血界戦線にチワワがかじりついてみた!
リアリティを感じさせながらも、異世界がやってきた現実世界!
この作品の舞台はご存知の通り、異世界と繋がってしまった都市、元ニューヨークである『ヘルサレムズ・ロット』です。
舞台を元ニューヨークとした点にリアリティを感じさせる、他にはない斬新さを見ました。日本の漫画なんだから日本が舞台でいいじゃないか、東京が舞台でいいじゃないかと考えてしまいがちです。しかし、敢えて誰もが知っていますが、身近になく、直ぐに見る事ができないニューヨークとした事によって、「もしかしたら明日にでも・・・」「今頃はもう・・・」と妄想をゴリゴリと掻き立てられてしまう、厨二病には堪らない状況を作り上げています。これが日本や東京を舞台とした場合、ふと外を見ると笑顔の小学生たちが走っており、犬と散歩をするおじさんがあくびをしながら歩いているといった、非常に平和な現実を目の当たりにしてしまい、やっぱり漫画だと感じてしまうわけです。そうならないよう、ニューヨークという舞台を選択し、もしかしたらと思わせる設定に胸が熱くなります。
また、世界トップクラスの大都市が異世界と繋がってしまい、人類は手が出せないという点から、世界滅亡は直ぐ側にあるんだと感じさせます。本編でも幾度となく世界滅亡の危機に瀕しており、それを救ってきていますが、そもそも舞台設定から既に世界滅亡に片足を突っ込んでしまっている状況なのです。その為、事件が起きる度に「ああ、世界滅亡の危機だ」とすんなりと感じ取る事ができるのです。神様的存在が住人を無双し始めたり、物凄い怪物を量産できる薬が全世界に流出しかけたり、そもそも異世界の住人が「世界乗っ取ろう」となった瞬間に世界征服されそうな存在ばかりなので、そりゃすんなり感じ取れると言われればそれまでですが。
しかしながら、そんな世界滅亡などという非現実的な日常を中々にリアリティある日常へと変えているのが、物語で取り上げられたり、少しだけ出てくる私たちの身近にある食べ物や娯楽などです。骨つき肉や魔獣の肉よりハンバーガーやお寿司の方が身近ですよね?携帯ゲームやチェスなんかは皆さんやった事があるんじゃないでしょうか?空想の産物ではなく、はたまたとても高価なものでもなく、ごくごくありふれた物が随所に散りばめられている事から非日常を日常にフラッシュバックさせています。
そんな事から異世界という空想を中々にリアリティある世界として独自に表現されていると感じます。
魅力的な登場人物、主人公は誰?
この作品の主要な登場人物を除けばほとんどが異世界人、というか人外の存在です。当たり前ですよね。しかし、主要人物も負けじ劣らずな人外っぷりを発揮する個性豊かなメンバーです。秘密結社の構成員ですから、それぐらいのキャラ付けは必要かと思いますが。
しかしながら、メンバーの個性豊かで強烈なキャラはある一人の登場人物によってより鮮明になっているのではないでしょうか。その登場人物は『レオナルド・ウォッチ』、通称『レオ』です。彼は他のメンバーに比べると平凡で凡庸で、この異世界と隣り合わせにある舞台においてどこまでも現実的な人間です。『神々の義眼』という特殊能力、というか特殊な体ではあれど、戦闘能力は皆無、大体大怪我をする、周りの様々なものに振り回される毎日を送っているなど、壮絶なる苦労人です。そんな彼の平凡さとの対比が周囲の人物の光る個性を輝かせています。敵、味方問わずに彼と触れ合う事でその性格や新たな一面が見えてくるのです。実際にほとんどの主要人物が彼と絡んでいますからね。
ここで、「彼が主人公でしょ?」とツッコミが入るかもしれませんが、私は是とも非とも言えると、中途半端に答えてみます。この作品は『レオ』が秘密結社『ライブラ』に入る事から始まり、第一部の最後も彼が己の無力感と戦う理由、そして非現実的な舞台で踊り続ける事を実感する事で終わっています。構成上、確かに主人公っぽく描かれています。しかし、この作品は彼を中心に回っているのか、主題を彼が解決、または実行していくのか。それは否でしょう。あくまでも彼は『ライブラ』の一構成員であり、補助的な役割を担っているだけの人物です。単行本の登場人物紹介ページでも三番手に位置付けられている事からも主人公だとは言えず、また、『レオ』の目的がこの作品の主題かと言われると、それも否と答えます。加えて読者の視点に立つ語り部でもない場合がありますので、そちらも完全ではないですが、否です。
では、彼は何者なのでしょうか?私は彼を読者の分身である登場人物だと位置付けています。主人公ではなく、一登場人物です。もしも、私たち読者がこの作品で、この舞台で踊る事になった場合、『レオ』のようになると描かれているのではないでしょうか。さらにそれを主人公とするのではなく、一構成員として物語の様々な部分に起用する事で、より読者を引き込むようにしています。
ではでは、主人公は誰なのでしょうか?単行本の登場人物紹介ページでは『ライブラ』のリーダーである『クラウス・V・ラインヘルツ』が一番手に来ていますが、彼でしょうか?私は『ライブラの構成員全員が主人公』だと考えます。物語をけん引しているのは構成員全員です。世界滅亡を阻止したり、日常生活を送っているのは構成員全員です。登場人物紹介ページは構成員のみが描かれています。仮に誰を主人公としてみてもしっくりくる・・・というのが、私の結論(暴論?)です。という事から、先に述べた『レオ』が主人公である事は是とも非とも言えるという説明に繋がります。
雑誌掲載状況から分かる人気漫画の証明!
この作品、『血界戦線』ですが、ジャンプSQ.19で長い間、巻末にて連載されておりました。私は一目見てベタ惚れだったので毎号の巻末掲載に戦々恐々としていました。何故なら巻末掲載は、ギャグ漫画や長期間連載されている漫画じゃなければ打ち切りになってしまう事が多いからです。しかしながら、そんな私の心配とは裏腹に連載は続いていき、2015年の刊行終了までの間、最も長く掲載され続けた作品でした。一つの雑誌を巻末で支え続けた、縁の下の力持ち的な作品です。
この作品は秘密結社『ライブラ』の戦いと日常の記録です。陰ながら世界を救うという作品のコンセプトが陰ながら雑誌を支えていた掲載状況まで反映されている稀有な作品ではないでしょうか。
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