世界のタキタの最高傑作 - 桃色身体検査の感想

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桃色身体検査

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世界のタキタの最高傑作

5.05.0
映像
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脚本
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5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

滝田監督ピンク時代の精華

滝田洋二郎監督の名前を知らない映画ファンはいないでしょう。日本人初の(今も唯一の)アカデミー外国語映画賞受賞者にして映画芸術科学アカデミー会員。今や世界のタキタと呼ぶべき存在ですが、同様に国際的名声を博する日本人監督たちの中では、もっとも娯楽職の強い作品を手がけることでも知られている。一般映画デビュー当初はコメディばかりでした。

一般映画デビューとはどういう意味かとお尋ねでしょうか。これもある程度知られいることですが、滝田監督は誰もが制限ナシにみられる映画を手がける前に、ピンク映画と呼ばれる、成人専門の映画を数多く手がけていたのです。その中での演出手腕を買われての一般映画招聘でした。「桃色身体検査」は、彼のピンク時代際末期の作品で、いわば長年培った蓄積の精華ともいうべき作品でした。私見では一般映画も含めた最高傑作だと考えています。

ピンク映画ってなに

ピンク映画は大雑把にいうと性描写を多く含むため成人限定の指定を受けている劇場映画で、中でも日活や東映などの大手によらないものをピンク映画と呼びます。日活や東映のものはポルノ映画と呼んで区別することが一般的です。いまでは絶滅寸前ですが、全盛期には5~6つの系統から年間300本近いピンク映画が全国に配給されていました。

ポルノ映画とどう違うかというと、まず予算が違います。日活ロマンポルノの場合は、1980年前後で1本2000万円近い予算がかけられていました。当然日活撮影所が使えますから、セットも組まれます。撮影期間も10日前後。これに対しピンク映画は300万円。現代に物価換算しても400万程度でしょう。これで35ミリフィルムを使い、3人の女優に脱がせることがお約束でしたから、彼女たちのギャラを払ったら半分も残らなかったのではないでしょうか。もちろんセットなどはもってのほかで、知人のアパートを借り、隠し撮りで街頭にロケし、監督脚本以下全員のギャラをまかなわねばなりません。人件費節減のため撮影期間は3日。徹夜の連続です。本作をはじめ、滝田監督と名コンビを組んでいた脚本家・高木功は小説家転進を図ってデビュー中篇をオール読物に発表直後急逝しましたが、その小説には悲惨きわまるピンク映画ライフが切々と描かれています。

この貧苦に押しつぶされていた才能も少なくはなかったと思います、ですが、この最悪の条件の中斬新な作品を次々と発表し、映画ファンの注目を浴びて一般映画へ羽ばたいていった人も少なくありません。70年代では高橋伴明監督、90年代では瀬々敬久、そして80年代では滝田洋二郎が代表格でしょう。ピンク時代の滝田監督は、ハードサスペンスの秀作も手がけていますが、基本的にはコミカル・ミステリが得意中の得意で、奇想天外なアイディアとギャグの数々で観客を楽しませ続けてきました。この「桃色身体検査意」もその流れですが、正確には犯人視点ですからクライムコメディと呼ぶべきでしょうか。

明るい画面でリッチ感あり

ビデオでは冒頭にっかつ(日活は当時一時的にひらがな社名だった)マークが流れるので、ロマンポルノじゃないの?と思われるかも知れません。でも、よく見ると「提供:にっかつ」となっています。これは一時期のにっかつがロマンポルノ3本立の3本目をピンク映画製作会社に外注していたためで、解釈にもよるでしょうが、撮影所も使ってませんし、プロダクションに丸投げなのでピンク映画と呼ぶのが正確だと思います。撮影条件もほとんど同じです。ただ、若干予算は上乗せされたみたいで、画面が若干リッチです。純ピンク映画は、レンズかフィルムかどちらのせいか判りませんが、画面がうす暗いんですね。明るい画面はコメディにはとりわけ効果大です。あと、病院(らしき建物)を自在にロケしているので、このリッチ感は大きい。一方で、主人公の居室は家具も何もない狭い部屋というあたりはピンク映画ムードそのもので、妙に安心させたれたりします。

