住み慣れた部屋を売るということ。夫婦が40年連れ添うということ。人生の後半戦を迎えた人に響く物語 - ニューヨーク 眺めのいい部屋売りますの感想

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住み慣れた部屋を売るということ。夫婦が40年連れ添うということ。人生の後半戦を迎えた人に響く物語

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
3.5
演出
3.5

目次

評価が分かれる作品。年齢が上がるほど共感度が上がる?

 

久しぶりにいい映画を観た、と思った。まず、キャストがいい。言わずと知れた名優モーガン・フリーマン。妻役に数多くの作品に出演してきたダイアン・キートン。彼女の姪で不動産業を営むリリーを演じているのが大人気だった某テレビドラマシリーズでお馴染みのシンシア・ニクソンというのもツボだった。 

だが、他の視聴者のレビューを見てみると、評価が分かれているのがわかる。心温まるよい作品だったという評価がある一方、退屈だ、内容が薄いといった低評価も。

個人的な意見だが、この作品はある程度年齢がいった人のほうがおもしろく観れるのではないだろうか。

40年連れ沿った夫婦の間に起こった様々な問題と、その根底に流れる情愛。ニューヨークの不動産事情や、住み慣れた家を手放すということ。長年共に暮らした夫婦が新婚の頃と変わらず、互いを尊敬しいたわり合うことのできる素晴らしさ。これら人生の中盤から後半に起こりうる事態を、人生が始まったばかりの十代、二十代の若者に共感してもらうのは難しいだろう。

 

部屋を売る・部屋を買うということ

 

売りに出されている部屋の内覧、というものに実際に行ったことがある。しかも偶然にも、行ったのはこの映画の夫婦が売ろうとしているのと同じ、5階建てエレベーターなし物件の4階と5階だった。

見せてもらった4階の部屋も、5階の部屋も悪くはなかった。だがやはりエレベーターなしというのがネックになり、購入するには至らなかった。年をとってから階段の上り下りがつらくなるのは明らかであり、それはこの映画で夫婦が部屋を売ることを決めた理由でもあった。

家(部屋)の売り買いは人生の一大事だ。一度は売ることを決めたものの、今いち積極的になれない夫アレックスの気持ちはよくわかる。愛する妻と40年住んだ慣れ親しんだ部屋。部屋からの眺めは最高で、街も気に入っている。問題は5階までの階段の昇降だけなのだ。

40年は長い。それだけの期間住み続けた部屋というのは、もはや体の一部のような感覚だろう。

 

垣間見える白人と黒人のカップルに対する偏見

 

主人公の妻ルースが白人であるとわかったとき、一瞬、お、と思った。アメリカは言わずと知れた多文化・他民族社会。権力の中枢にいるのは白人が多いとはいえ、様々な人種がいるのが当たり前の国。にも関わらず、白人と黒人のカップルというのは、現代にあっても少し珍しく感じる。アメリカ映画を観ていると、白人と黒人の間に交流がある場合でも、白人は白人同士、黒人は黒人同士でカップルになっていることが多い。

 

若い頃の回想シーンで、ルースがアレックスと結婚することを決め、母親に話す場面が出てくる。

「彼との結婚をどう思うか」と問うルースに対し、母親は簡潔に「納得よ」述べ、決して祝福してはいないことがわかる。はっきりと反対の意見を述べるわけでもない母親に対し、ルースの反応は少し過剰にも見える。はなから祝福されるわけがない、でも私は信念を曲げないわ!という戦闘意欲満々の態度。そういう性格の子だとわかっていたからこそ、母親は表立って反対しなかったのだろう。

 

その回想シーンの前のアレックスとルースの会話で、ルースは「黒人と白人の結婚が30州で禁止され、20州で嫌悪されていたときに私たちは結婚した」と語る。時折出てくる回想シーンは必要最小限で、彼らが結婚したことで起きた問題などは詳しくは出てこない。しかし、このセリフや回想シーンから、当時白人女性が黒人男性と結婚するのはかなりの覚悟がいることだったことが伺い知れる。離れていった親類や友人も親類や友人もいたのではないだろうか。けれど、二人はお互いを選んだ。その決断は間違っていなかったという確信が、この夫婦のつながりをさらに深いものにしている。

 

9・11以降のアメリカの変容、表面化するイスラム系住人に対する差別意識

 

イスラム系の住人に対する白人の差別意識を示唆する場面がある。橋を通行止めにした犯人に人質にされ、レジの金を奪われたと証言したバーテンの白人女性が、インタビュアーに犯人は何と?と問われたとき、彼女は “I don’t speak muslim”(直訳=自分はムスリムを話さない、字幕では「さあね、イスラム語よ」となっている)と答える。

