過去のある女性弁護士と生命の危険にさらされる少年との、心のふれあいや絆を通して描く、ジョン・グリシャム原作の映画化 「依頼人」 - 依頼人の感想

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過去のある女性弁護士と生命の危険にさらされる少年との、心のふれあいや絆を通して描く、ジョン・グリシャム原作の映画化 「依頼人」

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.5
演出
4.5

アメリカ映画のジャンルの中で、キャリア・ウーマンと子供の心のふれあいや絆を描く作品がいくつかあります。

ジーナ・ローランズが演じた「グロリア」では、彼女によって救われる少年に、「グロリア、あんたはすごいよ。タフで、クールで、優しくて」と感嘆させるし、キャスリーン・ターナーがカッコいい女探偵に扮する「私がウォシャウスキー」では、殺される父親から預けられた少女に、「だらしのないおばさん」と罵られながらも、タフな行動力によって、結局は全幅の信頼を勝ち取ることになるのです。

このように、少年も少女も、女主人公を母親のように慕う結末は、彼女たちが、「愚かな男どもよ、ザマを見ろ」と言っているようにさえ見えます。

アメリカ随一の法廷サスペンス小説のベストセラー作家で、「ペリカン文書」などで有名なジョン・グリシャムの原作小説の映画化「依頼人」も、過去のある女性弁護士と生命の危険にさらされる少年という組み合わせです。ジョエル・シュマッカー監督は、この「依頼人」を撮るのにあたって、主人公になる少年を大規模なオーディションで選び出しました。

しかも、この少年を取り巻くドラマの中心人物は、個性的ではあるが地味な演技派俳優で固めて、中年のキャリア・ウーマンと少年との心のふれあいや絆を鮮やかに描き出しているのです。

11歳の少年マーク(ブラッド・レンフロ)は、8歳の弟リッキーと母親のダイアン(メアリー・ルイーズ・パーカー)との母子家庭で、生活保護を受けるほどの貧しさなのです。父親がアルコール中毒で、母親に暴力を振るうのが離婚の原因であったが、実は母親のためにマークが父親を追い出したというのが真相なのです。この事情が、ドラマの大きな伏線になっているのです。

ある日のこと、マークとリッキーは母親の手提げから煙草をくすね、そこで遊ぶことを禁じられていた森の中で、こっそり吸うことにする。ところが、目の前に車が止まり、運転していた髭面の男が排気管にホースをつないで自殺しようとしていた。制止しようと車に近寄ったことで、マークは事件に巻き込まれてしまいます。

この男はマフィアに雇われた弁護士なのだが、上院議員の殺害死体の隠し場所を知ったために、マフィアに命を狙われているというのだ。「これを知ったからには、お前もどうせ死ぬ運命さ。奴らが口をふさごうとするからな」という男から必死に逃げ出したマークとリッキーだったが、隠れている目の前で男は拳銃で自殺し、リッキーはショックで植物状態になり、マークは警察の尋問を受けることになる。

「森を歩いていてロミーの死体を見つけたんだ」。知るはずのない死者の名前がマークの口から洩れたことや、彼の指紋が自殺者の車から検出されたことで、マークが死体の隠し場所を聞いているに違いないということになる。そして、これは警察だけでなく、マフィア側の重大関心事でもあったのだ。

州知事選挙の立候補に意欲を燃やす連邦検察官ロイ・フォルトリック(トミー・リー・ジョーンズ)は、事件の解決を手柄にしようとマークを厳しく追及しようとする。一方、マフィア側もリッキーの入院している病院に張り込み、「FBIに話せばぶっ殺す」とマークにナイフを突きつけるのだった。

床に落ちていた広告から、弁護士を雇うことを思いついたマークは、あちこち奔走し、彼の全財産一ドルで依頼を引き受ける女性弁護士のレジー・ラブ(スーザン・サランドン)と巡り合うのだった。

マークを守るレジーの対応に焦ったフォルトリックは、マークに召喚状を出し、法廷で証言させようとするのだった。拘留したマークに、レジーには麻薬とアルコール中毒の過去があり、当てにならない弁護士だと吹き込んだりするのです。

こうした中、法廷で宣誓したら嘘はつけないし、真実を話せばマークだけではなく、彼の家族にまで危険が及ぶことを危惧したレジーは、マークに証人保護ブログラムの適用を勧めるのだった。それは、戸籍を抹消して人生の一切を捨て、別の土地で新しい生活を営む制度なのだ。

「君は麻薬とアルコールの中毒だ。真実を話せば殺される」と、レジーの忠告に従おうとしないマークを納得させるために、彼女は自分の過去を話すのです。恋人を医師にするために学費を貢いだこと、その男との間に二人の子供がいたこと、医学部を卒業すると同時に捨てられ、男は子供を連れて金持ちの女性と結婚してしまったことなど、彼女の荒れた生活の背景も苛酷なものだった。

それは、崩壊した家庭を支えてきたマークの共感を呼ぶのにふさわしい人生とも言えたのです。そして、ここにおいて初めて、一ドルの依頼人と女性弁護士との一体感が生まれるのだった。

この物語は、勧善懲悪で終わり、マーク一家は証人保護プログラムによって、新たな生活を求めて旅立つことになります。「もうマークはいないの。人生はこれからよ」とレジーは、マークの肩を抱くのだった。この万感の思いを込めての別れのシーンは、観終わった後、いつまでも心に爽やかな余韻を残す、見事なラストであったと思います。

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