純文学としてのDAYS - DAYSの感想

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漫画レビュー数 3,136件

DAYS

4.434.43
画力
4.00
ストーリー
4.77
キャラクター
4.70
設定
4.47
演出
4.27
感想数
3
読んだ人
3

純文学としてのDAYS

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

何も持っていない主人公

スポーツ漫画の主人公といえば、だいたいが何かしらの才能に恵まれた少年だ。たとえば“スラムダンク”なんかは、その最たる例と言っていいだろう。主人公の桜木花道は、完全なるバスケ初心者の不良少年だったが、恵まれた体格と持ち前の優れた身体能力で、弱小バスケ部を全国へと導く立役者となる。

一方DAYSの場合、つくしは何も持っていない。体は細く小さい。運動神経は悪い。さして頭が良いわけでもない。イケメンではなく、なぜかいつも妙にほっぺが赤い。グズでノロマ。いじめられっ子。高校入学初日の自己紹介では、緊張して一言も発せないまま5分が経過し、早くもクラスメイトからバカにされる。真面目で要領が悪いので、掃除や委員会の活動を押し付けられる。私生活では、5歳のときに父親を交通事故で亡くして以来、車椅子の母親と二人暮らし。互いに思いやる温かい親子だが、決して裕福ではない。

ダメな主人公によくある展開だと、ここから実は優れた血統の持ち主であることが発覚したり、誰にも負けない特技があったり、突然特殊な能力を授かったりするものだ。しかし、それもない。本当に何もない。ただ、要領が悪い分、バカがつくほど一生懸命練習する。それだけだ。

この、バカがつくほど真面目に練習する姿勢は、後につくしがチームメイトから認められるきっかけとなってくるが、だからといって、スーパースターになったりするわけではない。そもそも、聖蹟高校はサッカーの強豪チームだ。全国からサッカーをするためだけに部員が集まってくる。ほとんどはサッカーにおける秀才で、中には天才だっている。そんな彼らもまた、むちゃくちゃ練習する。凡人以下のつくしがいくら努力したところで、同じくらい努力する秀才や天才に勝てるはずがない。このあたりは、非常にシビアな描かれ方をしている。

天才の物語でもなければ、スポ根ものでもない。つまり、読者の憧れや夢を体現した漫画ではないということだ。せめて“弱虫ペダル”のように一つでも秀でたものがあれば、同じような読者にとっての希望の星という見方もできたかもしれないが。この何も持っていない主人公を見守っていく。そのあたりが、この作品が他の作品と最も違う点と言えるだろう。

サッカー選手にとって一番大切なこと

つくしがサッカーの初心者でセンスの欠片もないという点では、チームメイトたちの見解は一致している。それでも、やがてつくしはチームに受け入れられていく。

最初につくしを認めたのは、後の親友となる風間。鬼気迫るつくしの努力を見て、彼は思う。

「何してたんだよ、どいつもこいつも・・・俺も!何で誰も気づかねぇ。どうやったらコイツを素通りできるんだ。とんでもねえ奴じゃねえかよ!」

ここだけ切り取ると、“つまり、何も持ってないけど努力だけは人一倍する主人公の、スポ根ものでしょ”という誤解を与えかねないので、あらかじめ明言しておくと、だからといってこの先スポ根展開になることはない。というのも、風間は持ち前の鷹揚なキャラクターから、そうやってつくしをいち早く認めてくれるものの、他のチームメイトたちは、やはり苛立ちを感じたりバカにしたりすることが多いのだ。特に、つくしが下手なせいで、連帯責任で一年全員外周が増えることも多く、そのことで同じ一年生・来須は、面と向かってつくしを責めたこともあった。そんな彼らが後につくしを受け入れるきっかけとなったのは、やはりそのひたむきに努力する姿勢には違いないが、決してそれだけでない。それをよく表しているのが、後に出てくる来須の思いだ。

「こいつの背中を見てると、無性にピッチを走りたくなっちまうんだよ!(中略)これはアレだ、はじめてボールを蹴って、夢中になってボールを追った、あの感覚だ(中略)柄本ォ、ホントにムカツクぜおまえはよォ。ムカついてムカついてムカついて仕方がねぇ!だが悔しいが認めざるを得ねぇ。戦術も作戦も越えたところにサッカーはあったんだ。柄本、おまえとサッカーするのは、めちゃくちゃ楽しいぜ、バカヤロウ!」