二大名優の激突

主演は当時人気のあった滝川真子で、演技は頼りないながらも随所にコメディエンヌ・センスを伺わせて上々の出来ですが、今この映画を見る最大の見所は、今では一般映画の名脇役としてすっかりお馴染みの、そして片方は惜しくも先日物故されましたが、蛍雪二朗、大杉蓮の二大名優の激突でしょう。蛍雪二朗は滝田監督のミステリ映画でずっと探偵役を演じてきた不動の常連。大杉蓮はピンクでは陰惨な変質者やシリアスな役を得意としてきましたが、ここでは比較的珍しいコミカルな役を振られて張り切っています。さらに蛍とは舞台ユニットを組んでいた故・ルパン鈴木、ピンク映画出演歴数百本、現在は監督としても大御所の池島ゆたかが達者な演技でこれに絡みます。

滝川以外の女優が美人度でガクっと落ちるのがエロスを標榜する映画としては弱いところですが、コメディとしてはとくに痛くもかゆくもありません。

死体泥棒のドタバタ

物語は、大阪の某大学病院に入院している牧師(もうこれだけで笑える)大杉の挙動不審から始まります。彼は、海水浴で行方不明となった〔彼が殺している)二人の弟の生命保険金を入手するため、身代わりとなる死体を二つ、この病院から盗み出そうとしています。一人ではどうにもならないため、同質の患者・蛍に助力を依頼。蛍(ここではかなりの老け役です)の息子ルパン鈴木と、その妻で看護婦の滝川も報酬に釣られて一味に加わります。

これだけで既にいい加減な話だな、と思われた方が多いでしょう。実際犯人側も行き当たりバッタリでいい加減なら、狙われる病院側もいい加減。何しろターゲットとして選ばれた理由が、日本一死亡患者が多いから、というのですが、その理由が看護婦による組織売春が院内にはびこっていて(滝川は参加しておらず、同僚たちの羽振りがいいのを不思議がりつつ羨ましがっている描写が実に可愛い)しばしば患者を腹上死させていたから、というのが大笑いです。

当然、計画は齟齬だらけで、最後、盗み出す電場で教授・池島と鉢合わせ、目もくらむような数分間の追跡ドタバタと死体損壊が繰り広げられます。それにも増して、鉢合わせの瞬間の誤魔化しギャグが、呼吸といい趣向といい最高で、これ「劇場での大爆笑を想像させるギャグ」映画史上ベストテンに入るのではないでしょうか。

それにしても「おくりびと」の滝田監督が、かくもバチアタリな映画を撮っていたとは驚き。大杉は牧師の癖に死体を「ホトケはん」と呼ぶし。関西ネイティブの俳優がいない(監督も違う)あたりも映画の可笑しみに貢献しています。

結果は、なるようにしかならない

犯罪計画の顛末は、ベタとも投げやりともいえるお笑いで、詳しくは書きませんが、むしろそれに続くエピローグが猥褻で楽しく、ニヤニヤしながら後味良く見終えることができます。こうした描写のギャグも随所で冴えており、大杉・蛍コンビが偽医師に扮する場面とその後のドタバタセックスシーンなども見物といえるでしょう。あと、大杉と二人の弟がホモ近親相姦関係にあったという、あんまりな設定もサイレント映画風にサラリと笑いで処理されており、海水浴場で大正時代みたいな水着でスキップうする大杉の姿は亡くなった今となると可笑しいやら悲しいやらで何ともいえません。滝田監督の代表作であると同時に、俳優大杉連の代表作としても(何しろ準主演です)イチオシにしたいと思います。

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