異世界で巻き起こる事件のオムニバス
ある意味笑ってしまう
あらゆるファンタジー漫画って脈絡がないものだけど、これほど脈絡ないのは…びっくりだった。レオが「神々の義眼」を持つに至った経緯を簡単に明らかにし、しかもそれはただの偶然で、何の素質も関係性もない。秘密結社のくせにライブラの存在はすぐに明らかになる。敵の全容もわからず、いったいこれは…何と闘っているの…?
物語を読み進めていくとわかるのだが、これはニューヨークが一夜にして別の世界とつながる異世界と化し、そこでは人と人ではなくなってしまったものが共存しているってこと。化け物同士の争いもあり、化け物と人との争いもあり、化け物の中にも警察のような統率を図る団体がある。…もう起こってしまったこととして、受け入れられているとも言えるのだ。倒すべき悪の存在があるわけじゃない。お互いが脅威で、拮抗状態・人と人とが国同士で別れているのと同じようなもの。確かに人ではないために抜群の殺傷能力や生命力、キモさを持ち合わせているが、優しいやつもいれば、気性の荒いやつもいる、1つの自治区のようなものなんだよね。最初に堕落王フェムトが出てきて事をデカくするのかと思いきや、意外にもアホでほとんど登場せず。吸血鬼が恐ろしい存在であるとして登場し、最も強大な危険因子であるかのように語っておきながら、彼らと直接対決することは1回くらいしかない。吸血鬼のオーラを視すぎたレオの眼にヒビが入ったのに、しばらく療養してたら治癒してしまったところはさすがに吹き出してしまった…。
何より、技の名前が長すぎる。作者曰く、「技の名前を言ってから攻撃する物語」ってやつを描きたかったみたい。技の名前が長いうえになんて読むのかわからないのが致命的。漢字をカタカナで読ませすぎて、技名は誰一人として記憶できていない…。
明確なラストがない
10巻完結だっていうから、終盤は続きでいろいろと語ってくれるんだろうと期待していたんだよ。でも、結局最後までオムニバス。秘密結社ライブラに所属することになったレオと仲間たちのバトルとほっこりエピソードで仕上がってしまった。さすがにレオと妹の話を描いてはくれたけど、納得はいってないかな。堕落王フェムトとなんて、お店で仲良しこよしになっちゃったし。美味な食事を前にしては種を超えるらしい。
なにと闘っているかが非常にあいまいで、もしかしたらそこが面白いところなのかもしれないけどね。アニメ化もされていて、この世界観が好きな人がいるんだろう。確かに深―く肯定的に考えてみると、何か強大な敵がいるよりもまともな物語とも言えるかもね。リアルに、突如としてニューヨークのような大都市が人の知らない何かとつながる世界になって、人が対応のしようがなくて、受け入れざるを得ないものだったりして。わざわざ倒そうとするより、守るほうが先に立つし、お互いの存在を利用しあっているほうが効率的。あくどいものが存在するのは種が変わろうが同じっていうのも納得できるし、個体が分かれていれば同じものがないってことで、優しい気もするんだよね。
「彼らの闘いはまだまだ続く…」ラストというのは、要は打ち切りだろ?って思ってしまっていたけれど、それでいいか、と思わせてもくれるから不思議。個人的には、レオもそうだがクラウスの過去をオープンにしなさすぎて悲しいけどね。いちおうヒーローなのに、闇の中。ヒーローになった由来くらい、教えてくれたっていいじゃん。
能力は魅力があった
「神々の義眼」の能力は好きだった。普段「サザンアイズ」の八雲みたいな細目であるレオが、能力発動させるときに目を見開き、その眼にはなんかこう機械的な・怖いようで印象的な模様が宿る。…カッコいいよね。見通せるものの幅はものすごく広くて、ミクロのものを視ることもできるし、普通は誰にも見抜けない吸血鬼のオーラを視ることすらできてしまう。ライブラのメンバーでさえ見抜けない幻術も見抜き、さらには、近くにいる人の視界を奪ってコントロールすることもできるっていう…体のパーツで眼がいい事って、他の漫画だと視力が5.0ですとかその程度。それだけに、実に多彩な設定。そして、視力が良すぎるためにダメージも受けやすい脆さ、身体能力は人並みで役に立たないが、勇気と仁義はあって、尊敬できる部分を持つから、レオはいいキャラクターだったな。