初めてできた仲間と一緒にサッカーをするのは、つくしにとっては今まで経験したことのない喜びだった。それを仲間も同じように受け取ってくれたのだ。

スポーツ漫画では、ことゲームの展開や戦術、スーパースターの華麗なるテクニックが取り上げられがちだ。天才プレイヤーの所属する強豪チームなら、尚のことだろう。しかし、どんな天才だって、全国優勝を目指していたって、サッカープレイヤーの原点はみんな同じ、“サッカーが好きだ”という純粋な気持ちにあったはずだ。このポイントは、作中を通して何度も強調されており、DAYSのテーマの一つとなっている。

サッカーよりも人間を描く

・・・と言うと誤解を与えそうなので弁解しておくと、もちろん、サッカーのことも丁寧に描かれている。戦術やそれぞれのプレイヤーの考えなど、細かに述べられているので、サッカーのことを知らない人でも楽しめる。

しかし特に前半あたりは、試合の流れなどはあまり焦点が当てられていないことが多い。どちらかというと、つくしが受け入れてもらえるまでの過程や、つくしに対する周辺のキャラクターの思い、気持ちの変化が、ストーリーのメインとなってくる。このあたりも、スポーツ漫画にしてはめずらしい展開となっている。

それぞれの苦悩

スポーツ漫画の最も魅力的な点の一つは、プレイヤーそれぞれのストーリーが描かれていることだろう。現実では、なかなかそうはいかない。ロナウドやメッシのような有名選手であれば、それぞれの生い立ちや人間性、その背景にある苦悩などを知ることはできても、いわゆるモブのような扱いの選手に至っては、ほとんど何も知らない(そもそも注目もされない)もされないことが多い。しかし丁寧な漫画であれば、チームメイト全員のストーリーはおろか、相手チームのメンバーのストーリーまで事細かに知ることができるので、より一層臨場感を持って試合シーンを読み進めることができるのだ。

この点では、DAYSも他の丁寧なスポーツ漫画と同じだ。ただ、おざなりなストーリーではない。非常に細かく、一人一人のキャラクターの心の揺れや、苦悩を描き切っている。

中でも面白いのが、天才と凡人、それぞれの苦悩の描き方だ。たとえば風間は紛れもない天才だが、それゆえに周囲のチームメイトとの壁に苦しんできた。敵チームの碇屋も同様で、天才ならではの孤独が、とても丁寧に描かれている。一方で、強豪といえども多くの選手は、せいぜいが秀才だ。センスや身体能力に優れている点はあるものの、天才を目の当たりにしたとき、己の平凡さを思い知る。どんなに努力しても、しょせん秀才は決して天才には追いつけないのだ。まだ高校生という若さで、自分の限界を突きつけられるという、何とも残酷な現実。その現実の中で、彼らはどうそれを受け止め、どうこの先のプレイにつなげていくのか。

このあたりは、非常に読み応えのあるテーマとなっている。甘いだけの夢は見させてくれない。我々の多は凡人であり、凡人は凡人として輝ける生き方を見つけていかねばならない。この高校生の少年たちから学べるところは、とても大きい。

つくしの苦悩

仲間に受け入れられ、ひたむきな努力やチームへの献身が実を結び、やがてつくしは聖蹟にはなくてはならない選手へと成長する。(繰り返し強調しておくが、だからといってスーパープレイヤーになるとか、才能が開花するとか、そのような甘い展開は一切ない。チームの中で一番下手くそな、モブキャラのままだ。)

読者は、ひとまず安心したり嬉しく思ったり、つくしの成長を喜ん喜んだりしたことだろう。この点、“そうか、これは友情をテーマにした青春漫画だな!”という受け取り方もできるし、実際にそれもDAYS一番のテーマでもある。しかし、この展開で敢えて、つくしの抱える苦悩も取り上げられることで、やはり従来の青春漫画とは一線を画すものを感じる。

