真面目で優しいからこそ
何でもできる人間
関根くんは30歳。エリートで仕事ができて、憂いのあるフェイスと若干辛辣に思われる態度がツボで、友達に頼まれればほっとけなくて、一人暮らしでなんでもやる。こんな男をほっとく人がいるわけないんだけど、30歳にもなると若干高嶺の花的なポジションにいた。
そんな彼には紺野という同級生がいて、その奥さんに会うと背筋が凍るほどのぞわぞわした気持ちになる。何しろ細くて、白くて、ぽきっと折れてしまうんじゃないかって…ただ気持ち悪がっている関根くんだった。
彼は今までフリーだったのか?というとそういうことはなくて、やることはしっかりやっている。というか、女の方に襲われることがほとんどだったみたい…っていうのがイケメンで奥手な人の悲しいところ。時には家庭教師の女から、家庭教師の男から、2人組の女から、1対1でも求めるだけ求められて…最後は選ばれない。それはきっと、関根くんの中に何も入ってないからなんだろう・つまらないからなんだろうって自分で思っていて、その「何か」はどうやって作ったらいいのかもわからない。考え込んで、涙が止まらない関根くんが本島にかわいくてしょうがないし、30歳にもなってなんで「関根くん」と呼ぶのかって不思議だったけれど、「関根さん」とは呼べないくらい、とても幼く正直な気持ちがそこにあった気がする。
彼がとりあえず何かを始めようと手芸屋に通い始めたことが、何ともかわいいよね…なんでそれ?っていう驚きもあり、糸をつむぐことを通して、誰かとのつながりつむぐことを、早々に予想ができた。
求められることがあっても求めたことはなかった
関根くんが一生懸命今の自分について考えているとき、思い出される過去の記憶が本当に…かわいそうで仕方ない。本当に小さなころから、美少年であり大人しい性格だったからこそ、バスの中でおっさんにいたずらされるし、学生のときでも襲われるし、勝手に好かれて、勝手に自分から離れていく。ずっと一緒にいてくれるものはなくて、関根くんはずっと一人だった…その悲しさがもう、あの涙なんだな…って思う。つーか関根くんの親はいったいどうなっているんだろう?あまり注目されなかったな…もういないのかもしれないね。少なくとも、関根くんが頼れる存在ではないんだと思う。
そんな関根くんの心を感じ取り、いろんな意味でズレていることを瞬時に見抜いた如月サラ。さすがに自分が関根くんからアプローチをかけられているなんて気づけなかった…というか、こんな高スペックな人に自分が恋愛感情を向けられるはずないって一生懸命見ないふりをしていた。彼女はとにかく大人というか、別に経験が豊富とかそういうことじゃなくて、編み物が得意で、人に優しくて、手芸屋さんで働いている、というだけ。でも彼女には強さがあるし、関根くんがほしいものをくれる人だった。サラみたいに、関根くんが好きだ嫌いだとか関係なく、ただ幸せになってもらいたいと願ってくれる存在が、ずっと関根くんが欲しかったもの。いつも関根くんが誰かを幸せにすることばかりが求められてきて、関根くんの幸せを願ってくれる人はいなかった。そんな当たり前のことから遠ざかっていたことが、30歳になって理解できたし、そこからのイケメンの猛アプローチは…すごいフェロモンだった…。彼の憂いは常にサラの庇護欲を刺激し続け、「守ってやらなきゃ」という気持ちにさせたんだと思う。
編み物が得意でも愛は紡げない
単行本の最初に1ページ目にある「編み物の得意な紳士は、愛をつむぐのが得意でない。」というメッセージ。この物語はこの一言に尽きる。
関根くんはとにかく手先が器用で、構造を見ればだいたい予測ができるため、手順通りに作っていけば、確実に作品が完成する。完成させるまでが楽しくて、完成させてしまったあとは少し悲しい気持ちになる。そしてまた新しいものを編み始める。普通は失敗を重ねて少しずつ上手になるのに、関根くんは最終形態まで一気に編み上げることができるため、苦労の部分を共有できない人。最終結果に誰よりも早くたどり着くのに、それが答えとは限らないことや、努力しても手に入るかどうかわからないものなんだよね、人の気持ちというのは。
関根くんが一気に編んで、すぐほどいてしまう。でもそのほどいた糸をクルクルと手繰り寄せて、次に編むときに編みやすくしてくれるサラ。2人の関係は、まさにこの糸の関係と同じであり、ここの描写が一番好きだなーと思えるところだ。
関根くんが一生懸命本気でサラを求めても、サラは最後まで勘違いしっぱなしで、全然噛み合わない。精一杯の気持ちで迫ったのに、おちてくれない難攻不落のサラ。(おちないようにがんばっているだけなのだが)関根くんが自分からがんばって手に入れたいと思って、うまくいかなくて泣いて…でもやっぱりほしくてもう一度トライしていく様子に、キュンキュンしまくりなのだ。
勘のいいサラ
それにしてもサラは勘が良すぎるくらいですごい。関根くんのフェロモンにやられそうになりながらも、「こういう人ね」ってわかって接してくれる。変な人…って思ってても、彼の涙を見ていると、幸せになってもらいたいと願ってしまう。
彼女の優しさの根源はいったいどこなのかなーって思うのだが、やはりあのおじいちゃんマジシャンかな?関根くんには足りない、ほわほわーっとしたもの、温かな記憶。誰にでもあるようで、ない人もいるんだなー…きっと関根くんみたいな人も、世の中にはいるんだろう。律儀で、人の話をよく聞いていて、自分にできることをがんばっているだけなのに、なぜか利用されて、適当に捨てられて、あがめられたり、恨まれたり。いろいろなものがサラには透けて見えていて、すごい人格者だなって思う。
関根くんを責めるわけではなく、包んでくれているその温かさが、無防備な関根くんの涙を誘っていると思うよ。ラストの、
私もおそろいの気持ちだと思います
って…うますぎる!編み物の作品にかけて、「同じ」よりも「おそろい」と言ったほうが本当に2人らしい!そのあとの関根くんが何度も本当なのかと確認するところも、大好きすぎて性欲爆発するところも、何度も名前を呼んでしまうところも…かわいすぎだった。実に泣き虫の関根くんらしい、読者の誰もが納得するラストだったと思う。
大好きな人と
心から大好きだと思える人と結ばれて、もうこれ以上ないくらいの幸せを感じている関根くん。名前を読んだら返事が返ってくる。それがもう嬉しすぎるらしくて、追いかけて追いかけてやっと手に入れた、初めての人。こりゃーもう涙が止まらないよね。関根くんの見た目は、恋するほどにもっともっと輝いていっていたし、赤面したり、めっちゃ焦ったり、汗かきまくって走ったり。必死な関根くんがこれからサラと一緒にどんな人生を歩んでいくことになるか。きっと幸せだろうって思うけれど、続きがないのが残念過ぎる。
「関根くんの恋」の第5巻なんて、ものすごい大ボリューム。200ページを超える大作の中で、2人はついに気持ちを確かめあう。表紙でも、ヤサグレて編み物を始めたところから、徐々にハマってラストには手品と編み物の両方を操る関根くんが楽しめるし、もはや非の打ちどころがないというか。若干エロいのもまたオトナ女子がハマると思うし、これは何度も読み返して、そのたび関根くんの愛しさに心躍ることだろう。
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