知的で分析好きなフランス映画の魅力にあふれた、アラン・レネ監督の「アメリカの伯父さん」
アラン・レネ監督の「アメリカの伯父さん」は、いったいどんなことになるのだろうと大いに興味を抱かせる風変わりな始まり方である。まず、3人の主人公の生い立ちが紹介されるのだ。
ジャン(ロジェ・ピエール)は、田舎の金持ちの息子として生まれ、今はテレビ局で要職についているが、本当は政治家か文筆家になりたいと思っている。ジャニーヌ(ニコール・ガルシア)は、パリの労働者の娘で、旅回りの劇団に加わった後、家を飛び出し、小劇場の舞台に立っている。ルネ(ジェラール・ドパルデュー)は、農家の出身だが、父親と意見が合わず、家を出て、今では紡績会社の中堅幹部としての地位を得ている。
ごく当たり前の3人の人物たちであるが、その紹介の仕方は当たり前ではない。3人の経歴を交互に紹介し、しかも第4の人物として、生物学者のアンリ・ラボリ教授を登場させるのである。このラボリ教授は、行動心理学という立場から生物と人間に関する研究をやっている本物の学者だ。蟹をはじめ、さまざまな動物の生態も画面に挿入されて、人間をも含めた生物に共通する行動が分析される。
そればかりではなく、主人公たちが憧れた往年の大スター、ダニエル・ダリュー、ジャン・マレー、ジャン・ギャバンの主演映画のさまざまな場面も、しばしば挿入される。かつて「二十四時間の情事」とか「去年マリエンバートで」といった、優れていると同時に、非常に難解な映画を作ったアラン・レネ監督の作品だから、ありふれた作り方をしていないのは当然だが、だからといって、この作品は難解なわけではなく、実にわかりやすい。
ジャンは結婚して子供もいるが、ジャニーヌと同棲を始める。テレビ局はやめさせられ、文筆活動に入るが、なかなかはかどらない。ジャンの妻は、巧みな嘘をついて、夫を自分の家に連れ戻す。一方、ルネは常にライバルを意識して、息苦しい生活を送っている。ルネもジャンも、時々、胃や腎臓に刺すような痛みを覚える。本当に胃や腎臓を病んでいるのだが、その痛みを促すのは、ストレスからくるのだ。
そして、2年後、織物業界のコピー・ライターになったジャニーヌは、ジャンの妻が嘘をついて夫を連れ戻したことを知る。しかし、ジャンには、もうジャニーヌのもとへ戻る気はない。ジャニーヌが同席した場で、ルネのボスはルネに左遷を言い渡す。ルネの妻は、3人目の子供を宿していると言う。職場と家庭の危機で、ルネの胃の痛みは激しくなる。
「攻撃が外に向けられないと、より効果的な手段で自分自身に向けられる。つまり、彼は自らの生命を断つ」と、ラボリ教授は行動心理学の基本パターンを説明する。その学説どおり、ルネは自殺をこころみるのだった-------。
この「アメリカの伯父さん」という題名の意味するところは何だろう。これは、「アメリカへ行って一旗あげた伯父さん」のこと、つまり人間たちの理想であり、心の支えである。その伯父さんが戻ってきて、島に隠された財宝のありかを教えてくれる日を待ちながら、けれどそんな伯父さんが現われるわけではなく、人生を送っている人間の基本的な行動心理を、極めてユニークな方法で描いてみせた、実に知的で分析好きな、フランス映画の魅力にあふれた面白い映画だ。
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