これまでに、つくしは二度、風間に対して苦悩を告白している。一度目は、目をかけてくれた先輩を蹴落とすような形で、自分がベンチ入りしてしまったとき。他の選手は、レギュラーの椅子を手に入れるには、仲間と競合しなければならないこと、それがチームを強くすることを、よく知っている。しかし、つくしは単にみんなとサッカーができるのが嬉しくて、そのためだけにチームにいた。誰かを蹴落としてまで試合に出たいなんて、望みもしなかった。そして思う、

「そもそも僕は戦いに向いてない人間だったんだ。だとしたら僕は・・・きっとこれ以上聖蹟にいてはいけない。嘘をついてまで、ムリをしてまで、ここにいる必要があるのか。それは、みんなに対する裏切りじゃないのか」

そのときは、風間が

「俺はおまえと会えて良かったし、これからも一緒に聖蹟でサッカーしたいと思ってるよ」

と言ってくれたことで、聖蹟にい続ける覚悟が決まった。しかし、実際にはそんな問題ではなく、もっと深いところに、つくしの苦悩はあったのだ。

二度目の告白。いつの間にかチームに必要とされる存在になって、試合にも出れるようになって、でもミスばかりで、チャンスをいくつも潰してきた。これまでの人生でも、挫折して頑張って、でもまた挫折して、ということを、つくしはずっと繰り返してきた。そんなつくしにとって、仲間ができたことや、その仲間に必要とされることは、ただ嬉しいだけの出来事ではなかったようだ。

「怖かった・・・すごく・・・。いつからじゃなくて・・・はじめからだったんだ。それを忘れるために走ってたこと、今日ハッキリ思いだしちゃった・・・・・・なんでかな?そしたらうまく・・・うまく走れなくなっちゃって。昔から僕ってタイミング悪いんだよね。風間くん。ずっと、逃げる機会を失ってきちゃったよ」

何も持っていない主人公だからこそ生まれる苦悩、揺れる気持ち、弱い心が、ここでは丁寧に描かれている。

DAYSはサッカー漫画であり、青春漫画でもある。しかし、それ以上に一人の人間の生々しい心模様、その動きというのも、欠かせないテーマの一つなのだ。その点では、これはある意味、純文学と言うに値する作品なのかもしれない。

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他のレビュアーの感想・評価

主人公と読み手が成長できる作品

主人公の成長を見守るような感覚の漫画この物語の中心になるのはなんといっても主人公のつくしの成長です。その成長の中での仲間たちとの交流や友情は私たち読者の興味を引きつけます。この物語の始まりはある嵐の夜のメインキャラクターであるのサッカーの名プレイヤーの風間陣との出会いでした。サッカーをしたことのないつくしと天才的な名プレイヤーの風間との運命的な出会いがこれからのつくしの人生を一変させる。つくしはこの出会いをきっかけにサッカー未経験でありながら、サッカーの名門聖蹟サッカー部に入部することになります。部活動をしたことがある人はわかるかもしれませんが、強豪校に素人で入部するには相当の覚悟は必要ですし、入れても練習について行くのさえ困難です。その困難な状況の中つくしが壁を乗り越えていき、成長して行く姿は心打たれるものがあります。漫画の王道は主人公はだいたい天才や何らかの才能を持った選手になるこ...この感想を読む

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連載開始から全話読んでます

面白いです。連載前にライバル校の犬童、鳴神のストーリーを描いた『振り向くな君は』を読んでいて、続編を待っていたんですがDAYSの連載が始まって、今度は初心者のつくしの成長を描いて全く違う展開の漫画だと思いました。自分もサッカーは初心者でつくしの感情や考えを共感できるので夢中で読んでます。サッカーのルールを知らないのに風間にフットサルの試合に参加させられ、最初は邪魔にならないようにしているのに、たった1回のプレーで風間とチームの仲間から褒められ、チーム競技の楽しさとサッカーの楽しさを知ったとこは、自分も初めてフットサルをした時の気持ちとリンクして、次の話を楽しみになってました。つくしと仁の高校は名門の聖蹟で初心者つくしには場違いなのにもかかわらず、直向きに練習、自主練をするつくしを見てチームメイトの評価も変わってきていつの間にか1年生のムードメーカーになっていて、初心者ながらもチームの為に尽く...この感想を読む

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