『ガガガ』に見るオタクの孤独と周囲の無理解
この漫画、絶対に“来る”!
まだまだ世間的にはマイナーな『トクサツガガガ(以下、ガガガ)』であるが、筆者はこの漫画を支持している。宣伝によっては絶対にヒットすると断言してもいい。
『ガガガ』はとにかく「濃く」、そして「共感できる」のだ。あまりに一話一話の内容が濃すぎて、読むのにめちゃくちゃ時間がかかるほどだ。
また、ただ濃いだけではなく、一話一話、読みきりの形を取っているため、例えコミックスを追ってなくても雑誌連載を読むだけで話についていけるという良さがある(こういうところも特撮っぽい)。
一話ごとに特撮の教訓だったり、キャラクターたちのセリフの引用を練りこんだり、特撮オタクはきっとうんうんと頷きながら読んでしまうことだろう。ついでに、毒親に悩む女性たちの気持ちも代弁してくれるし、隠れオタクたちのハートもがっちり掴んでくれるという四弾構えだ。
つまり『ガガガ』の濃さとは充実感、満足感と言い換えることも出来るだろう。
濃すぎて新規ファンが入りにくいかもしれないという懸念はあるが、この調子でどんどん連載を続けていってほしいと思う。
隠れオタクは“わかつらい”作品。
先にも述べたが、この『ガガガ』は、特撮についての豆知識、特撮オタクのあるあるを楽しむことが出来、特撮マニアはとても楽しめるだろう。
だが、実は『ガガガ』にはもう二つ、明確なターゲット層がある。
その一つが、オタクであることを周囲に隠しながら生きている人々、通称「隠れオタク」の人々だ。
この「隠れオタク」にとって、『ガガガ』はたぶんすごい共感できる作品であろうと思われる。
主人公である仲村は特撮オタクであり、同時に隠れオタクだ。順調なOL生活を過ごし、特撮の妄想をしながら仕事をこなし、同僚にオタバレをすることを恐れながら隙あれば布教(自分の趣味仲間を増やす)しようとする。
こういうオタクは、かなり多いはずだ。かくいう筆者もそうである。
そもそも、オタクという言葉が市民権を得たのはほんのここ10年程度のことである。
今からおよそ数十年前、社会的に大きな衝撃を与えた殺人事件を引き起こしたMという男が、部屋に大量のアニメのビデオを持っていたことから、オタクという言葉が広く認知されるようになった(実際はこの男はアニメを大量には持っておらず、マスコミの印象操作という噂もある)。
以降、「オタク」という言葉は世間で完全にネガティブワードとなっており、「オタクだからいじめられた」「ゲームの影響で犯罪を起こした」「ゲーム脳はバカになる」といった、一種差別的な言葉が平然と社会全体で使われるようになったのである(個人的な話になってしまって申し訳ないが、根っからのゲーム好きである筆者はゲーム脳なんて言葉を生み出したヤツ、そして実態がわからないのにも関わらず無責任にワードを広めたマスコミ諸君を絶対に許さない)。
そんななか、オタクの人々は己の趣味を恥じ、肩身の狭い思いをしながら生きてきた。『ガガガ』の主人公、仲村も、オタバレ(オタクがバレること)しないように、会社では特撮趣味をひた隠しにしている。そのかわり、家に帰れば思う存分オタク生活を満喫している。
世間よ、これが隠れオタクだ! 世間一般が今まで知らなかったオタクの世界が、『ガガガ』では思う存分明かされているのである。
ニッチな世界に生きていたものたちの生活をオープンにする、そういった意味でも、『ガガガ』は有意義な作品であろう。
毒親に悩む女性たち
もう一つ、『ガガガ』のターゲット層として挙げられるのは、子供の趣味に無理解、かつ自らの趣味を押し付ける、いわゆる「毒親」に苦しめられている人々であろう。
これが実は、オタク(特に女性)の敵であることを知っている人は少ない。だが、確実に毒親はオタクたちの障害であり、これに悩んでいる人は実は多いのだ。仲村が隠れオタクになったのも、この母親のせい、というぐらい、ひどいものだ。
子供の趣味嗜好を理解せず、自分の趣味をひたすらに押しつけ、挙句の果てには子供の愛読している雑誌を燃やす……。実際はここまで行かなくとも、例えばおもちゃを勝手に捨てられたり、好んで聴いていた曲を聞き付けられ、「変な歌」と笑われた経験がある人もいるのではないだろうか(後半は筆者が実際に体験したお話しに基づいております)。
このような「毒親」が多いのも、実は社会的背景がある。
仲村の母親世代となると、例の『M事件』でオタクに対する嫌悪感は強い。マスコミのセンセーショナルな煽り文句に何よりも弱く、テレビの言うことを鵜呑みにするのが当たり前の世代だからだ。
そして、他人の趣味について無理解、かつ新たな情報を仕入れるのが苦手で、ネットよりも口コミとテレビが最強の、いわゆる情報弱者世代でもある。凝り固まった偏見を持ったまま50年ぐらい生きてきた人間の考えを変えることなど、そうそう出来ないだろう。
これは仲村の問題だけでなく、オタクの親たちの多くはこれだ。故に、オタクは親からの無理解という驚異にさらされながら、また肩身の狭い思いをして生きてきた。
そこを的確につく吉田さんのアドバイス。「(あの母親たちの世代に対する反論の)正解はないんです」という言葉。わかる~!! わかつらい~!!
『ガガガ』を通して、オタクの置かれた現状が透けてみえるが、同時に『ガガガ』はそれらの問題とどう向き合うかを教えてくれる。
まさしく熟練のオタク戦士のような、良き漫画であると思うのである。
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