのではないでしょうか。敵味方関係なく登場人物全員を魅力的に描くことで、絶望的で途中で飽きがきたり、話が重すぎて見ていられないような題材でも、しっかりと終盤まで話の勢いを保ったままラストを迎えることが出来ています。
ココ・ヘクマティアルの過去が彼女を崩壊させたのではないか?
ココヘクマティアルは中盤まではしっかりと考えのある人物のように描かれていて、終盤にかけてはどんどん精神的に可笑しな人になっています。ヨナがココの元から去ってしまってからは、発言も大分危うい感じになっていて、ヨナはココの理性を保つ存在となっていたのでしょう。自分の意志に関係なく生まれ育った環境で、武力や権力の醜い争いに巻き込まれてしまった幼い少年兵のヨナに、ココの自身の過去を重ねてしまっているのではないかと感じます。たまたま武器商人の家に生まれてきて、無自覚のまま他人の人生を巻き込み、あげくの果てに家族同然だった大切な人を自身の護衛という形で殺してしまった罪の重さを小さな頃のココでは受け止めきれず、悪を排除するには多少の犠牲は仕方ないという思いに至ったのではないでしょうか。ココもまた戦争や武力の被害者であったということが読み取れるように、人間の醜悪を思い切り極端に描かれている点が評価できるアニメとなっています。
誰しもが何かを背負って生きているということを考えさせられる構成
ヨルムンガンドでは登場人物全員が何かしらの事情を背負って生きています。誰しもが何かを背負って生きているという風に描かれていることで、リアリティーが増し引き付けられるアニメ構成となっているでしょう。悲劇的な演出があるアニメでは誰か一人が可哀相に描かれていることがよくありますが、このアニメで出てくる人達は皆辛いことがあっても前向きに生きています。主人公であるヨナも悲惨な過去を経験して来ているにも関わらず、自分だけが惨めで可哀相といった感じを出してはいません。ヨナとココ、それから隊のメンバー皆が死に関わる辛い経験をしてきたからこそ、自分だけではなく世界規模で同じような思いをしている人が沢山いると分かっていたのではないでしょうか。それぞれの登場人物の感情を分かりやすい形ではなく、視聴者が考えられるように作られているのが高評価出来るポイントだと思います。
声が思っていたのとは少し違ったところが少し残念
原作では思いっきり子供染みたことをするココの声が、大人びた女性の声であることに見始めて直ぐに違和感を抱きました。また、ヨナの声も想像していたよりも大人っぽい声で、ココとヨナの声は子供っぽい声があてられるのではないかと予想していたため少し驚きました。シリアスなテーマだからこそギャグ要素を軽くするために大人っぽい声をあてたのかも知れないですが、両者の声を子供っぽい声にしたら、本来は戦争に巻きまれるはずのない少年であることやココの精神年齢が低そうな伏線が出来てラストに上手く繋げられるのにと残念に思いました。他の声優に関しては、特にバルメなどは予想していた通りのお姉さん風の声があてられて見ごたえたっぷりでした。しかし、主要キャラの2人の声が期待外れだったので、声優に関しては低い評価を付けました。
映像は忠実に再現してくれていて原作ファンも納得の仕上がり
原作が漫画のアニメは結構修正が入り、シリアスな絵柄のはずなのに何故かロリ系のアニメの仕上がりになっていることもしばしば。ですが、このアニメは漫画をそのまま映像に再現してくれているので、シリアスな絵のままアニメになっていて原作のファンにとっては嬉しいアニメとなっています。特にメインキャラのココの顔がそのまま可愛く修正されずに映像化されているので、シリアスな物語にぴったりです。そもそもタイトルにもなっていて終盤重要になってくる兵器のヨルムンガンドとは、北欧神話に出てくる毒蛇のことなんですよね。神々の脅威となるとされ、海に捨てられたヨルムンガンドは着々と力を蓄えるんですが、まさにココも周囲から恐れられるヨルムンガンドのような存在でした。物語の中盤でもココは脅威となると周囲に言われていますが、実際その通りの独裁者エンドとなっていました。漫画とアニメの冒頭で、「五つの陸を食らい尽くし三つの海を飲み干しても空だけはどうすることもできない。翼も手も足もないこの身では。我は世界蛇。我が名はヨルムンガンド」という言葉が語られているので、タイトルを考えてから物語を作成したのかもしれません。結局、神話を超え空をも制したヨルムンガンドの物語となっていました。
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