この言葉を、アレックスと彼のアパートの1階でカフェを経営するイスラム系の店主・ラヒームは鼻で笑う。

“She thinks muslim is a language”(直訳=彼女はムスリムを言語だと思っている、字幕では「イスラム語だと?」)と。

9・11以降アメリカではイスラム系の住人に対する差別意識が広がったと言われる。だが、大半の白人は、敵視する対象についてあまりよく知らない、もしくは知ろうとしないのではないだろうか。ムスリムとは、イスラム教徒を意味する言葉で、言語ではないのだ。碌に知識もなく、ただ感情のままマスコミに煽られるまま、イスラム系の人間に対し差別意識を露骨に見せる。そういう白人の典型をこのインタビューを受けた女性に見て、アレックスもラヒームもあきれた表情を見せたのではないだろうか。

アレックスとルースが結婚した40年前より人種による差別は改善されたように見える。それでも、根底には消えることのない有色人種への差別や偏見があり、9・11のようなことが起こったときに、それが表面に出てくる。直接的でなく、間接的なやり方でもって、この映画は見る人にそのことを教えている。

 

彼らの選択は正しかったのか。わかるのは、彼らが幸せな夫婦であり、これからもそうあり続けること

 

この映画の中で特に好きなシーン。愛犬にかかる治療費の高さに難色を示し、動物に対する延命はかえって残酷だと主張し、ルースとケンカになるアレックス。けれど、担当医から手術をするかどうかの確認の電話がかかってきたとき、彼はルースから受話器を受け取ると「命が助かるなら何でもしてくれ、金は出す」と言う。ルースはアレックスをただ見つめ、「何?」というアレックスに「わかってるでしょ」と答える。

それだけで、40年以上連れ添った夫婦には十分なのだ。この二人の間に流れる空気間がたまらなく羨ましい。

 

ひとつこの映画で不満があるとすると、橋を通行止めにした犯人との関わりだ。物語が始まってすぐ、橋にタンクローリーが置き去りにされるという事件があり、運転していたのがイスラム系の青年ということがわかると、誰もが9・11の再来を警戒する。アレックス夫婦の部屋の売却にもこの事件は暗い影を落とし、物語と並行してこの橋の事件が進んでいく。

 

この話の流れからして、例えば内覧の客に紛れて犯人がアレックス夫婦の部屋を訪れるか、そこまでの展開はなくても何らかの関わりはあるのだろうと思っていたが、それが犯人の投降を見てアレックスが部屋の売却をやめることを決意する…とだけにとどまるのが、少々拍子抜けではあった。

夫婦二人で決めた部屋の売却、そして姪の尽力を無駄にする理由としてはなんだか釈然としない感じはするが、内覧を始めた当初から積極的に売却を推し進める気になれなかったアレックスとしては、売却を取りやめるという決断の後押しをするきっかけが必要だったのかもしれない。

 

二人は子どもには恵まれなかった。けれど、子どもがいないからこそ、互いだけを見つめ続け、言葉に出さなくても分かり合える、愛情に満ちた信頼関係を築き上げることができたのだろう。

 

彼らが最後に下した決断が果たして正しかったのか、もしかすると、早々とその決断を後悔することもあるかもしれない。だが、例えどんな決断をしたとしても、どこに住んだとしても、もはや夫婦の間の信頼関係は揺るがない。彼らにとっては、それを確信できただけで十分だったのではないだろうか。

 

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凡庸で退屈なだけの作品

タイトルから期待したが。。ニューヨークに住みたいとか、ニューヨークの街に住みたいとかいう気持ちがあれば、このタイトルならとても見たいと思うはずです。でも、中身はどちらかというと期待はずれです。ストーリーの骨格をいえば、老夫婦がこれまでのいろんな人生を経験し、苦難を乗り越えてきたなかで、そろそろ人生の終局を迎えるころになって、40年も住んだアパートを手放し、もう少し新鮮な、あるいは、自分たちにあったマンションを探すために、今のアパートを売ろうとするのだが、結局、そんなことする必要がない、今のままでいいのだ、と気づくという作品です。まあ、ありきたりですし、実際、作品のシナリオをもありきたりです。ほとんど何も起こらない映画です。そして何より、ニューヨークの街のすばらしさとか、暮らしの素晴らしさとか、ほとんど、フィーチャーされてません。ごく普通の、他の映画でも良く見るニューヨークの風景描写にと...この感想を読む

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