完璧な漫画を描ける人
冨樫先生の異色の作品
レベルEは、週刊少年ジャンプで1995年から掲載された作品である。
怪奇現象や未確認生物といった題材を扱った短編形式の作品となっており、前に作者の連載していた「幽遊白書」とは、全く違う作風を見せています。
作者に対してさすがだなと思うのは、あえてジャンプのカラーから、作風を外しているなと思うからです。
冨樫先生は、少年漫画らしいものを描こうと思えば、作風を雑誌のカラーに寄せることができます。大ヒットを記録した、前連載の「幽遊白書」、そしてレベルEの後に連載されることになる、「ハンターハンター」がそれです。
対してジャンプらしくない作風で人気を博したのが、この「レベルE」です。
ジャンプのカラーに合わせる事ができず、不人気の作品が次々と打ち切りなってゆく中で、飄々と別ジャンルでのヒットをやってのける様は、「さすが冨樫先生」という風に思います。
なぜ王道に乗らないのか
この当時週刊少年ジャンプは、ドラゴンボールの成功から抜け出せず、バトル漫画を多く掲載していました。ドラゴンボールの天下一武道会のような展開を好み、編集者も漫画家に対し、鳥山明先生のような、等身の低い画風を推奨していました。
その結果、ドラゴンボール以前と以後では、ジャンプの掲載作品の画風も作風も変わったばかりか、似たような展開の漫画ばかりになってしまいました。
ジャンプで漫画家を志す人も、鳥山明先生を崇拝し、ドラゴンボールのような漫画を描きたいという人ばかりだったはずです。
しかしそんな中、レベルEはバトル漫画、スポーツ漫画といった「売れ筋」ではなく、異色のSF作品として人気を博しました。
いかにも少年漫画といった熱い展開、子供に配慮した読みやすさは一切ないにも関わらず、練りに練られたストーリーは、まるで一編の映画を見るようで目が離せません。
また、当時人気のあった元気な絵柄ではなく、書き込みの多い、人物デッサンのしっかりした、写実的な画方を用いています。どちらかといえば青年誌の絵柄に近く、背景も細かく書き込まれています。
しかもレベルEは週刊連載ですらありませんでした。
全ての絵をアシスタントなしで自分で描きたいという、作者の希望を尊重した結果、こうした連載形態となったのです。
冨樫先生は、なぜジャンプらしくない作品を描こうと思ったのでしょうか。
その理由は、幽遊白書の連載時のストレスにあったといわれています。
連載当時、幽遊白書もまた、前述の編集者からドラゴンボールのようなヒットを期待され、トーナメント形式のバトルを強要されていたと、作者の同人誌の方で明かされています。
冨樫先生としては、既視感のある作品作りに疑問が生じており、連載末期は描くことが苦痛だったのだそうです。
また、絵を描くことにも大変なこだわりがあり、アシスタントを入れることもストレスだったようです。
このように幽遊白書の連載で精神的に追い詰められてしまった先生にとって、自分の好きなようにできるレベルEは、リハビリのようなものだったのかもしれません。
しかし、これだけ今まで描いてきたものと違う物を世に出しても、変わらず面白いのはプロだと思います。
そしてこの連載後、「ハンターハンター」でまた少年漫画らしい王道路線に戻ってくるので、作風の降り幅の大きさには感心させられます。
人気の秘密は
ここまでレベルEという作品は、ジャンプの売れ筋から遠い作風の漫画であると説明してきました。
しかし、それでも今なおファンの中では人気があるのでしょうか。
まず一つには、先生の構成力の高さが理由にあげられると思います。
漫画の構成力、つまりネームですね。
いくら話が興味深いものであっても、絵がうまくても、ネームが面白くなければ、漫画は人気が出ません。
逆にネームさえうまければ、絵がそれほどうまくなくても、ありきたりな題材だったとしても、漫画は成立してしまいます。
コマ割りや効果の入れ方、人物の見せ方が冨樫先生はうまく、読んでいてメリハリがあり、一話一話に読みごたえがあるのです。
また、キャラクターも人気の秘密です。
よく少年漫画でキャラクターに感情移入させたい、好感をもたせたいという時に用いられるのが、人物の過去のエピソードを入れるやり方です。
ワンピースやナルトといった、人気の作品でもよく使われている手法ですよね。
しかし、レベルEはそういうことをやらずに、読者がキャラクターに感情移入できるようになっています。
というのは、作者が読者の「キャラクターを好きになってしまうツボ」をよく心得ているからだと思います。
小学生5人組にしても、男性に人気があるキャラクター→二人、女性に人気のあるキャラクター→一人、中学生に人気のあるキャラクター→一人、お笑い担当→一人、のように、役割を意識して構成されているのです。
また、キャラクター同士の掛け合いもうまいのです。
漫画のキャラクターが喋っているという感じがあまりせず、リアルに人の会話を見ている気分になります。
そういったところもキャラクターに親近感が沸き、作品を面白くしている理由だと思います。
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