誰の心の奥底にある、「ある感覚への残滓」 - ねじ式の感想

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ねじ式

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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誰の心の奥底にある、「ある感覚への残滓」

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
5.0
演出
4.5

目次

半世紀前の作品なのに今でも前衛的

当時も時代を先取りしすぎたかのような作品として扱われたと思われるが、2018年になった現在でもこの作品に時代は追いついていない。

絵画であれば抽象画のような作品と言えるし、音楽であれは、ミュジック・コンクレートのような作品で、具象を好む人には理解されない分野の作品だと思う。

理解されないという言い方が不適切だとしたら、理解している事を表にしたがらない人もいる、と言った方が適切かもしれない。人間は誰でも感覚的な部分だったり、特に夢の中では道徳も何もない「何でもあり」な体験は誰でもしていると思う。しかし、それは口出してうまく説明ができない部分であったりする。そういう感覚を表現するのに漫画という手法は適しているかもしれない。

この作品が好きな人は、作中のセリフや出来事自体より、醸し出す全体の雰囲気への共感を素直に感じられる人であろう。

前衛的と表現したが、遠い未来でもそういった表現に躊躇がない人でないと理解してもらえない分野かもしれない。

本当は皆経験している「感覚」

ねじ式は著者が夢で見た光景を描いたとも言われているが、そういう前提で読むか読まないかでも印象が変わる作品である。もっともそういった前提を知らなくても好きな人は好きだろう。

なかなか目的地にたどり着けないとか、妙なケガをしていたりとか、どういうわけか自分が変なこだわりを持っていたとか、そういう設定の夢というのは誰しもが見たことがあるはずである。そういった感覚の体験は、目覚めた後曖昧に心の中に残滓として残るか、消えてしまうこともある。

夢占いは精神分析なども利用されることがあるが、この作品も分析されたことがあるらしい。

抽象画家を始め、描いた側にしてみればそういった分析は余計なお世話だと思うだろうし、おそらく読み手のウケを狙って意図的に不思議な世界観を構築したという計算めいたものではなく、ああいう作品は脊髄反射にも似た感覚で描いていると思われる。

また、本来日常では押し込めている感覚を表に出すことは、一種裸を見られるような羞恥心に近い。

一方で、一度押し込めた感覚へのシンパシーを感じると癖になる。そういう魅力がこの作品にはある。

マンガの場合、非現もリアルになってしまうのだが、多少脚色はあるかもしれなくても、作品化したら理解してもらえるか微妙な内容を堂々と出すことは、純粋な人でないとできないだろう。そういう意味では、著者つげ氏のまっすぐさのような作品の制作姿勢や人柄も感じる。

架空の世界というのは多くの漫画にあるものだが、こういった心の引き出しの中身を表に出せる作家というのはそうざらにいるものではない。こんな作品が描けるのは、未だつげ義春氏しかいないだろう。

つげ氏の作風を模倣しようとしても、圧倒的な「越えられない何か」を作り手も読み手も感じてしまう。そこには読み手のリアクションをどう意識するかという問題があるのかもしれない。

売り上げやアンケートの結果至上主義の商業誌では、まずこの手の作品を世に出すことは不可能だと思われる。

つげ一色の魅力

ねじ式は、他の作品とは異なり、他作家の影響を感じない。つげ氏は多くの作家と人生で関わりを持っているが他作品には、特にアシスタントをしていた先の作家の影響が色濃く出た作品もある。

しかし、このねじ式については他作家の影響を作画に全く感じない「つげ一色」と言える。

独特の不気味さやセリフ回し、どこか憎めないキャラクターと言った世界観は、つげ氏にしか描けない強烈なオリジナリティを感じる。

ゲンセンカン主人をはじめ、つげ氏の個性が100%出ている作品の方が、より人気があるようだ。

二次創作欲をくすぐられる世界観

ねじ式は、その妙なセリフ回しや画面構成、奇妙な登場人物と話の展開から、自分で二次創作動画を作ってアップする人などがいたり、過去には実写、アニメ、パソコンゲーム化などもされている。

こういった世界観は、共鳴している部分が例えば金太郎飴とか、クラゲに刺されたとか血管に蛇口とか、そういう部分部分をフォーカスした味わうものではない。それよりは全体として目覚めの後に覚えている不可解な感覚の残滓に共感が持てる作品のため、読み手のイメージが細分化されやすい。よって一人の作家の持ったイメージで二次創作作品を作っても、別の読み手には全く理解されない事もあるだろう。

非常に別媒体での表現が難しい作品である。現代の3DCGなどでなら、ビュジュアル的には忠実な作品が出来そうだが、声優に納得がいくかどうか、主人公がなんとも不思議なキャラクターのため配役が難しい。イメージというものがより細分化されているからだ。

多くの人に読んでほしいという意味では拡散されてほしいとは思う作品だが、二次創作媒体では感じ方が全く違ったものになってしまうだろう。つげ作品の中でもねじ式は、「言葉に言い表せぬが理解できる感覚」は、その感覚の経験があること自体には共鳴できても、内容をどう感じたかという感情だけは他人に委ねられないことを証明しているようにも思える。

 

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