好きなことを好きだと言って何が悪い
オタクって大変
特撮ヒーロー。それは日曜朝、某テレビ局で放送される、例のアレである。小さなころは、それに熱中し、ベルトを巻いてその気になってみたり、友だちと5人組戦隊を組んでレッドの取り合いをしたこともあるだろう。もしその特撮を好きな26歳OLがいたら…彼女の日常はいかに大変か。それを包み隠さず描いているのがこの作品である。
おそらくは、作者がめっちゃ特撮が好きで、オタクなんだと思う。とにかくオタクの習性がよく描き出されていて、オタクじゃないってことを必死に隠して生きている彼女のもどかしい毎日がおもしろいのである。主人公の仲村さんは、見た目がとても清楚美人系であるにも関わらず、特撮に関しての知識・熱量・かける時間とお金の量がハンパなく、同僚たちのお誘いを華麗にかわして今日も家へと直行する。大好きな特撮を見て悶えることが、彼女にとっての何よりの喜び。でもそれを公開してしまったら、社会人として終わってしまうかもしれない。好きなものを好きだと叫びたいのに、それが許されない空気がどこかしらにあって、いつ彼女の本性がばれてしまうか…それが楽しみになる。
もはやオタクも極めてしまえば何も恥ずかしいことなんてないはずなのに、やっぱり大の大人がキャーキャー騒いで、子どもの中ではしゃいでいるのは、それに興味を持たない人たちからしたらみっともないことなのかもしれない。特撮好き、というと個人的にはまだ受け入れられるのだが、アイドルのおっかけやってます、と言われると、それはちょっと…と言いたくなる。やはり趣味嗜好は人それぞれで、別に隠さなくてもいいんじゃないかなーとは思う。ただ、必死に隠して勝ったり負けたりを繰り返す、仲村さんの行動は実におもしろい。
オタクの心意気
オタクだからって、普通に生きているわけで、誰かにそれを否定される筋合いもなければ、もはやお互い様の域なんだろう。それが、「特撮が何よりも大事」「26歳女性」「独身」などのステータスから勝手に想像されて、ガサツなんだろうとか、生き方そのものが腐っているんだろうとか、言われる可能性があること自体が切ない。主婦だけど、プログラミングが趣味で、いろいろゲームをつくったりしているんですよ、だったらカッコいいのだろうか。なぜそれが許されて、特撮は許されないのだろうか。どうでもいいことかもしれないけど、趣味とか娯楽って人生において本当に大事で、それがあるから感動できたり、泣いたり笑ったりできるものなのだとしたら、それはその人にとって大切な生活の一部なんだと思うんだよね。
登場する特撮オタク、そしてその他のオタクたちも、自分が社会からは認められないかもしれない…って薄々は感じつつ、やめることもできず、殻に閉じこもって、一人で楽しむしかない。そこを、少しずつ、本当に少しずつだけれど、仲間を見つけて、またさらに楽しくなっていく。十分、大切な生命活動になっているよね。それが仕事へのバイタリティにもなっていて、消費意欲へも貢献している可能性がある。
そして何より、オタクだからって心が腐っているような言い方をされるのは我慢ならないところ。ヒーローがくれる言葉は、どれも前向きで、仲間思いで、目の前に立ちはだかる壁・困難に対し、打ち砕く勇気を与えてくれるもの。だから、ファンはその心意気をしっかり受け継いで、苦しいときにその言葉を胸にがんばるんだ。
オタクの仲間探し
とはいえ、やっぱりこよなく愛するものが少数派であり、それが大人になるほど少なくなってしまうものなのだとしたら、コミュニティの少ないところに属し続けるのは苦しいところ。仲村さんが初めて出会った大人の同志・吉田さん。彼女との出会いによって、今まで行けなかった場所にも行けるようになり、一人じゃないからいろいろと怖いものがなくなっていく仲村さん。勉強でも、趣味でも、仕事でも、仲間がいなくては何もできないってことだ。
もちろん、馬の合う・合わないもあるから、最初の歩み寄りは大変だった。連絡先を聞いてもいいのか、遊びに誘ってもいいものなのか…その人がどんな人かもわからない。そこをクリアさせてくれるのは、確かに特撮好きであるというところでつながっていると確証が持てるからであり、それだけで余計なところを考えすぎずに済んでいるのだと思う。共通点が一つでもあれば、そこからいかようにも変わっていけるのが人間のすごいところだね。
また、ダミアン、任侠さんなど、仲村さんが孤独に闘い続けてきた(楽しみ続けてきた)オタクの道に、加わってくれる仲間が次々とできるようになっていく。26歳。まだまだ若い。小学校の頃は、それが好きだと言ってもお母さんが認めてくれなかった。大人になったら自分のお金で買ってみせる。そのハングリー精神だけでがんばってきたけれど、仲間を得て、自分らしくいれる時間が増えていることが、何よりも素敵なことのように思う。
オタクだって恋をする
また、オタクだからって恋人ができないような話をされるのも我慢ならない。オタクはオタク同士でよろしくっていうのもムカつくね。好きな人の趣味を否定するような人間なら、それは好きじゃないってこと!と言いたいことだろう。子どもみたいに、一生懸命にそれに時間を費やすのって、けっこうかわいい事だって思う。さすがに、家族を持つようになれば、お金をそれだけに浪費することはできないだろう。それなら子どもを巻き込んでプロになってやってほうがずっといい。好きなものが常に生産的な何かを生み出せるわけじゃないのだ。そこには人の心を動かす威力があるが、確かにお金は減っていく。お金をつくる努力を誰よりもしなくちゃならないのがオタクなんだ。
11巻になって、仲村さんの同志・吉田さんに彼氏がいるっていう話になったけれど、女のほうが好きなことへの情熱が強すぎると、確かに恋人・夫婦関係を続けていくのが難しくなることも多そう。それはどちらかと言うと女のほうが関係を継続させていくうえでの“役割”が多いから。それを払しょくさせるには、簡単なのは同じ趣味を持つ人間と付き合うことになってしまう。オタクとは一つの道を究めまくっている人のこと。それに理解のある人と付き合うことが大切。大丈夫、世の中色々な人がいるわけで、あなたに合わせてくれる人はきっといる。
オタクの日々は続いていく
まだまだ終わらなそうなこの物語。こういう日常系の漫画はどこまでも語れるし、日々オタクとしてやらなくてはならないことがたくさんあるから、ネタには困らなそうではある。最近ではキャラクターも相当増えて、それぞれのネタも絡めていけば、20巻くらいは続くのではないだろうか。
当初は、オタクの日常すべてが闘いで、それに屈さず生きていくのが特撮オタクの生きざま!みたいなところがあった。だけど、仲間がめっちゃ増えて、むしろ仲村さんはかなり生きやすくなっちゃったなーって思う。いや、行きやすくなることは実に喜ばしいことなのだが、日常のもだえ苦しむ具合は最初のころのほうが妙にドキドキした気がする。いつまでも普通じゃないところを見ていたいのだ。些細なポイントでさえも彼女たちにとっては闘いであり、全力になることが怖いからこそがんばる姿に感動してしまうのである。
山あり谷あり、だけど必ず仲村さんは特撮の魂で乗り切ってみせる。そんな微笑ましい漫画であり、オタクのリアルな闘いを垣間見れる物語でもあるのだ。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)