ライブラのメンバーについては、何も深く語らず、説明されず、ただ乗り越えてきた場数がすごいこと、ライブラのメンバーはまだいそうだということがわかるだけだ。もう少し話してくれたっていいのに、その人となり・能力に関しては謎のまま…それもまたよかったりするんだろうか?一番謎なのは、あの囚人になっちゃっている仲間。血液と人本体では別人格で、2人が共存しているっていう…驚きの設定。血界戦線では、血を武器とすることが多いから、それが物語の核心・異世界とつなぐ何らかの根源なのだろうかと思っていたのだけれど…それを明らかにする気はないらしい。
ここから例えばすっごい吸血鬼にも匹敵するような何を得て闘いを挑み、人が世界を統べる道へと進む…なんてことはならないだろう。だって吸血鬼たちは現段階で人を殺そうと思えば殺せるような能力を持っていて、それでも異世界の根源からは出てこようとしない…関わる気がないのかもしれない。もしかしたら何かしら人の中での覚醒を待っていたりするのかな?結局あのヤクザから抜けた男を吸血鬼にしてやっていたところを見る限り、お互いのルーツにあまり違いはないんだろうと思うんだ。だから、争うことも無意味である可能性が高い。お互いを生かしておく必要があるんじゃないか?
妹とのエピソードが浅さ
ミシェーラとレオの関係性、ミシェーラのキャラクター、今現在の状態…全部が普通過ぎて、どうしようかと思った。おいおい、ミシェーラの眼も一瞬レオと同じですか?って思ったよ?また、レオに「神々の義眼」を授けたとされる存在が問いかけたことって、「どちらが見届けるものになるか?」という問いだったはず。それが、「奪うなら私から奪いなさい」と即答えられるのは、かなり不自然じゃないだろうか?視力を奪う存在だと、ミシェーラは知っていた?ただ偶然観光に来た、足の悪い女の子ってだけじゃなかったの?ただの存在じゃなかったのか、何かを学んで生かそうとしていたからなのか、それくらいははっきりしてほしかったなー。
妹の視力を奪って抜群になんでも見える眼を手に入れたレオが、彼女を治すためにこの果ての地へ赴いたならわかるんだよ。だけど、どっちかっていうと治療費に充てられていて、答えは見つかっていないし、その答えを握る存在にかすりもしない。レオなりに、この眼と付き合いながら、自分の守りたいものを守るために力を使おうとするのはいい事だと思うが、どう考えたって、エピソードが足りないと思う。
人と人ならざる者の共存がそこにはある
共存し、仲良くなれる人とは仲良くなる。異世界の中の核に触れるわけでもなく、人間の世界にたまに戻ってみるわけでもなく。常にこのぐちゃぐちゃな空間の中で生きているレオたち。あらゆる者同士の共存が当たり前のように営まれて、当たり前になっている。…慣れって怖いね。常識が覆されても、毎日目の当たりにしていれば慣れてしまう。人間って本当に怖いわ。
いろいろとツッコミたいところの多い作品だったが、何も知らない者同士が協力して助け合い、命を救いあい、悪事を叩いてそれなりの和平を築いている。人の中にも人知を超えた能力を持つ存在がいて、今まで隠れていただけ。世界がおかしくなったとき、そのような存在が登場することもあるんだろうか。また、世界がどうなっていくのかを見届ける使命をもらったレオは、何を見届けなくはならないのか?せめてどこかで明らかにしてほしいものだ。
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