妻と愛人が入れ替わる大正ロマン - 自由戀愛の感想

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自由戀愛

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妻と愛人が入れ替わる大正ロマン

3.53.5
文章力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
3.5

目次

世界で一番幸せな女と、世界で一番不幸な女

岩井志麻子さんの書いた小説なのに、エロくもない、グロくもない、ましてやホラーでもない。異色の小説。だけれども、私はこの小説が志麻子さんの本の中で一番好きなのである。なぜならば、私が小説に一番に求めるものが現実味…リアリティーだからなのかもしれないわ。

「天然」って言葉は今は「意識していないアホ」っていう解釈が正しいのかしら。それとも「アホ」は余計なのかしら。先を読まずに行動した結果がアホらしいことになってしまった…のは結果論で、それは「天然」じゃないのよ。明子はね、本当に親切で優しい女性なの。清子は見下されてたと思っていたのかもしれないけれども、私はそんなことはないのだと思うな。「見下す」って行為が世の中にあることさえ知らないほどに、ただただ幸せだったから。そして、人に親切にできる優しい自分が好きなのよね。誰にでもあるでしょう、そういうことって。

それを、「見下されてる」って僻むのは、結局清子が不幸だから。同情されていたと感じるのは自分のことが不幸だと思っているからなんだわ。だって「かわいそう」って言われても自分がそう思っていなければ、胸を張っていられるでしょう。私はかわいそうなんかじゃないんだって言えない辺り、自分の不幸に酔っているのよ。

で、貸された着物が清子の最後のプライドをズタボロにしたかもしれない。でもね、着物貸してもらえなかったら、何を着て面接に行ったの?そこは、素直にありがとうでいいんじゃないかな。だって女学校時代で明子の悪意のないお節介は、ある程度わかってたはずじゃないのさ。清子、ちょっと裏を読みすぎだぞ。自分で自分を不幸だと決めつけすぎている気がする…といっても、この頃の離婚経験者は肩身が狭かったのだろうね、私の想像以上に。

正直な男は君だけだと言わない

で、清子と明子の立場は変化していくわけだけれども、明子の潔さにはまた少し驚きがあった。生まれて初めての屈辱感に、泣いてすがったりは、そりゃあ多少はあっただろうけど、結構従順にこの状況を受け入れていくのである。何か、好感持っちゃうわ。私だったら、清子をけなし、呪い、乗り込んでいって胸ぐらを掴んでやりたいところであるけれど、自らの例の行き過ぎたお節介を悔やみ、反省している。割と素直に。

それでも、それよりも潔いのは優一郎なのである。清子と明子、お互いに対して「どちらも同じくらい好きだよ」とのたまうのである。ここは褒めるところだろうか。男というものは、明子には「本当は明子が好きだけれど、子どもができちゃったから仕方ないだろう」と言い、清子には「清子のほうがもちろん好きだから籍を入れたんだ。明子には責任があるから会っているんだ」というのが正解なのかと思っていた。ほら、よく浮気の現場でも絶対認めるななんて言う人がいるでしょう。それに比べて、まあ優一郎の正直なこと。これは、時代のせいなのかしら。いや、結局、優一郎もお金持ちのおぼっちゃまなんだと思う。育ちがいいから嘘がつけないのか。それとも、金銭的に二人とも面倒をみているのは俺様(の家)だとでも思っているのか。ここら辺は、優一郎と明子は苦労知らずで同じにおいがするわ。

そして、優一郎のその言葉に反発できないのは、清子も明子も一人では生きていけないからなんだろう、この時点では。

自立する女、再び結婚する女

優一郎を明子から奪い取って、子どもを作って結婚して、生まれた子供が男の子。この物語、結局清子の勝ちじゃん…と思ったら、なんとラスボス登場!ジャジャーン、優一郎のママゴンである。いや、優一郎のママゴンが信仰する母乳神話に清子はうちのめされるのである。ナンセンスだわと、今の時代なら一笑に付すところである…と思う?いやいや、いつの時代だって、嫁と姑は子育ての時にはそれぞれの主張を振りかざして揉めるものなのよ。例えば、紙おむつだって今は常識でもその転換期に新勢力が勝ち取ってくれた賜物なんだ。

まあ、優一郎のママゴンは孫を「家の子」と考えているからもう平行線。そこで、優一郎がもっと強く出られれば、清子が家ですることもなかったんだけれども、仕方ない。清子は一人で生きるのがふさわしい女だもの。でもね、意地を張らずに、ママゴンが亡くなった後は優一郎の元に帰ればよかったのになと思う。意地じゃないの?プライドなの?

そして、逆に明子は誰かに依存して生きる。絶対、私なら明子派。一人で生きていける自信も力もないもん。そして、再び明子は幸せになれる。嫁ぐ先は、またお金持ちだからね。

この小説は映像化されていて、原作とはかなり物語のテイストが違ってきている。少しだけネタバレすると、明子も自立するのよ。キャストは長谷川京子だったかしら。

最後まで楽しく読んだ小説だった。スラスラと読めるっていうのは、小説家には誉め言葉にならないらしいけど。軽くて短いし。でも、岩井志麻子さんのプライベートの方がきっと格段に面白いに違いない。

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