生きていくことの意味を見出せないまま、月日が流れている不安の中で自分を持てあましている青年の心の揺れを鮮烈に描いた 「八月の濡れた砂」 - 八月の濡れた砂の感想

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八月の濡れた砂

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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感想数
1
観た人
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生きていくことの意味を見出せないまま、月日が流れている不安の中で自分を持てあましている青年の心の揺れを鮮烈に描いた 「八月の濡れた砂」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
5.0
演出
4.0

夏の湘南海岸。高校を退学した健一郎(村野武範)と清(広瀬昌助)は、不良学生に暴行された少女・早苗(テレサ野田)を救ったことから、その姉の真紀(藤田みどり)と知り合う。健一郎は、母に求婚している亀井(渡辺文雄)のヨットに、真紀と早苗を誘い、清と二人で襲おうとする。流れる汗。やがて銃声が鳴り響くのだった-------。

石川セリのアンニュイに満ちた、けだるい歌とともに、いつまでも心に残って忘れられない映画、藤田敏八監督の「八月の濡れた砂」。

この映画は、広がる青い空、目に痛いほどのまぶしさでギラギラするような陽光をはねかえす海。砂の灼熱感。あるいは、人の気配のない砂浜の風のそよぎ。打ち寄せる白い波。海辺のさまざまな表情が、きらきらとした映像で鮮烈に表現されていますが、この海の描写は、すなわち登場人物たちが抱いている焦りや、いらだちや、不安や心細さや、やりきれなさの心象風景となっているのです。

人生の戸口に立って、やりたいことは両手に抱えきけないほどたくさんあるのに、何から手をつけていけばいいのか、あるいは、きっかけを作ってくれる緒口がどこにあるのかが、つかめないという焦り。

自分なりの道は、何とか探し出したものの、その道の行く手を、無理解な大人たちの作り出した道徳や常識が、通せんぼしているということへの不満や怒り-------。あるいはまた、自分が本当にやりたいことは何なのか、生きていくことの意味を見い出せないまま、月日が流れている不安。そういった気持ちの揺れは、いつの時代でも、誰もが一度は経験することであろう。

その揺れ具合によって、胸からあふれ出たエネルギーは、さまざまな形となって噴出する。無軌道と呼ばれる、反社会的な行動となる場合もあるだろう。風の吹き具合によって、おだやかな凪の日も見せれば、荒れ狂う表情に変わることもある海や、その周辺は、若者たちのエネルギーの象徴としては、まさに的確な場所であるとも言えるだろう。

この「八月の濡れた砂」の場合、ストーリーを追って、筋書きを楽しむ作品ではない。一歩ずつ、大人に近づきつつある今、自分がどう生きていったらいいのかが、つかめなくて、自分を持てあましている青年たちの、その心の揺れを、くみとり感じる映画だと私は思う。

とりわけ印象深いのは、ラストシーンのヨットの場面だ。海を背景に、若者たちのエネルギーを描いた作品としては、石原裕次郎主演、中平康監督の「狂った果実」があり、ラストシーンの、ヨットの場面が、名場面として語り継がれている。兄と女の乗ったヨットに、モーターボートで激突していく弟。次の瞬間、カメラは空中に舞い上がり、茫々とした海のただ中に、白い澪を引いてさまようモーターボートと、静かに沈みゆくヨットの帆を、延々と映し出していた-------。

この「八月の濡れた砂」のラストも、その「狂った果実」のラストシーンに匹敵する名場面と言っていいのではないかと思っています。

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