同原作者の作品「夏目友人帳」と比較してみた。
「夏目友人帳」のスタッフが制作
この作品は、原作者が同じである「夏目友人帳」のアニメスタッフが制作している。たぶんほとんどの人が「夏目友人帳」の方を先に見ているのではないだろうか。「夏目友人帳」と通ずる点は?大きな違いは何か?じっくり比較してみようと思う。
舞台はどちらも 緑豊かな 田舎まち
「蛍火の杜へ」は奥深い山でのシーンが多いが、蛍のおじいちゃんの家があるのは畑や田んぼが広がる田舎である。山々が広がり、小川が流れている風景は「夏目友人帳」と通ずる点である。「蛍火の杜へ」を観始めて、「夏目友人帳」でも観たような風景が出てきたので、ホッと落ち着く感じだった。
「夏目友人帳」にはいくつかの癒しポイントがあると思うのだが、そのひとつはその田舎の風景であると思う。多くの自然や小さな神社や祠が描かれ、そこで暮らす人々の穏やかな雰囲気は、夜中でも車の走る音がする街で暮らす私からすると、憧れでもあり、心を落ち着かされる癒しポイントなのである。
そして「蛍火の杜へ」も同じ雰囲気を感じる事ができる。音楽も映像ととてもマッチしており、ヒーリングミュージックに近い楽曲が、山や森の洗練された雰囲気と合っていて、観ているだけで木陰の涼しさが伝わってくるようだ。
「夏目友人帳」では、舞台のモデルとなった地が観光スポットとなるほど、作品に出てくる風景に魅了された視聴者が多いようだが、「蛍火の杜へ」も風景の造り込みが素晴らしく、これは同じ制作スタッフならではの強みだろう。
主人公の違い
「蛍火の杜へ」を観て、「夏目友人帳」に比べると少し物足りなさを感じたのだが、そのひとつは主人公の存在感ではないだろうか。夏目は妖怪が見える特異体質で、家族と死別し天涯孤独の身で…と非凡な主人公だ。少女漫画誌なのに男の主人公であるところも存在感が増すポイントだ。
しかし蛍は割と普通の女の子だ。性格にクセがあるわけでもない。ものすごく可愛いわけでも可愛いくないわけでもない。夏目の存在感に比べると、引きこまれるような魅力が劣ってしまう。
とは言っても、その普通っぽさが、ギンには心地良かったのだろうが…。蛍の存在感の薄さは、ギンがカバーしてくれている。正直ビジュアルも夏目に割と似ているし、ふわぁ~っとした浮遊感が漂うところや、可哀想な生い立ちで悲壮感があるところも似ている。
あえてなのか、たまたまなのかはわからないが、「夏目友人帳」を観ている人からすると、夏目を彷彿させるキャラクターが登場することで、親しみや安心感があったり、「夏目友人帳」の違うバージョン、という感じで観れる楽しさがあるだろう。
妖怪の存在
作者が同じという事もあり、「夏目友人帳」と「蛍火の杜へ」はどちらも妖怪が登場する。しかし妖怪の立場は少しずつ違うようである。
「夏目友人帳」では、ほとんどの人が妖怪が見えない。存在を意識しているわけでもない。なので主人公である夏目や、そのほか少数の妖怪が見える人々は特異な存在となっている。妖怪は様々なタイプがおり、人間と関わりが深く、知性が高い妖怪も多くいる。
「蛍火の杜へ」は、登場する人間が少ないので一概には言えないが、蛍のおじいちゃん、おじいちゃんの同級生は、妖怪はいると思っているようだ。そして蛍も子供の頃からそれが当たり前の様である。ちなみに蛍は妖怪が見えるが、それは山神の森の中だから見えるだけであって、普段から見える訳ではないと思われる。山神の森周辺の地域では、妖怪の存在は何となく認知されているのではないだろうか。登場する妖怪は、「夏目友人帳」に比べると、フワッとした存在になっている。悪さをするほど知性が高そうには見えないし、精霊っぽいようなタイプもいる。ギンが自分の事を、妖怪でも人間でもない、幽霊のような存在なんだと言っているが、その名称のない存在感ともバランスが取れており、作品の世界観の筋が通っている。
ギャグ要素の有無
「夏目友人帳」では、絶大なる人気を持つキャラクター、ニャンコ先生が登場する。作中ではギャグ要素もあるが、それの大半を担っているのがニャンコ先生だ。夏目とニャンコ先生のやりとりは作品を少しコミカルな感じにさせ、視聴者の幅を広げている。
「蛍火の杜へ」では、このニャンコ先生的なキャラクターは存在せず、おのずとギャグ要素は皆無となっている。なのでこの作品は、「夏目友人帳」に比べるとシックな雰囲気であり、余計なものがない洗練された作品となっている。
ニャンコ先生的なキャラクターがもし登場していいたら、作品の雰囲気はかなり違うものになっていただろうが、人気はやはり高かったのではないだろうか。
恋愛要素の有無
「夏目友人帳」では、主人公である夏目は、誰かに恋をしたりという事は無く、基本は妖怪、友人、家族との間をぐるぐるしている。妖怪に恋をした友人の話などはあるものの、夏目は恋をする気もない様な感じなので、作品の恋愛要素は、少女漫画誌としてはかなり少ない。
そのイメージが無意識にあったのか、「蛍火の杜へ」も恋愛要素があるとは思わず、女の子と妖怪っぽい男の子が出るみたいだけど、友達的な感じで仲良くなる話かな~と思っていた。しかし予想外の恋物語であり、この点は「夏目友人帳」との大きな違いだと思う。
この展開に私は驚いたが、「夏目友人帳」を観ていない人からするとこの驚きはあまり無いと思うし、その他の事も、観ているか観ていないかで、捉え方がだいぶ違ってくるだろう。
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